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10. 再びの従兄妹会1

「はぁーっ……ローラン・リーベルトがそんな奴だったとはね……」


 マイヨール家のテラスで、アルバートは眉間の皺を隠す様に額に手を当てて、大きなため息を吐いていた。


 彼は、自分がそんなろくでなしに気づけなかったことがどうやら許せないらしくて、珍しく分かりやすく機嫌が悪かった。


「結局、お父様が正しかったって事なのよね。」

 そんなアルバートを宥めるよう、マグリットは紅茶を飲みながら苦笑した。


 彼女は今、アルバートにある事をお願いしにマイヨール家にやって来ていたのだが、先日恋の悩みを聞いて貰った手前、先ずはその顛末を彼にも自分の口からきちんと説明した結果、先のアルバートの大きな溜息に繋がったのだった。



「で、それでどうする?ローラン・リーベルトを社会的に抹殺する?」

「やめてよ、貴方なら本当にやりそうで怖いわ!」

「何言ってるの?本当にやるに決まってるでしょう。」

「私の評判にも関わるからやめて!!」


 そんな二人のやりとりを、アイリーシャはハラハラしながら見守っていたが、すっかりいつもの調子で兄とやりとりするマグリットを見て、ホッと胸を撫で下ろした。

 彼女が思ったより元気そうで安心したのだ。


「それで、私が今日ここへ来た本題なんだけど、アル、貴方に頼みがあるのよ。」

「何?やっぱり抹殺する?」

「しないから!!」

 マグリットは、はぁーっと息を吐いてこのアルバートとの不毛なやり取りを終わらせてからから、改めて彼に本来の目的であるお願い事を切り出したのだった。


「アルは、今度王太子殿下と婚約者であるレスティア様の二人が主催するガーデンパーティーが有るのは知ってるかしら?」

「まぁ知ってるよ。うちにもリーシャに招待状が届いたしね。」

「それなら話が早いわ。アル、今度の王太子殿下主催のガーデンパーティーで、私のエスコートをして貰えないかしら。」


 王太子主催の大事なパーティーなのにエスコート役がいない。それがマグリットの悩みの種だった。


 王太子殿下が、元婚約者候補だった令嬢たちを集めて交流会をすると言ってきたのでマグリットは立場上欠席する訳にはいかなかったのだが、このエスコート役を頼む予定だったローランは、残念な本性が分かってしまってお別れしたので、ガーデンパーティーの直前だと言うのにマグリットは相手役がまだ決まっておらずとても困っていたのだ。


 だからこのように、パートナー役が見つからない時は兄弟や親戚筋に頼んでエスコート役を務めてもらう一般常識に倣って、マグリットも例に漏れず従兄弟のアルバートに助けを求めたのだった。


「別にいいけど……でも、いいの?マグリットならあんな奴以外にも引くて数多じゃないのか?」

「確かに、お誘いは多くあるけれども……

けど、もうよく知らない人は懲り懲りだわ。」

 そう言ってマグリットは、数日前に起こったローランとの一件を思い出し、げんなりとした表情になった。

 王太子の元婚約者候補で侯爵家の令嬢でもあるマグリットには、アルバートが言うように多くのお誘いが今でも届いている。けれども、その多くのお誘いの中から一人を選んでみた結果がアレだ。危うく騙される所だったのだ。

 だからマグリットは暫くの間、よく知らない人のお誘いは全て断ろうと決めていたのだった。


「まぁそうか……でも、それってエリオットじゃダメだったの?あいつも参加するだろう?」


 ふと、アルバートはそんな疑問を口にした。


 この度のガーデンパーティーは元婚約者候補であった御令嬢以外にも、王太子殿下はこの国を担う次世代の公爵たちを招待している。だからシゼロン公爵家からは、嫡男で次期公爵となるもう一人の従兄弟であるエリオットが正式に招かれている筈なので、アルバートは招待を受けていない自分よりそっちに頼めば良いのではないかと思ったのだ。


「えぇ。エルにも聞いたわ。けれどもエルは既にパートナーが決まっていたわ。」

「まぁそうか。こんな直前じゃ既に決まってるよな。うん、分かった。可愛い従姉妹の頼みだもの、その日は予定がないし引き受けてあげるよ。」

「有難うアル!助かるわ!!」


 彼女の事情を察してアルバートが快く了承すると、マグリットの顔は一気に明るくなった。


 悩み事が消えて心が軽くなったし、何よりアルバートの事を敵に回したくない人はとても多いので、彼の側にいればローランとの噂話について誰も何も言ってこないだろうから傷付かずに済みそうなのだ。


 マグリットは、非常に心強いナイトを手に入れたことで、これで安心してガーデンパーティーに臨めると、ホッとしたような表情で笑った。


「まぁ、お話もまとまったようですし、そろそろこちらも楽しみましょう?今日は料理長が新しいお菓子を焼いてくれたのよ。」


 二人の話が落ち着いたのを見届けたアイリーシャは、頃合いを見計らってマグリットにそう声をかけた。見るとテーブルの上には美味しそうな新作のフィナンシェが用意されていたのだ。


「まぁ可愛い!お花が入っているのね。」

「あぁなんだっけ。確か食べられる花を入れたとか言っていたな。」


 アイリーシャの声かけをきっかけに、冷めてしまったお茶を淹れ直してもらい、三人は思い思いにテーブルの上に並べられたフィナンシェやマドレーヌ、カヌレやスコーンに手を伸ばした。


 こうして、いつもの穏やかな従兄妹たちのお茶会が再開された……と思ったのだが、アルバートの従者であるヨリクがやって来て、主人に新たな来客の存在を告げたのだった。


「アルバート様、エリオット様がお見えになっています。」


 エリオット・シゼロン


 今まさに話題にしていた人物が、マイヨール家にやって来たのだ。

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