表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カトレア帝国の花  作者: 西原昂良
6/6

2章2

 こうなれば、レイラはとことん無邪気を貫くしかなかった。

 「わたくし、うんと素敵な人がいいわ。格好よくて、強くて、頭も良い人じゃなくちゃ」

 レイラは言ってしまってからしまったと思った。これじゃあ、まるでフレデリックじゃないの――。公爵が口を開く前に急いで続けた。


「王子様はだめよ? だって、奥さんをたくさん持てるのでしょう? わたくし、お父様とお母さまみたいな結婚をしたいの」

「ああ。だが、皇后ただ一人の場合もあるぞ? 」

「いやいや。お父様より皇帝のほうが偉いんでしょう? じゃあ、何をされても文句言えないじゃない。こわいわ、わたくし。フレデリック様はすてきだけど、わたくしにはお兄さんすぎるし。ねえ、お父様お願い」

「ああ。一度お母さまと相談してみるよ」


 公爵は、それでも……とごねるレイラをなだめると、微笑んだ。レイラは成功したのではないかと手ごたえを感じながら公爵に抱かれていた。

 

 ――後日、レイラは父と母に呼ばれた。貴族は早い段階で結婚相手を決めること、それは家と家との契約に近い取り決めであること。幼いレイラにもわかるように説明してくれた。だが、皇室に嫁がないとすれば、オブシディアン公爵家の方が立場が上になるため、レイラが養子を取ってもいいとのことだった。どのみち、レイラが選んで良いと公爵は言った。


 ただし、相手は帝国の7大家門、オブシディアン公爵家を除く6つから選ぶことが条件だった。


「ありがとう、お父様、お母様! 」

 レイラはできるだけ無邪気に見えるように喜んだ。一先ずはフレデリックとの結婚を逃れることができたのだから。公爵は6つの家門を調査するために使者を送った。レイラは一人になるとその報告を待たず、6つの家門について思い出したことを書き出していた。


 フレデリックとの結婚を逃れ未来を変えたとして、フレデリックとクレアが死なない保証はなかった。それはカールとクリスティアナが生まれるかどうかについても同じだ。その時がこないとわからないのだ。


 だけど、カールとクリスティアナの事を考えた時、彼らに限らず生まれる命はできるだけ可能性を残したいとレイラは考えた。他の家門でも生まれる命は変えたくなかった。レイラが未来を変えたせいで生まれるはずっだった命がなくならないようにと願ったのだ。


 まずは、バーベナ公爵家。

 アラスター・バーベナ公爵は魔塔を統括していてオブシディアンに次いで力のある家門だが、華やかなことは好まない家だ。現在令息はすでに成人していて、婚約者がいる。レイラとは年が離れすぎていた。……過去では、寝たきりのフレデリックの部屋に防御魔法をかけるのに尽力してくれた。確か後にレイラと10ほど離れた息子が生まれるはずで、どのみちレイラと婚姻を結ぶのは難しい。

 

 次にディモルフォセカ公爵家。現ダライアス・ディモルフォセカ公爵は商団をいくつか所有し、6つの家門の中では一番裕福だ。令息は二人。……過去では、父と違い息子に管理能力はなく、賭け事が好きで金を随分使ったらしい、家門の勢いは現公爵の代からかなり落ちたはず……。それでも、彼らには子供がいた。

 

 フロックス公爵家。現シオドア・フロックス公爵は平和を望む中立的立場でうーん、よく言えば欲が無くつつましい人だ。悪く言えば臆病。……過去では病気がちな息子だったが健康な令嬢と結婚し、健康な後継者が生まれ家門は現状維持の安泰だった。

 

 クレマティス侯爵家。現ヴィクター・クレマティス侯爵は頭の切れる優秀な人で、帝国の文官としても名高い人だ。息子がいるが、融通のきかない堅物だった。悪い人じゃなかったけど。……過去では結婚していたし、子供もいた。

 

 モンクスフード侯爵家。現カルヴィン・モンクスフード侯爵は神経質であまり評判は良くないが、表面上は帝国に反発はしていなかった。息子が三人いるが……過去では問題があったとかで長男は破門にされ、次男が家門を継いだ。子供はいた。三男も次男を告発するなど兄弟仲は最悪だった。三男にも子供はいた。兄弟揃ってひどく酒癖が悪かったのを覚えている。


 

 アイオライト侯爵家。ネイサン・アイオライト侯爵は剣の才覚があった。それでいて朗らかで、公爵夫人も社交界で常連の気の良い人だった。何より美しい人で目立つのもある。息子は二人……。過去では長男が侯爵の爵位を継いだが、未婚。彼亡き後は次男が継いだのか、次男の子どもが継いだのか……。先に死んだレイラは知らなかった。


 レイラは一通り書き出して、はぁ、とため息を吐いた。過去、独身で子供がいなかった者。消去法で一人しかいなかった。


 ――ジェイド・アイオライト。


 公爵夫人に似てかなりの美男子だが、彼はそれを自覚してやりたい放題浮名を流していた。女性に対し良い噂を聞かなかった。その彼しかいなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ