一章四話木こりの仕事
いきなり現れた水色髪のツイテール少女に腕を掴まれ入室してしまった。
部屋には男が2人いた。
まだ挨拶を考えていてない!
「ん...」
そのまま部屋の真ん中あたりに連れられて少女はサッと引いていった。
いきなりピンチ!!落ち着けこういう時は、こういう時は...がんばるしかない!
「あ!今日からこ、ここで働きたい...と思って来ました!小岩井成といいます!よろしくお願いします!」
挨拶と一緒に深く頭を下げ反応を伺う。
「おー!新入りか!よろしくな!」
「やっと俺らも先輩ってわけだ」
「それじゃあこっちも自己紹介を」
「僕の名前はグローク。ここで、この仕事の監督見習いをしているよ」
「俺の名前はカイ!よろしくな!」
グロークと言った青年は優しそうな印象を持てる好青年のような雰囲気。歳も自分と近そうだが、ここの仕事の監督をしているならこれからの上司だろうか。
カイと言った男は、歳は俺と近く見える。元気で明るい印象を持てる、さっきの発言からここでの先輩であるのは間違いなさそうだ。
「ほら、ラミさんも挨拶しなきゃ」
グロークさんが手を俺を入室させた少女に向かって声をかけた。
「私はラミ、よろしく」
「皆さんよろしくお願いします!」
自己紹介、何とかなった...かな...?
「なあ、ナルって呼んでいいか?」
カイが話しかけてくる。
「いいっすよ」
「お、それじゃあナル、何で靴履いてないの?」
俺は今靴を履いていない、この世界にやって来た時地面は砂だった、砂ならその時履いていたスパイクで歩けるが、街に入ったら地面は石畳で、スパイクではスタッド(スパイクの歯)が削れてしまう。そのため靴を脱いで街を歩いていた。ココロの家に行った時女性ものの靴しかないからということで明日にでも買ってこようかと言われていたが、出てきてしまったので結局足にはソックスだけ履いてここまで来た。
「靴ないんですよね...」
「ぶふっ!何だそれ!まあ貸してやれる靴はないけど頑張れな!」
「はい!」
まあ、何だ、外で木こりする時はスパイクを履くから、街で履く靴を買うのが第一目標だな...
「皆さん注目!これから今日の仕事の説明をします」
グロークさんがそういうと部屋の真ん中に置いてあった、大きな机に皆が集まる。
机には街の外の地図が書いてあり、伐採するエリアについての説明がされる。
「新人のナルくんがいるから詳しく説明するね、街の外に生えている木は、放っておくとどんどん増えてしまうんだ。街の近くの木と外側に広がる木を伐採して運ぶのが僕らの仕事です。砂を吸って成長する木々だから、硬くて重い、それを砕くのがこの道具」
グロークはハンマーのような形状をしたものを机に置く。それの先を指差しながら説明を続ける。
「これは伐採用の砂術具でね、ここの丸い結晶に砂を吸い込ませて、木にぶつけると強い衝撃を発生させて木を砕くんだ」
「これのすごいところは、ちょっとの砂でかなりの硬度を誇るあの木を伐採を可能にする出力を出すことなのよ!汎用性も高く木の伐採以外にも採掘にも使われることもあると聞くわ」
割り込んで早口で話し出したラミに驚く。
「ガハハ!ラミっちはいつも砂術具ばっかりだな」
「ラミさんは砂術具のことをもっと知りたくてその素材として多く使われる木に携わる仕事をしに来ているんですよ」
「そうだったんですか」
「この辺りの地域では木を素材にした砂術具が多いからね、この道具も木を使ってできてるからね」
「ヘえ〜」
「この素晴らしさがわからないようね」
「すごいということしか、わからないっす」
「斧やツルハシでやってた時に比べれば随分便利になったって昔聞いたから、すげぇんだぞナル!」
ラミはフンと鼻を鳴らし満足げな表情で腕を組んだ。
ラミさんが褒められたわけじゃないけど嬉しそうだ。
「斧だけじゃなくてツルハシも使ったんですか?」
「木の幹がね外側よりもかなり硬いから、昔は斧だけじゃなくツルハシも使っていたそうだよ」
グロークは持っていた砂術具をこちらに渡す。
「少し使ってみるかい?」
「は、はい!」
砂が入った皮袋を部屋の隅から持って来てもらう。
ドキドキしながら皮袋の中に砂術具の先端を入れてみる。
........何も反応がないけど?
周りの表情を見てみると、皆が異様な光景を見ているような雰囲気だ。
「あの...これで振れば発動するんですよね?」
「いや、杖を砂につけたら先端が光るはずなんだけど...おかしいね?」
「どうなってるの?」
「少し貸してみてくれ」
グロークに砂術具を渡す。
「砂を吸ってない...故障か...?」
「かして!」
ラミがグロークの手にある砂術具を奪い取り、観察する。
「どういうこと...?」
手に持った砂術具をラミが砂入り皮袋に付けてみると、ピカッと一瞬青白く光る。
「故障じゃない...じゃあなぜ....?」
嘘だろ...?ワクワクしてたんだぞ、砂術具を使うの!
「ちょっとこれも使ってみて」
そう言ってラミは自分の持っている砂術具をいくつか渡して来た、そのどれも俺が使おうとしても反応が全くなかった。
「うそ、でしょ...こんなのおかしいわ!」
「誰にでも使えるはずなんだけど...」
「そんな....」
この道具が使えなかったらこの仕事はできるのだろうか、まさか仕事をする前にクビになるかもしれない...
「何か原因があるはずよ!心当たりは!」
「いえ...それは...」
原因と言われたらあれしかないだろう、違う世界から来たことが間違い無く原因だと思う。この世界の人と違うところといえば見た感じそれだけだ。
「ガハハ!ナルお前ってとことん変な奴だな!」
「カイさん...」
「そうだ、あれがあるだろ!斧とツルハシそれで今日は仕事すればいい」
「あぁ、確かにそうですね、ナルさんはガタイがいいですし、なんとか昔の道具で頑張ってもらって、大丈夫そうですか?」
「はい!」
砂術具が使えないのは残念だけど、なんにせよクビじゃないみたいでよかった...
それから行く場所の説明を受けて、皆で今日の作業場に移動することになった。
街を出て森をかなり歩き、森の外まで来た。
「森の外は砂獣が出る可能性があるので十分気をつけてくださいね、何かあったらすぐ逃げてください。砂獣は体が大きいので森の奥まではこれない個体が多いですから落ち着いて逃げてくださいね」
もしかして砂獣が出るからこの仕事の成り手がいないのではなかろうか、そりゃ命の危険を感じる仕事からは逃げ出す人も多いよ...
「それでは作業を開始してください、木を倒したらしばらくは置いておくので、ジャンジャン倒してくださいね」
「なぜ置いておくんですか?」
「木の枝がですね倒してすぐは固すぎてどうしようもないんです。なので一旦切り倒して数日経って折れるようになってから運びます」
「ほぉ」
話を聞いていると横からキィン!と大きな音が聞こえた。ラミが木を切り始めたようだ。
ラミは砂術具の先端を砂につけるとバッティングポーズになり、フルスイングで木に叩きつけた。すると、砂術具の先端が衝撃に反応して、爆破のようにも見える衝撃波を放つ。触れた部分の気が木端になり、木の5分の1ほどが削れている。
ありゃ便利だなあ、俺も使いたかったよ...
使えないものはしょうがない、斧とツルハシで頑張りますかあ。
近くにあった木を切ろうと思い、背負っていた斧を手に持つ。
この辺りの木々は青い色をしている、これも砂の影響だろうか。樹皮は硬度を示すように光沢している、木の表面を触れてみると少し冷たいような気がする。
よし、やるか。
斧を両手で握り、思いっきり叩きつける。ガンッ!と大きな音を出して木が砕けた。驚いたことにラミが砂術具で一回叩いた時より深く斧が木を砕いている。
ラミの力が弱いのか...?おかしい、木こりに特化した道具に人力で勝るなんて、何か理由があるはずだ、今のところ詳しい訳はわからないけど、もしかしてこの世界に来たことで筋力が増強してるとか....?うっひょーー!力が強ければそれだけ体ぶつけた時に勝てるじゃん最高ーーー!まだ確信はないけど来たばっかの時ココロを追っていた男たちを吹き飛ばせたのってそういうことだったのか!いやまだわかんないけどさ。取り敢えずは筋力が増えたと思っておこう。
「す、すごいねナルくん...身体が大きいと思ってたけど一振りでそんなに...」
「す、すごいですか!やっぱり!」
「う、うん。力強すぎ」
「力強い、これほど言われて嬉しい言葉は他に少ししかない...最高です」
「そ、そうなんだ、まあ頑張ってくれ」
グロークはそういうと他の仕事をしにどこかへ行ってしまった。
こうも褒められては頑張るしかない!力強いか...いい響きすぎる、じゃんじゃん木を切るぞー!
木を切り始め数時間が経ち、かなりの数切り倒せたと思う。
最初は斧で木の幹まで砕いて、ツルハシを使って幹を砕いていたが、最後の方では斧だけで伐採できることに気付きペースがさらに上がった。
カイやラミと比べて、同じかそれより少し多く伐採できている、やったね。
「休憩時間でーす!こちらへ集まってくださーーい」
グロークが大声で呼んでいるので、皆が集まってくる。
「皆さん、今日は中々いいペースですね、新人さんが来て張り切っているのかな?ふふふ。さあ、残りの時間も頑張るため、しっかり休んでくださいね」
「ナル!やるじゃないか!斧1本であれだけ切り倒すなんてお前スッゲーな!」
「おかしいわ!砂術具も無しにあんなに切り倒せるなんて!」
「いやぁへへ」
「筋力だけで人類の叡智の結晶たる砂術具を凌駕するなんて、ありえないわ!」
「えっへへ」
ラミはだんだんと怒りからか顔を真っ赤にして膨らんだ。膨らんだと言ってもほっぺただけど、小さい子が怒っている、愛らしい姿のようにも思える。
「ニヤケすぎ!顔キモい!ありえない!」
えっ、そんな鋭い言葉も投げかけられるんですか、ショック!傷ついちゃった!さっきまで褒められてたと思ってたけど急な切り返しの切り口の鋭さにメンタルに浅からぬダメージを負う。
「キモい...キモいか...」
「うっ、き、キモいは言い過ぎたかもだけど...その、ごめん」
「大丈夫」
「はっはっは!まあまあ、2人とも仲良くな!」
カイが俺とラミの肩に腕を回す。
カイさんすげー陽の者。なんて眩しい対応なんだ。少し自分の陰パワーが薄くなっていく感じがする。
明るい人がいるっていいな、部活ではみんなライバルって感じだった、まあ喧嘩ばっかりってわけでもないけど、自分には持ってないものを持っている眩しさに目が眩む。
眩し砂に目を細めていると、砂漠の遠くに何か動いているのが見えた。
「あれなんですか?」
「ちょっと私の話はまだ終わって...あれは...」
「まずい、砂獣だ!逃げるぞ!」
遠くで砂が爆ぜた。砂中から飛び出した砂獣はサメのような姿をしていた。街中で運ばれていたのと同じ姿だ。頭から胴体までは茶色腹部から尾までが、骨でできている、骨の中には赤く光る球が鈍く暗い光を放っている。
カイが俺たち2人を立たせて、走り出す。
砂は走りずらい、今はスパイクを履いているがそれでも足を砂に取られる。
「きゃ!」
ラミが後ろで転んでしまった。
その隙に砂獣は迫ってくる。
まずい!追いつかれる!
大きく口を開けた獰猛な砂獣が迫る恐怖からか、ラミは中々立ち上がれない。
行くしかない...!
次回砂獣退治