零れた雫
さよならと言われた僕は君の手を追いかけることができなかった。去っていく君の姿をただ見ることしかできなかった。それでも君の後ろ姿は凛として美しかった。
雨の中傘を差さずに歩く僕はこの廃色の街に似合っているだろうか。手のひらをかざせば雨水が溜まっていく。それでも零れないようにキュッと隙間を無くしてみたけれどどんどん溢れ落ちていった。僕もこの隙間だったのだろうか。
君も僕の手のひらを落ちてしまった。道路に落ちた雫はまた手で掬うことはできないのか。
君の後を追いかけてもう一度手を掴むことができたなら、今度は君を溢さないように抱きしめるよ。
君がいなくなってから随分と季節も変わったよ。
季節が変わるたびに君との思い出が巡るよ。その度に頬に雫が流れてく。だけど初夏の風で乾いてく。