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当て馬令嬢は、吟遊詩人の歌声に魅せられて理想の恋を手に入れる  作者: 石月 和花


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22/27

閑話. エルとアル

 時は少しだけ戻って、マグリットがウィルフレッドとファーストダンスを踊っている頃、会場の隅では、アルバートとエリオットが睨み合っていた。


 きっかけは、エリオットが困惑しているマグリットの気持ちに寄り添わず強引にヴィクトールとの仲をとり持とうとしたので、アルバートがそんなやり方に反感を持った事であったが、この二人は長年わだかまりを抱えていて、ついには今まで口にしなかった不満をお互いにぶちまけていたのだった。


「アルバート!!俺は昔っからお前の事が大嫌いだった!常にお前と比較されて、大人から落胆されるこの気持ちが分かるか?!」

「そんなの分からないし、それをこちらにぶつけるのはお門違いだ。君のことを蔑んだ大人に対して向けるべきだろう?」

「だからそういう理路整然な所が嫌なんだよ!どうせお前はいつも正しいよ!何でも出来て、何でも知ってて、何でも持っているもんな!」

「僕が何でも持っているだって……?!」 


 その言葉に、アルバートの目の色が変わった。


 アルバートは、昔から何でも出来た。勉強も運動も、何をやっても人並み以上に出来るのが当たり前だったし、商才もあるので彼の興した事業はいつも成功していた。

 しかし、だからと言ってアルバートが何でも持っているかと言うと、そうでは無かった。彼がどんなに望んでも手に入れられない物があったのだ。


「あぁ、そうだろう?お前は何だって手に入れるじゃないか。その持ち前の小狡さで。そんなお前と常に比較され、次期公爵なのにと陰口を叩かれて、こっちがどれだけ惨めだったか。上から見下すのはさぞや気持ち良いだろう。」

「……よく言うよ、人の気も知らないで。」

「何だと?!」

「惨めだかなんだか知らないけれど、それでも……シゼロン次期公爵はお前なんだよ。それは覆らない。どんな事があっても、血統が全てじゃないか。お前が公爵で僕は侯爵なんだよ。絶対に。どんなに努力したってそれはどうすることもできない。」


 アルバートは、少し悲しそうな目で真っ直ぐにエリオットを見返してそう言った。

どんなに本人が努力したって、生まれ持っての家格はどうにも出来ないのだ。


「それは……」

「傲慢なのは、そっちじゃ無いか。」


 アルバートの厳しい言葉に、エリオットは思わずたじろいだ。自分の方が優位だなんて思ってもみなかったのだが、彼の言う通り、家格は自分の方が上なのだ。それは揺るぎない事実で有り、今後も変わる事はないのだ。


「けれども、お前の方が優秀だと陰で笑われているのは堪える。ずっとだ、ずっと!!」

「それくらい我慢しろよ!聞き流せよ!僕だって周囲から悪魔だとか魔王だとか言われて酷いものだぞ?!そんなのいちいち気にするなんて馬鹿馬鹿しい。」

「……」


 アルバートの言葉に、エリオットは遂に何も言えなくなってしまった。アルバートの言っていることは正論なのだ。


 黙り込んでしまった二人の間に、暫く沈黙が流れる。そして、先に口を開いたのはアルバートの方だった。


「まぁ、お前の気持ちはよく分かったよ。

僕に嫉妬してたんだね。それは可哀想だなとは思うけど、僕の知ったこっちゃないし、これからも自重する気もない。問題は、これから、どう向き合っていくかだ。否が応でも僕たちは従兄弟だ。この先もずっと、ずっとその評判はついて回るだろう。」


 アルバートは溜息を吐きながら静かにそう告げると、エリオットの反応を伺ったのだった。


 エリオットは苦々しげな表情で、アルバートをじっと見返していた。正論に絡め取られて、いつも何も言えなくなってしまうのだ。

アルバートはそんな様子のエリオットを察すると、再び大きくため息を吐いたのだった。


「地頭の良さとか、要領の良さとか、僕と比べられて敵うわけないのは当然なんだからさ、そこはもう諦めなよ。」

「くそっ、お前のそう言う所が大嫌いだ。」

「エリオットの事を、好き勝手言って勝手に評価してくる奴らを見返したいのならさ、僕を利用してやるくらい思いなよ。」

「いや、無理。お前を利用できるとは思えない。」

「まぁね。僕もただ利用されるつもりはサラサラないけども、エリオットが諦めて僕には敵わない現実受け入れたら、僕らはお互いに歩み寄ってもっと仲良くなっても良いと思うんだよね、昔みたいに。」

「お前、それで歩み寄ってるっていうのか?!」

「僕としては十分に。」


 アルバートは、悪びれる様子も無く堂々とそう言い切った。そんな全くぶれる事なくふてぶてしいままのアルバートの様子に、エリオットは悔しいと思いながらも、何故か今まであった苛立ちが消えて、心が軽くなっていくのを感じた。


(こいつはずっと変わらない。自重もしない。これからもずっとそうなんだ。それだったら……)


 ずっとずっと胸の内に閉まって、一人で抱えていたこのわだかまりを、言葉に出してぶつけてしまえば、何とあっけないものなのか。


 エリオットは、深い溜息を吐くと、キリッとアルバートを見返した。


「そうだな……お前と張り合っても敵わないもんな……よし、これからはもっと仲良くしよう。従兄弟なんだし。」

「うわぁ、そんな事微塵も思ってないって顔に書いてある。」

「ああそうだよ。そう簡単には長年燻っていた劣等感は拭えないよ。けれども俺は知っている。お前は身内には本当に甘い。だからそんなお前の甘さを、俺が利用してやるんだ。」


 そう言ってスッキリしたような顔でニヤリと笑うエリオットに、アルバートは一瞬毒気を抜かれた様に目を丸くしたが、直ぐに軽く咳払いをすると、ジトっとした目を彼に向けた。


「けれども、お前がマグリットの事を利用しようとしていたのは許せないな。そこは、ハッキリさせておこう。彼女の気持ちを蔑ろにするんじゃないよ。」

「ヴィクトールはいい奴だ!マグリットにはとても良い縁談だと思っている。政略的にもこんなに良い話は無いんだよ!従姉妹の幸せを願うなら、後押ししてやるのが親切だろう」

「何が幸せかは本人が決める事だろう?お前のはマグリットを政略の駒にしてるとしか思えないんだよ。」


 最初の頃より幾分か雰囲気は柔らかくなっているが、それでもアルバートはエリオットを咎め続けた。


 その時だった。


「お兄様……とエルお兄様、一体何を揉めているのですか?」


 同じ夜会に参加していた妹のアイリーシャがアルバートを探しにやって来たのだ。


 すると、彼女の姿を見たエリオットが、ここぞとばかりにアイリーシャを指差して、アルバートに詰め寄ったのだった。


「お前だって自分の妹を政略結婚させてるじゃないか!」

「それはちが……」

「エルお兄様、それは誤解です。」


 しかし、アイリーシャがエリオットの言葉を否定したのだ。それから彼女は少し恥ずかしそうに、俯きがちに言葉を続けた。


「私がその……ミハイル様をお慕いしていましたから……」

「本当に?騙されてない?アルバートに良い様に使われていないか?!お前は昔から純真だから。知らず知らずの内にアルバートの計略に利用されていないか心配なんだよ。」

「お兄様は優しくていつも私の事を気にかけてくれてますよ。ミハイル様との事だって、お兄様は親身になってアドバイスを下さったのですよ。」


 きょとんとした顔で首を傾げるアイリーシャの様子に、エリオットは物言いたげにアルバートの方をチラリとみると、彼は少しバツが悪そうに目線を逸らした。

 アイリーシャとミハイルはお互いを想いあっては居たが、この二人の婚約に、アルバートの思惑が無かったかと言ったら全面的にそうだと言い切れないのだ。


「……アイリーシャ、お前はもっと人を疑いなさい、兄だからってアルバートの事信用しすぎだ……」

「僕はリーシャを悲しませる様な事はしないけれど……しかし、リーシャはもっと人を疑いなさいって意見には、悔しいけれどエリオットに同意するよ……」


 意見が珍しく一致した所で、二人の毒気は完全に抜けてしまった。

 お互いに苦笑すると、少し気まずそうにアルバートは口を開いた。


「まぁ、エリオットがちゃんと従姉妹たちの事を自分なりに心配して考えている事は分かったよ。でも、兎に角、本人の意見をまず聞かないといけないよ。勝手に話を進めるんじゃない。」

「あぁ、分かったよ。お前のやり方を参考にするよ。まず本人を丸め込まないとな。」

「人聞きの悪い事を言うな!」


 してやったりと言った顔でエリオットがニヤリと笑うと、アルバートも観念したかの様に苦笑した。


 二人の間にあったわだかまりは、すっかり消えていて険悪な雰囲気はもう微塵もなかった。


 そんな柔らかい雰囲気の二人を見るのが随分と久しぶりで、アイリーシャは嬉しく思いながら兄たちのやり取りを見守った。


「嬉しいですわ。お兄様たちが昔の様に仲良くしていて。」

「「どこが?!」」


 アイリーシャの言葉をエリオットとアルバートは同時に否定すると、二人はバツが悪そうに顔を見合わせて、力が抜けた様に笑ったのだった。


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