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14. 女子会?1

 ガーデンパーティーから二週間ほどが過ぎたある日の昼下がり、マグリットはアイリーシャから個人的に呼び出しを受けてマイヨール邸を訪れていた。


 従兄妹会では無く彼女個人からのお誘いは最近は全く無かったので、何かあったのかと少し不安に思いながら慣れ親しんだ従兄妹の屋敷の玄関ホールへと足を踏み入れると、どうやら丁度先客が帰るところみたいで、一人の公子が階段を降りてきた所だった。


 彼はマグリットの姿を見ると、柔かに会釈をしたので、マグリットの方も慌てて会釈を返した。


 特に会話をすることもなく、二人はそのまますれ違ったのだが、銀の髪の優しそうな面持ちのこの公子と、マグリットは何処かで会った事がある様な気がしたが、しかしこの公子が誰なのか思い出せなかった。


「リーシャ、今そこですれ違った方はどなた?」

「あぁ、あのお方はお兄様のお友達で、グラマー侯爵家のウィルフレッド様よ。」


 二階に上がって直ぐに有るマイヨール家のサロンの前で出迎えてくれたアイリーシャに、マグリットは先程の男性の事が気になって、彼について訊ねてみた。


 この男性について、絶対に知っている気がするのだ。


 けれどもアイリーシャにその名前を教えて貰っても、マグリットはピンと来なかったのだった。


(記憶違い……?でも絶対に何処かで会っている気がするわ。)


 何故こんなに気になるのか自分でも分からないが、マグリットは何かがずっと引っかかっていた。

 思い出せそうで思い出せない、なんとももどかしい気分だった。


「そういえば、マグリットは初めてでしたわね。あのお方は……」

 そんな怪訝な様子のマグリットを見て、アイリーシャが追加で何かを言いかけたその時だった。


「遅いですわ!マグリット・レルウィン!」


 少し空いていたサロンの扉から勢いよく声がかけられて、アイリーシャの話は遮られてしまったのだった。


「ロクサーヌ様?!」

 この場に居るとは思っても見なかった人物に、マグリットは思わず大きな声を出してしまった。


 ロクサーヌ・ノルモンド公爵令嬢。

 彼女はマグリットやアイリーシャと同じ王太子殿下の婚約者候補の一人であった。

 そして、先のガーデンパーティーでマグリットに話しかけてきた、ヴィクトールの妹でもあった。


アイリーシャとロクサーヌが個人的に仲良くしている事など今まで見た事を聞いた事も無かったので、彼女がここに居るなどと思っても見なかったのだ。


 これはどういう事なのかと、マグリットは困惑しながらチラリとアイリーシャの方を見ると、彼女はいつもと変わらず穏やかな様子でマグリットとロクサーヌを引き合わせたのだった。


「えぇ、そうなの。ロクサーヌ様がマグリットとお話ししたいって言うので、お呼びしたのよ。」

「あら、そうなんですの?私とお話を……?」


 アイリーシャの説明に、マグリットは小首を傾げながらロクサーヌの方を見遣った。彼女から自分に一体何の話があるのか、皆目検討がつかないのだ。


 するとロクサーヌは、背筋をピンと伸ばして難しい顔をしてマグリットを見つめ返すと、大真面目に無茶苦茶な事を言い出したのだった。


「マグリット様にご忠告がありますの。良いですこと、貴女、私のお兄様から最近手紙やら贈り物やらが届いているようですが決して勘違いなさらないことね。お兄様は貴女のことなんて、これっぽっちも好きではないのだから。」

「……私は喧嘩を売られているのかしら?」


 あまりの事に、マグリットは一瞬言葉を失った。確かに彼女の兄で有るヴィクトールからはあのガーデンパーティー以降、贈り物やらお誘いやら、様々な接触があったのだが、だからと言って、ロクサーヌにこのように傲慢な物言いをされる謂れは無いのだ。


「マグリット落ち着いて。ロクサーヌ様も、伝え方が悪いですわよ!」

 二人の間に険悪な空気を感じて、アイリーシャは慌てて間を取りなした。


 何故ロクサーヌがマグリットとの会話を望んだのかと言うと、兄で有るヴィクトールが企んでいる計画にマグリットが利用されないようにとの親切心からだったのに、どうも彼女は伝え方が下手なのだ。


「お兄様が貴女にアプローチをしているのは家の為……ううん、お兄様ご自身の為ですわ。そこを誤解なさらないように。とにかく、間に受けて貴女に何の得も有りませんわ。」

「私に得が無いかと言ったら、そんな事はないでしょう?ヴィクトール様は、ノルモンド公爵家の嫡男で、次期公爵なのだから。」


 貴族の婚姻なんて家同士の結び付きを強める手段となるのが殆どだ。

 だからマグリットも、ヴィクトールが自分に近付くのはそう言った意図があっての事だと思っているし、逆に考えれば、格上の公爵家と繋がりが持てるのはマグリットのレルウィン侯爵家にとっても悪い話では無いのだ。


 それをマグリットが望んでいるかはまた別の話だが、どうにもロクサーヌの言い方がイラッとしたので彼女もつい、ロクサーヌと張り合ってしまったのだ。


 するとロクサーヌは、マグリットからの反感が予想外だったのか、急に不安げにしどろもどろになって、それでも彼女を自分の兄から遠ざけようと、説得になっていない説得を続けたのだった。


「そ……それはそうですけど、でも、駄目なのです。マグリット様がお兄様を受け入れてしまったら、貴女もきっと、良く無い事に巻き込まれてしまいますわ!」

「……良く無い事……?一体何に巻き込まれると言うの??」


 ロクサーヌの態度に訝しがりながら、マグリットは彼女が漏らした言葉を拾ったが、これだけでは何の事だか全く分からない。


 彼女は一体何が目的なのだろうか。


 不信感ばかりが募って意図が何一つ分からない事にマグリットは戸惑っていたが、しかしロクサーヌは、それでも本意を明かさなかった。


「いっ……言えませんわ……!!マキシム様も滅多な事を他人に言わない方が良いって言ってましたし……」

「えっ?!マキシム様ですって?!」


 そう、ロクサーヌは頑なに、言えない事を言わないようにしてた結果、自分でも気づかない内に他の余計な情報を、ついうっかり漏らしてしまったのだった。

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