転生行事の事故案件 2
転生先失敗案件、その2です。
「はぁ、参ったわね。ほんと、困ったわ。」
何が困ったって、誰だってこんな事になれば私みたいになるはずよ。何が?ですって?何がじゃないのよ、何で?なのよ!
何で私がこんな目に⁉︎
ってやつなのよ。わかるかしら、この私の怒りが!
ー私は確かに死んだのよ。ー
正直言って、大してこの世に未練なんてなかったし、痛いのも、苦しいのも嫌だったからもういいやって諦めたわけ。だって横断歩道ちゃんと青信号で渡ってたし、歩きスマホだってしてないのに、後ろから車が猛スピードで突っ込んでくるなんて思わないじゃない!なのに痛い思いして、身体の感覚もどんどん冷たく、無くなっていくんだから…。朝、出かける時に親と喧嘩した事もあって、何もかもどうでも良くなっちゃったのよ。
でもね、だからってこれはないんじゃない⁉︎
だって私ってば今、このどこの誰かもわからない男の、何犬かもわからないミックス犬の“守護霊“になってるっぽいのよ⁉︎ ある⁉︎そんな事、あっていいの⁉︎
気がついたらこのワンコの側を離れられずにずーっと紐で繋がれている様な状況で、意味わかんないわ。でも何しても離れられないし、このワンコは鈍感なのか私に気付かないし(他のワンコは時々私と目が合うのに)、私はこのままずっと死ぬまで“守護霊“でいるしかないんでしょうね…。いや、私はもう死んでるけどね?
でも、あれ?ちょっと待って?私、“守護霊“なのかしら…。もしかして“背後霊“の方じゃない⁉︎ 私、そんな、なんか“守る“みたいな事できるとは思えないし、ただ、くっついてるだけなんじゃない?良いのかしらそんなんで…。まぁ、どっちでも良いけど。やる気も何も起きるわけないじゃない、こんな状況。
なんて、だらだらしてたら来たのよ、使えない自称“神“様が…。
こんな碌でもない状況を作り上げた、自称“神“。経歴詐称じゃなければ“世も末“ってやつよ。そうでしょ⁉︎
*****
《いやいやいやいや、始めまして、お嬢さん。まぁなんと言いますか、こんな予定ではなかったんですよ、ほんとに!あなたには本来生き延びてもらって、こちらで我々の布教活動をして頂く予定だったのですが、まさか簡単に手を離されて、生きる事を諦められてしまう予定ではなかったんですよ、“神様”は。》
「は?何言ってんの?勝手なこと言わないでくれる⁉︎」
《ですが、予定では、奇跡的に命を取り留めたあなたが、神の声を聞き、1、2回ほど奇跡を起こして、ちゃんと神を敬う信者を増やしてもらう予定だったんですよ。なのに簡単に諦めちゃって死んじゃうから、仕方なく行き先を流行りの異世界転生にした筈なんですけど、いきなり予定にない事だったから慌てちゃって行き先の選定に困ってたんですよね、それでちょっと目を離した隙にたまたま空いてたこの犬の“守護霊“の場所に見事にはまっちゃったんですよ、まったく、ほんと困りましたね。》
「ちょっと、どういう事?私が悪いって聞こえるけど?」
この自称“神”は、その後ぐちゃぐちゃ話してたけど、結局私が悪いって言ってるのがわかったわ、私の所為だって。だから仕方ないんだって言いやがってるわけ。
あり得ない。あり得ないでしょ⁉︎私が生にしがみつかなかった所為だって。そりゃ死んだのはそうよ、ある意味私の選択よ。でもね、誰が見ず知らずの犬の“守護霊”なんかになりたいって言ったのよ、このまま成仏させればいいだけでしょうが!
《えー、つまりですね…》
この自称“神”、有り難くもなんともないわ、迷惑なことしてくれて。これはアレね、いらない物を売りつける押売りとか詐欺とかよね。もう次からは詐欺神って呼んでやるわ。
《ちょっと、聞いてます?あなたの事なんですから真面目に聞いてくださいね、もう!》
勝手なコイツの言い分に何でだか急に怒りを突き抜けて冷静になって、この詐欺神に反論し始めちゃった。
「ちょっと、何でアンタのミスなのに私が我慢してアンタの言い訳聞かなきゃなんないのよ。それもこんな目に合わせたくせに反省もない訳?そりゃダメな訳よね、反省もしない自己中がまともな訳ないもんね。あ〜、私って本当に不幸だわ、こんな残念な“神”に当たっちゃって。まともな“神さま”に当たってたら今頃ちゃんと異世界転生できてたかも知れないのに」
いや、まったく異世界転生なんてしたくもないけどこの位の嫌味は許されるでしょ。だって犬の守護霊よ?私と全く縁もゆかりも無いのよ、飼い主も犬も。でも結局この詐欺神にもどうにもできないらしい事がわかって、呆れたから最後に言ってやったわ。
「チェンジで。」
どうせ無駄だろうけど、言っとかないと後で[そんな事は聞いてない]とか言われるのも癪だしね。もしかしてこの詐欺神じゃなければどうにかできるかも知れないし、もっとマトモな“神様”が実はいるかも知れないし。そしたら、別の“神様”が来たわけよ。本当にダメ元でも言ってみるものよね。
《…これは、どういう状況かな?簡潔に説明しなさい。》
《はい!御師様!》
へぇ、この神様上のひとなのね、この詐欺神がこれだけビビってるならどうにかなるかも。まぁ、仕事できそうだもんね。でもちょっと待って、この詐欺神、先刻よりとんでもない事言ってるわ。
《…つまり、神の神力を上げる為(信者を増やす為)この娘を標的に奇跡を起こし、布教活動をさせようとしたと。その上自分のミスを帳消しにしようと異世界転生を試みて失敗、彼女はこの犬の守護霊に転生した訳だな?》
《はい、お役に立てず申し訳ございません。》
「《頭を下げる相手が違う(でしょ!)だろう!》」
見事にハモった。そりゃそうでしょ、[布教活動をさせる為に標的にした私を事故で瀕死にさせたものの、助けそこなって証拠隠滅の為に出来もしない異世界転生を試みたらこっちも失敗。結果犬の守護霊に収まった]って。私の死ぬ原因の事故は詐欺神の故意で、尚且つその後の処理対応でも全部コイツのミスが原因で私は犬の守護霊になった訳ね…。呆れてものも言えない。
《…はぁ…。呆れてものも言えないぞ。》
良かったぁ、この神様と同意見で。マトモなひともいるのね、少し安心した。はっ、って安心してる場合じゃ無いのよ。どうするのよこれから、どうなるのよ私。
「それで、今後ですが、どうなるんでしょうか私。できればはっきり教えていただきたいのですが“神様“?」
《おいお前、御師様に気軽に話しかけるな。》
「あんたも随分態度が変わったわね。詐欺神のあんたじゃ役にたたないから、こちらの“神様“にお聞きするんでしょうが!そもそもあんたのせいでこんな事になってるのに詫びの一言もないのはどういう事なのよ!」
《ふざけるな!そもそもお前が簡単に死ぬのが悪いんだろ!》
ギャーギャー言い合ってる私達の耳に恐ろしく冷たい冷気を伴った一言が聞こえた。
《…はぁ⁉︎》
言葉に、存在に冷気があるって初めて実感したわ…。
《お前…自分の失敗で損害を与えた相手に対し、一言の謝罪もしていないだと?彼女はまだ寿命があったよな?それをお前が断ち切ったわけだが、それがどういう事かわかっていると思っていた、これは私の認識が誤っているようだ。》
おーっと、私ですら震えるほどのお怒りの様ですね、嬉しいような、恐ろしいような。
《彼女の世界でもこれは“殺人“だ。私たちの世界でもこの所業は“殺人“、“重罪“である事くらいわかっていると思っていたよ。その上“自分は悪くない“と無罪を主張するとは…。其方の“最期の審判“は厳しいものとなるだろう。連れて行け。》
どこから来たのか丸いボールも形の檻に詐欺神は捉えられ、、何か叫んでいても何も聞こえない。その檻も消えて“神様“と2人になった。そして私に向かって頭を下げ直ぐに謝罪してくれた。
《本当にあの者の所為で酷い目に合わせてしまい、申し訳ございません。》
「いや、あの、ありがとうございます、謝罪してくださって。まずは頭をあげてください。」
《こちらこそ、お話をさせて貰えるだけ感謝いたします。》
この“神様“は私の現状を客観的に把握し、今後について相談を受けてくれた。まぁ、実際犬の守護者になってしまったのを無理やり剥がすことは誰にも出来無いので、守護霊を全うした後、どうしたいか聞いてくれた。希望がなければ、通常より良い条件で生まれ変われる格にあげてくれるという。
「どれ程の希望を汲んでくれるんですか?」
《そうですね、通常なら同じ地球上での転生なのですが、今回、通常の輪廻の中から切り離されてしまったので、この地球外、この銀河系内の他の惑星へ転生できますよ。異世界と思われがちですが、太陽系ですら銀河系内の小さな一粒みたいな物ですからね。ですが他の銀河系までは選べません。ただし、私たちのような“神“という存在を信仰する文化がある世界になります。》
そうか、あの詐欺神も信者を増やしたいみたいなこと言ってたな。
「信者が多い世界って、どんな感じなのでしょうか?私自身は、信心深く無かったんですけど、実際こうやて“神様“とお話しできているのでもう、“信じない“事はできないんですよね。でも、経典に凝り固まってる思想には嫌悪感があるので……」
《なるほど、わかりました。私の管理しているところで手頃な惑星はありますが、この地球と環境的に大差がありませんから、そちらでは如何でしょうか?》
細かい所まで聞いてみると、中世と近世の間くらいで、漫画のようなすごい魔法はない普通の世界だが、一神教なのであまり大きな戦争は起きていないそうだ。ただ、魔法ではなく精霊と言葉を交わし、精霊の力を少し借りられる程度の聖霊媒師はいるらしい。まぁ、要約すると、[大きな戦争はない小さな小競り合いのある、聖霊媒師が重宝される中世後期くらいの世界]という感じな訳か。それも良いかなって思う。この地球での転生は記憶は魂に吸収されるけど、他の惑星への転生は初回特典というかお詫びも兼ねて、記憶をそのままで転生させてくれるって言うし。まぁね、この守護霊期間の記憶も一緒にだけどね。
「良いですよ。その惑星でお願いします。守護霊でいる期間はわかりませんが、これも転職の一環だと思ってしっかりお勤めしましょう!」
《ありがとうございます。お許しいただけた上に、転生のご予約もいただきまして、それでは、守護霊期間終了後、記憶保持のまま聖霊媒師として新たに転生していただきます。転生時には“神族“による殺人事件の被害者の補償として、出来る限りの加護を与えます。加護については転生時にご報告いたします。以上よろしいでしょうか?》
「はい、お願いします。」
何だか急に、業務連絡みたいな口調になったけど、あれ?なんか騙されたりしてない私?大丈夫だよね?
《それでは、今後守護霊期間、約50年ですが、しっかりお勤めお願いいたします。また50年後にお会いしましょう。》
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!なんで50年?犬はそんなに長生きしないでしょうが!」
《この子は雌でしてね、雌が生まれると守護霊が引き継がれるんです。子孫が雄ばかりになり、雌が息絶えるまでとなりますので後50年ほど守護霊から転生できません。大丈夫ですよ、50年なんてあっという間ですから。それでは失礼いたします。》
「…………。」
ちょっと、50年てそんな短くないわよ?私は今23歳なの、いや23年ポッキリしか生きられなかったの!それより長い時間、守護霊やらなきゃいけないのよね?犬の守護霊が引き継がれるとか聞いてないし!
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!騙されたぁぁぁぁぁ!!!!」