人間が大好きな天の神様
彼女は心優しい女神であった。そして人間たちが大好きだった。毎日飽きもせず人間の暮らしを観察しながら、ただそこに存在していた。
ある大国に世継ぎが生まれた時は、国を上げた大きな祭りが行われた。彼女は国教として祭られ、崇められた。誰もが女神に感謝し、畏敬の念をもった。
彼女はただ、嬉しそうに人々を見ていた。
治療薬のない新たな病が流行った時は、世界全体が彼女を恨んだ。石像は壊され、絵画は踏まれ、呪詛の言葉で溢れた。
彼女はただ、悲しそうに人々を見ていた。
乾燥に悩む村々に恵みの雨が降った時は、こぞって膝を付いて供物を捧げた。そして数年後、彼女への祭壇は朽ちた。
彼女はただ、寂しそうに人々を見ていた。
そうして時が経ち時代が移り、人間の暮らしもだいぶ変わった。化学が発展し、思想が深まり、考えが変化した。今まであった彼女への貢物や祭典も、やがて無くなった。
それでも彼女は変わらない。ただ、そこにいる人々を見ていた。
そんな折、あるおまじないが流行った。
「天の神様の言うとおり。」
どうやら、何かを選ぶ時に自分ではなく神様に決めてもらう事でより自然に、公平になるということらしかった。と言ってもそれは表面上での意味で、内実は「神様が決めたことなら間違いない」という何とも身勝手な祈りであった。
このおまじないは、とうとう人間たちの常識になりつつあった。キャッチーで使いやすく、地域ごとのアレンジが楽しまれるようになった。
「天の神様の言うとおり。」
ある少年は、その日のおやつを神様に決めてもらった。
「天の神様の言うとおり。」
ある学生は、テストの答えを神様に決めてもらった。
「天の神様の言うとおり。」
ある老婦人は、昼食のレシピを神様に決めてもらった。
「天の神様の言うとおり。」
ある病人は、お風呂に入るかどうかを神様に決めてもらった。
もし、の世界は分からない。しかし、少なくとも。
ある少年はアレルギー食品を食べなかったし、ある学生は赤点を免れた。ある老婦人は夫の新しい好みを知れたし、ある病人は滑って転んだあの人にはならなかった。
彼女は心優しい女神であった。そして人間たちが大好きだった。
彼女はただの、人間が大好きな天の神様。
“人間が大好きな天の神様”
彼女はもう、天に居ない。天の神様は居なくなった。
それでも人間の暮らしは変わらない。忙しそうに暮らしながら、今日もどこからか声が聞こえる。
「天の神様の言うとおり。」
作者は初心者なので、感想など頂けたらとても喜びます。そして、ちゃんと続きます。
自分の作品ながらどう言ったジャンルなのか判断できていないので、良ければキーワードのおすすめを頂きたいです。