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15. 女子会?2

「えっ?マキシム様ってスタイン家の?!」

 ロクサーヌの口から思わぬ人物の名前が出てきて、マグリットは思わず聞き返してしまった。


 だってミューズリ出自の貴族を毛嫌いしているノルモンド公爵家のロクサーヌが、ミューズリ系譜のスタイン公爵家のマキシムと通じているなど、誰もそんな事思いもしないのだ。


 にわかには信じられずにマグリットはロクサーヌへ再度問いかけてみたが、しかし彼女はしまったというような顔をすると、慌てたようにそれを否定したのだった。


「貴女マキシム様と交流があるの?ノルモンド家の貴女が?!」

「何を仰っているの?貴女の聞き間違えですわ」

「でも、確かにマキシム様って仰ってたわ。」

「知りませんわ!そんなお方!!」


 同じ五大公爵家同士なんだ、流石に知らないは無理があるだろうとマグリットは思ったが、ロクサーヌはあくまでも知らないで押し通すつもりなのか、一向に発言を認めなかった。


 頑なに否定するロクサーヌと中々引き下がらないマグリット。二人は平行線のまま、どちらも譲りそうに無かった。


 そんな二人の膠着した様子を見兼ねて、ある程度の事情を知っているアイリーシャはつい口を挟んでしまった。


「マグリット駄目なのよ。ロクサーヌ様がマキシム様とお手紙のやり取りをしている事は誰にも言えない秘密なのよ。直接やり取りが出来ないから私やミハイル様が間に入らなきゃいけない位、秘密の出来事なのよ。」

「貴女が無自覚にバラしているじゃ無い!!」


 アイリーシャは、至って真面目にロクサーヌに助け舟を出したつもりだったが、結果彼女の発言が決め手となったのだった。


 信じられない事だが、それが事実であるとマグリットは確信したのだ。


「まぁ、じゃあ本当なのね?貴女はマキシム様と交流があるのね?!」


 マグリットは驚きつつも目を輝かせてロクサーヌに詰め寄った。


 他人の恋の話。

 こんなに面白い話はない。

 それがしかも、長年対立しているノルモンド家とスタイン家の令嬢令息だというのだから、興味を惹かれない筈が無かった。


「あっ……貴女が思っているような手紙のやり取りでは有りませんわ!!」

「でも、誰にも言えないのでしょう?」

「それは……そうですけど……」


 マグリットが興味津々で執拗に追及すると、遂にロクサーヌは口籠ってしまった。


 するとマグリットは、言葉に詰まってしおらしくなったロクサーヌの態度を恥じらいだと勝手に勘違いをして、一人でどんどんと盛り上がっていったのだった。


「ロクサーヌ様、私は貴女のことを誤解していましたわ。」

「いきなりなんですの?!」

「敵対する両家の許されない二人の恋……まるで物語みたいですわ!!」

「貴女は私の事誤解したままですわよ??!」

「大丈夫ですわ、私はお二人の事応援しますわ!!」

「話を聞きなさい!!」


 暴走するマグリットをロクサーヌは止められなかった。彼女の中では、ロクサーヌとマキシムの恋物語が出来上がってしまったのだ。


「それで、一体何がきっかけだったのですの?どちらからだったんですの?」

「良い加減になさって?!だから誤解ですわ!!」


 痺れを切らして、遂にロクサーヌは淑女らしからぬ大声をあげて勢いよく立ち上がって、マグリットに詰め寄ったのだった。


「良いです事?この事は誰にも言ってはなりませんからね?!!」

 ロクサーヌは鬼気迫る顔でマグリットに迫ると、怒りを押し殺したような声で、彼女に凄んだ。自分がスタイン家と仲良くしている等と噂が流されて家族に知られてしまったら、大変なのだ。


 それだけは絶対に避けなくてはならなくて、ロクサーヌは切羽詰まったような目でマグリットをじっと見つめた。


 すると、必死に訴えるロクサーヌを擁護するように、アイリーシャも口を添えたのだった。


「マグリット、ロクサーヌ様のお祖父様って凄く厳格な方みたいなの。だから、私からもお願い。今の話は誰にも言わないであげてね。」

「……分かったわ。ここでの話は、私の心の内に留めておきますわ。」


 真剣に訴える二人を見て、マグリットは冷静になって誰にも言わない事を約束した。


 そして互いの家族に見つかってはいけないからと、隠れて文通を重ねる二人は、いよいよ持って恋物語の主人公だなとマグリットは不謹慎ながら思ってしまった。


 それは、マグリットの憧れる物だった。


「大丈夫ですわロクサーヌ様。誰にも言いませんし、私にできる事が有ればなんでも言って下さいね。出来る限り協力しますわ。」


 マグリットはロクサーヌの手を取ると、労るような目で彼女に優しく語りかけた。障害の多い二人の恋を本気で応援したいと思ったのだ。

 それと同時に、少しだけ自分には出来なかった恋愛という物に身を焦がしている彼女の事を羨ましいとも思ってしまったが、それは胸の内だけに潜めた。


「ま、まぁ、分かればよろしいのですよ。」


 ロクサーヌは急なマグリットの態度の変化に少し戸惑ったが、彼女から誰にも話さないという言質が取れるとホッとして満足した顔で席に座った。


 そうして安堵した事で彼女は気を取り直すと、改めてマグリットに忠告をしたのだった。


「とにかく、お兄様は貴女がシゼロン公爵の姪であるからお声をかけているのであって、そこにそれ以上も以下も他意はないと思いなさい!貴女は政略の駒にされてお兄様の陰謀に巻き込まれますわよ!」

「まぁ、ご忠告有難うございますロクサーヌ様。お言葉、しっかりと受け取りましたわ。」


 結局彼女の言うヴィクトールの陰謀が何なのか分からなかったが、少なくとも彼女が嫌がらせでこのような事を言っているのではなくて、本心からマグリットを心配しているのが伝わったので、この場を収めるためにマグリットはロクサーヌの言葉を表面上有り難く受け取った。


(そうは言ってもね、私は侯爵家の娘なのよ。政略の駒になるしか無いじゃない……)


 心の中ではそう思ったけれども、態度に出さずマグリットは柔かに二人との会話を続けた。


 アイリーシャとロクサーヌ。

 自分とは違い、ちゃんと恋愛をしているこの二人がマグリットにはとても眩しかった。

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