1章1
――私の人生はここで終わるのだろう。
レイラは閉じた瞼ごし、青白い光を感じながら、これが走馬灯かと思い出を俯瞰していた。
「陛下、陛下。しっかりなさってください」
その声に走馬灯は止み、わずかに目を開けた。自分にはもう瞼を開ききる力も残っていないらしい。
「これ、これを……お許しください、レイラ様」
若き皇帝はレイラを名前で呼んだ。幼い頃そうしていたように。ぼやけた目で彼の手の中にあるものを見る。古ぼけた手紙には握りしめた跡があった。
親愛なる皇太后陛下
これをもって、正式に求婚致します。
あな――心より愛しています。
長い間、あなただけをお慕い申し上げてい――た。その証拠に私は――――です。あなたが受け入れて下さら――なら、私はきっとこれ――も――でしょう。
で――――うか、私の求婚を受け入れていただけませんか。
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所々虫食いで、死を目前にした目ではあったが、これが求婚の手紙であり、長く彼の手に寄って隠されていたことが窺えた。
「馬鹿ね、カール。あの時私がこの手紙を受け取っていたとしても、何もかわらなかったわ」
声は掠れていたが、彼には聞こえただろう。もう過ぎたことなのだ。
皇帝の懺悔に応えた。これから先、彼が自分のことで苦しまないように。当時まだ子供だった彼を長く苦しめた。もう解放してあげたかった。
「帝国、そしてあなたとクリスに……永遠の祝福を……。わたくしは幸せでした」
こうして、レイラの1度目の人生は幕を閉じた。最後に見たのは、自分にすがるように泣いていたカールとクリスティのくしゃくしゃの泣き顔だった。
ああ、ほらほら、カール。皇帝ともあろう者がそんなに感情を表にだしてはいけませんよ。クリスティ。もう立派なレディになったのでしょう?そんなんじゃ、旦那様に愛想をつかされますよ……。私は、いつでもあなたたちを想っています。だから、そんなに泣かないで。
幸せではなかったとは言わない。幸せだった。でも、もっと、国のためではなく、自分の人生を生きてみたかった。
温かな光に包まれて体が浮遊したように感じた。
レイラはこの日、死んだのだと悟った。