一章第一話タックル狂い
初めまして!楽しんで書きますので!よろしくお願いします!
一瞬の瞬発力で前に出る。
その瞬間一気に集中し、視界はスローに。ボールを持った相手選手が自分の間合いに入る。
体を低くする。膝を落とすと言うよりバネを力強く押し反動を溜めるように深く深く体を落とす。
限界まで力を込めた踏み込みから、放たれるタックルの衝撃によって相手選手の前進を止める。
すでに相手の足腰に回されていた腕、頭、首によりホールド、捕まえる。
さらに足の力を込め相手を倒す。
これまで何度も何度も繰り返した行為、タックル。
たとえどんな世界になったとしても俺はタックルをやめない。そんな自信がある。
この物語は、このタックルに魅せられた1人の男の物語である。
ジリリリリリリ!
アラームの音が聞こえる。
この音は...目覚ましの...
俺は腕を動かし、音の出どころを探ろうとし、志半ばで微睡に...
「こらーーーー!成起きなさーーーい!」
「はーーい...」
成は俺の名前だ、俺を起こそうと声をかけたのは母だと思う。
気怠い体をのそのそと動かし、布団から出て目覚ましを止める。
グッと伸びをして顔を叩き目を覚ます。
壁にかけた制服を着て、収納を開ける。
収納には部活で使う服が入っている。
ヘッドキャップ、厚手のラグビージャージ、短パン、スパッツ、ソックス、それらを取り出し袋に詰め、部屋を後にする。
「遅いわよ成」
「おはよぉ」
「ほら朝ご飯冷めちゃうよ、さっと食べな」
「あーい」
返事の後大きなあくびが出る。
暖かい朝ご飯を一気に胃に掻きこみ、荷物を持って靴を履く。
玄関の干してあったスパイクをシューズケースに入れて手に持ちドアを開ける。
「行ってきまーす」
「いってらしゃいー!」
遠くから聞こえる返事を後に、欠伸をしながら学校へ登校する。
今日はやけに眠いなあ、ちゃんと8時間くらい寝たんだが...疲れてるのか...?いつもと特段変わったことはしてないのに、そう考えている間も欠伸を何度もしていた。
登校中何度も欠伸をするこの男の名は小岩井 成、高校3年生のラグビー部所属の男だ。
この男は好きなことはタックルだ、タックルで相手を倒すこと、に至上の喜びを見出す狂者である。
しかし狂ってしまうのも仕方がないのだ、タックルと言うものの魅力に取り憑かれてしまったのだから...
電車に揺られること1時間、駅から出て少し歩いたところに、学校はある。
教室に入ると自分の席が男2人に占拠されているのが見える。
太った男と背は低いが少しガタイのいい男の2人が俺の席を占拠し話をしている。
「俺の席だぞ、かわれ」
「おっす成おは」
「おはよう成」
おっすと話しかけてきたのが太っている方ヒロシ、おはようと話しかけてきたのが少しガタイのいい方のタケルだ。
「なぁ、今日は走る練習多いかな?」
「さあ?どうだろうねえ?」
「何でもいいさタックルさえできれば」
2人は目を合わせて呆れたようにため息をつく。
「なんだよ」
「そんなにタックルが好きかい?」
「あたりまえだ、体をぶつけるまでの瞬間の攻防!そのスリル!自分よりでかい、強い相手を捉え、時には力で押し返し、時には巧みに技術を使い、倒す瞬間はマジで最高だ!ほんっとうに爽快だね!」
待っていましたと言わんばかりの熱弁に、ヒロシはやれやれ首を振り、タケルは可哀想なものを見るような目で見ながら話しかけてくる。
「そんなに好きかい?」
「あたりまえだ」
「そりゃ俺だって嫌いではないけど、そこまで熱く語れるほど好きではないなあ」
「想像してみてくれ!タックルで勝った時のこと!」
次々と捲し立てるようにタックルの素晴らしいところを上げようとしたところチャイムがなり2人ともそそくさと自分の席に戻って行った。
時は少し経ち、放課後部活中。
成は燃えていた、タックルの練習が始まったからだ。
成はスパイクの紐を締め、マウスピースを口に入れ、ヘッドキャップをかぶっている。
成は自分の顔を両手で叩き、肩を拳で殴る。
ルーティンのようなものだ、痛みを与えることで恐怖を和らげる。
いつも体をぶつける前に気合いを入れるために行なっている動作だ。
コーチの集合の合図が出る。次の練習の説明がされ体をぶつける瞬間が近づこうとしていた。
否応なく引き出される高揚感と緊張感に口元が緩み口角が上がる。
コーチの号令と共に散らばり何度も繰り返したタックルの練習が始まる。
対面の相手は大きく強いチームメイト。
仲間だとしても今は倒さなければいけない相手だ。
(負けたくない...!)
マウスピースをギリリと噛み笑顔を作る。
笛が鳴る。
開始の合図だ。
一瞬の瞬発力で前に出る。
その瞬間一気に集中し、視界はスローに。ボールを持った相手選手が自分の間合いに入る。
体を低くする。膝を落とすと言うよりバネを力強く押し反動を溜めるように深く深く体を落とす。
体が相手にぶつかる瞬間相手選手が消えた。
消えてしまったのは、相手選手だけではない周りの全てが一瞬にして消えてしまった。
タックルのインパクトをぶつける対象をなくした体は全力で踏み込んだことによって数メートル先にまで吹っ飛び転がる。
転がりながら地面がグラウンドの硬めの土から、さらさらとした砂漠のような砂に変わっていることに気づく。
転がり止まってすぐに立ち上がり周りを見渡す。これはラグビーの癖だ。
常日頃から倒れたらすぐに立ち上がり動き出すよう練習しているからである。
「何だ...これ...」
驚愕の顔で周りを確認する。
地面は砂、そして不自然にも砂の上に青々とした木が生えている。
全方位そのような木と砂で埋め尽くされている。
「ここは森なのか...?」
困惑の表情で固まっていると近くで悲鳴が聞こえてくる。
悲鳴の正体は少女だった。
少女は怪しい風体の男3人に追われているようだった。
(さっきまで学校のグラウンドで練習していたのになぜ、こんな状況に!何がどうして!)
頭をたくさんの考えが巡り混乱は加速する。
しかし体は動き出していた。
男3人に対して1人で挑む事への恐怖が生まれるが。走りながら肩を叩く事でその恐怖を消す。
口角が上がるのを感じながら、踏み込んだ、砂でうまく踏み込めないかと思ったがなぜか地面の砂から強い反動をもらい、男のうち1人にヒットする。
ヒットとは体をぶつける事だ。
ラグビーでは、攻撃側つまりボールを持っている方が、アタックでヒットでぶつかりディフェンスを突破しようとする。
ディフェンスはそれを止めて返すためにタックルをする。
ヒットにも色々テクニックがある、だがそのテクニックはタックルを交わしたりずらしたりする事で前進するためのテクニックが多い。
どうしても避けたりずらしたりすることによってしまうのだが。
今のヒットでは相手の進行方向の斜めから突っ込むことによって、こちらの力がまっすぐ全力なのに対し、斜めからしか対応できないことによって力の強弱で勝てないようにする不意打ちのような当たり方である。
体の進行方向でないところからぶつかることによって相手を弾き、1人を倒すことで後ろの2人の足止めになるようにぶつかった。
「おぶぉッ...!!」
驚いたことに、怪しい風体の男3人は成のヒットで地面に転げるだけでなく、バウンドして10メートルほど吹き飛んでしまった。
(え!?吹っ飛びすぎでは!?!?)
(あんな衝撃受けたら死んでるかもしれない!)
瞬間跳ねる心臓、小走りで3人の男のそばに駆け寄ろうとするが、衝撃で立ち昇った砂埃で視界が悪くすぐに見つからない。
汗が額からこぼれ落ち拳を強く握り、俯いた成だったが、その時男3人が起き上がり逃げようとする姿を発見した。
「逃げるぞ!」
「わかった」
「了解」
成はほっとして胸を撫で下ろす。
「生きてた...!よかった...ふぅ...」
落ち着き、息を大きく吸ったことで体に異変が起こる。
突如全身に激痛が走り、その場に倒れ込んでしまう。
「がぁあああ!!!」
全身に広がる痛みに悶え苦しみ叫ぶ、じわじわと麻酔が広がるように痛みは末端まで広がっていく。
まるで毛先まで痛覚が通っているかのように錯覚するほどの痛みに意識が飛びかけるが、根性で意識を保つ。
意識を失えばそのまま死んでしまうような予感があった。
(死んでたまるか!!!)
心の中でそう強く思った瞬間、体が薄っすら白い光に包まれた気がした。
内側から何かが砕けるような音、それと同時にいつもより感覚が鋭くなっているのを感じた。
感覚が鋭く広がっていくと同時に痛みも解消されていく。
足音が聞こえてきた、それと女の声もだ。
怪しい男達に追いかけられていた女が、すぐそばまで来ていた。
「大丈夫ですか!?今助けます!!」
助けてくれるのか...その言葉に安心したのか、先ほどまでの痛みで限界だったのか成は気を失ってしまう。
次回、魔法!