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12. ガーデンパーティー

 不穏な感じになってしまった従兄妹会から一週間後、マグリットはアルバートにエスコートされて王太子殿下とその婚約者である公爵令嬢のレスティアが連名で主催するガーデンパーティーに参加していた。


 気乗りしないとはいえ、正式に招待された侯爵令嬢として、ドレスや化粧には抜かりなく、マグリットは凛と咲く白薔薇の様に輝きを放っていたが、彼女は、人々の交流の輪から少し離れた木陰で一人ぼんやりと会場の全景を眺めていたのだった。


 仲の良いアイリーシャはミハイルと婚約したてで注目を集めていることもあって、彼女たちに挨拶を訪れる人が多く応対に忙しそうだったし、一緒に来て貰っていたアルバートも、ガーデンパーティーに参加している事がバレた途端、彼とお近づきになりたい御令嬢や貴婦人に囲まれてしまったので、マグリットは巻き込まれないようにそっと側を離れたのだ。


(交流会といっても、今は誰とも交流したくない気分なのよね……)


 王太子主催だから仕方なく参加しているけれども、ローランとの事があったので、今は社交の場に出たくないのが本音だった。


 だからマグリットは端の方で目立たぬように一人のんびりと休憩をしていたのだが、そんな彼女の姿を見かけて一人の男性が声をかけてきたのだった。


「こんにちは、マグリット様。お一人ですか?」

「ええ。ヴィクトール様。……初めまして……ですよね?」

 ノルモンド公爵家のヴィクトール。エリオットが紹介したいと言っていた、マグリットより二歳年上の端正な顔立ちの公爵公子が話しかけてきたのだ。


 彼は爽やかな笑顔でマグリットに微笑みかけるとそのまま彼女の隣に立って、一緒にメイン会場の人々を眺めながら話を続けた。


「そうですね、言葉を交わすのは初めてですね。ですが私は貴女のことを前から知っていましたよ。それにエルからもよく話を聞いています。可愛い従姉妹の話を。」

「まぁ、そうだったんですね。一体エルはどんな話をヴィクトール様にしたのかしら。」

「彼は貴女がとても美しく、聡明な女性であると言っていましたよ。そして私もその通りだと思いました。マグリット様の美しさに目を奪われてしまいましたから。」


 素敵な笑顔でこんな歯の浮くようなセリフを言われたら、きっと普通の御令嬢ならば嬉しいと思うのだろう。事実少し前のマグリットなら確実に舞い上がってた。


 けれども今のマグリットにはそんな言葉は何も響かないし、信じられなかったのだ。

 ローランが散々言ってた嘘の言葉。

 上辺だけの言葉。


 そう思うと心がすぅっと冷めてしまうのだ。


 けれどもマグリットは侯爵家の令嬢で、自分の立場や家の立場も良く分かっている。だから公爵家の公子を真っ向から拒絶して関係を悪くするなんて馬鹿な真似はしなかった。


 彼女は王太子妃教育で培った淑女らしい笑みを張り付けて、ヴィクトールと表面的な会話を続けたのだった。


「あら、それは褒めすぎでは?私はそんな大層な人間ではありませんわ。」

「いいえ。謙遜なさらないで下さい。マグリット様はとてもお美しい。その絹のような髪も透き通るような白い肌も、全てが素敵です。まるで地上に降り立った女神のようだ。」

「まぁ、お上手ですこと。」


 本当はそんな事全く思っていないが、マグリットは作り笑顔で彼に返事をした。


 建前で話すのなんて貴族社会では良くある事なので、これくらいは最低限の作法として身に付いてるのだ。

 そしてそれは、ヴィクトールも同じであった。彼は熱心にマグリットを口説いている様に見えて、その本心は分からない。高位貴族になればなる程、腹の中を隠して社交をするなんて当たり前であった。


 しかし、よくある事とはいえ、こんな嘘っぽい会話を続ける事にマグリットは少々疲れてきてしまった。


 だからマグリットはヴィクトールがさっさと会話を切り上げてどこかに行ってくれる事を心の中で切に願いながらにこやかに微笑み続けていたのだが、そんな彼女の気持ちなどお構いなしに、ヴィクトールはマグリットに構い続けたのだった。


「ところでマグリット様はまだ暫くこちらに居られるのですか?」

「えぇ、人が多いところが少々疲れてしまったので。」

「そうでしたか。では、私も暫くここに居させてください。一人では退屈でしょうから。」


 彼の言葉に、マグリットはもう少しで笑顔が引き攣るところだった。

 取り繕った上辺だけの応対に疲れ始めていて、そろそろヴィクトールから離れたかったのだ。


「まぁ、お気遣い有難うございます。ですがヴィクトール様にご迷惑はかけれませんわ。私の事は気にせず、パーティーをお楽しみください。」

「お気になさらず。私がもう暫くマグリット様とお話ししたいと思ったのですよ。それにここなら、貴女を独占できますしね。」


 そう言ってニッコリと笑うヴィクトールに、きっとマグリットを困らせたいという意図は無い。けれども今マグリットが困っていると言うのは事実なのだ。


 なんとかしてやんわりと穏便にヴィクトールから離れられないかと、マグリットが頭を悩ませていたその時だった。


 二人のすぐ横でポロロンッとリュートが掻き鳴らされたのだ。


 静かだった辺りに響いた急な音に驚いてそちらの方を向くと、道化師の化粧をした男がぬっと現れて、二人の顔を覗き込んだのだった。


「やぁこんにちは、お二人さん。一曲いかがですか?」

「貴方は……?!」


 その姿を見てマグリットは目を丸くして驚いた。あの時街で会った吟遊詩人が、再びマグリットの目の前に現れたのだ。

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