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17. マグリットの葛藤

 広場で詩人の歌を聞いてから十日程経ったある日、マグリットはアルバートと共に、ヴィクトールが主催するノルモンド公爵家の夜会に参加していた。


「この夜会、結構色んな人が参加しているわよね。アルはこんな隅っこにいて良いの?貴方の大好きな社交の場なのに。」

「僕に助けを求めたのは君だろう?僕が君から離れたら意味が無いじゃないか。」

「それはそうだけど……」


 この夜会はヴィクトールが自身の人脈を見せつけるかの様に幅広い様々な人を招待しており、社交の場として新しい交流を築くのには持ってこいの場であったが、そんな華やかな雰囲気の中でマグリットは、会場の隅の方で居心地悪そうに佇んでいた。


 気乗りはしていなかったが、参加しない訳にはいかなかったのだ。もし欠席してしまったら、自身について回っているローランとの件や、最近やたらと絡んでくるヴィクトールとの仲に関する噂話が有る事無い事尾鰭がついて余計に酷くなってしまう事が予測できたから、出席せざるを得なかったのだ。


 そして、少しでも自身に降りかかるダメージを少なくする為に、従兄弟であるアルバートに同伴を頼んだのだ。

 彼が側に居れば、下手にマグリットの事を弄ろうなどと、誰も考えないから。彼はナイトとしてこの上なく最適なのであった。


 しかし、気乗りしない夜会である為出席はしたものの、マグリットは夜会の会場の隅の方から広間の中心で歓談をしている参加者たちを眺めるに留まって、積極的に人の輪に加わろうとはしなかった。

 とてもそんな気分では無いから。

 だから、自分に付き合わせてしまっている、社交家の従兄弟の行動を制限してしまっている事には申し訳ないと思っていたが、当のアルバートは、余り気にしてる様子も無く、従姉妹に付き合って遠くから華やかな参加者達の様子を一緒に眺めていたのだった。


「嫌なら出席しなければよかったのに。」

「そう言うわけにもいかないでしょう。」


 ため息を吐きながらマグリットはボヤいた。この夜会に参加したのはこれ以上変な噂が広まらないようにの牽制の為であるが、それ以外にも父であるレルウィン侯爵が、王太子を始め高位貴族が多く参加する夜会この夜会への欠席を許さなかったのだ。


「それでさ、どうするの?ヴィクトール様は、何やら今日の夜会で何か大切な事を発表するらしいよ。」

「そうみたいね。」

「噂ではヴィクトール様の婚約が発表されるんじゃないかって囁かれてるね。」

「そうみたいね。」


 他人事の様に、マグリットはアルバートからの話題に機械的に相槌を打った。

 そう、マグリットは他人事だと思いたいのだ。


 そんな彼女の胸の内を見透かして、アルバートは少し呆れたように声をかけた。


「マグリット、このまま何事もなければ良いのにとかって思って、考えることを放棄してない?」

「そ、そんなことないわよ。」

「そんな都合の良い事起きないからね。ヴィクトール様はここで、詰めてくるだろうね。」

「……」

 アルバートに指摘された事は図星なのでマグリットは何も言えなかった。


 現にヴィクトールから内々に父であるレルウィン侯爵へマグリットとの婚約の打診の話が来ているのだが、それに対してマグリットは態度をハッキリとさせていないのだ。


「それで、実際問題マグリットはどうするの?ヴィクトール様との縁談を進める気があるの?」

「それは……なんとも……だって、なんか……こう言ったら失礼かもだけど……彼の言動がとても嘘っぽいのよ。」

「そりゃそうだろう、嘘なんだから。」

「身も蓋も無いわねぇ。」

「そんなもんだろ、家柄で婚約するような物なんだから。」

「それはそうだけど……」


 貴族、特に侯爵家ともなればその婚姻は政略的な物であると幼い頃から教育されて来ていた。だからこの格上の公爵家のヴィクトールからの婚約の打診は、レルウィン侯爵家にとってこの上ない好条件の縁談なのだが、マグリットはどうしても素直に受け入れられなかったのだ。


「けれど、マグリットが本当に嫌だと思っているのなら、僕から伯父様に、君の気持ちを蔑ろにしてはいけないって、徹底的に言い負かしてあげるよ。」

「あら、優しいのね。」

「言ってるだろう?僕は身内には優しいんだよ。」

「まぁ、頼もしい。」


 アルバートの言葉に、マグリットは思わずクスリと笑った。

 確かに、彼が本気を出したらあの厳格な父親を言い負かすなんて容易い事なのかもしれないなと、そんな事を考えながら、アルバートの言葉に甘えて、もう少しだけ自分の気持ちと向き合おうと思えたのだった。


「正直言うとね、私リーシャの事が羨ましいわ。本当に心から好きな人と結婚できるなんて奇跡みたいな物だから。今でも時々考えてしまうの。もし、多く届いていた沢山の手紙の中から、ローランなんかを選んでいなかったら、私も真に愛する人を見つけられたのかなって。ううん、でもきっと同じね。だって皆、私のこと侯爵家の令嬢としてしか見ていないのだから。」


 マグリットは少し寂しそうに微笑んで、そして意を結したようにアルバートを真っ直ぐに見つめた。


「……アルバート、やっぱり私……」

 マグリットが自分の正直な気持ちを口にしようとしたその時だった。


「やぁ、アルバート。君も出席していたのか。こんな隅の方に居るから気がつかなかったよ。大人しくしているのは君らしく無いね。」


 招待客の一人が、アルバートを見つけて話しかけて来たので、マグリットは言葉を途中で止めてしまった。

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