・探偵契約 其の九
「謹んで受けさせていただこうか」
「はい。では……一つだけ注意事項を」
「なんだ?」
「契約もまた想い憑きの力である以上。その力は月母尾では絶対的なモノ、ですが、それはあくまで月母尾ではという事です」
「月母尾の外には出るな、と?」
「はい。優人くんの場合、最悪命の危険があります」
「まぁ、そうだろうな」
「もし、月母尾最後の日が来てしまったら逃げられません」
「そうか」
優人はそんなサウンドノベルのような結末、来るとは思えないと思ったが、サラが言った意味を考えた。
「あり得ない、事はないか」
想い憑きにサラがふと想ってしまえば、それで終わり。
なら、今口にした事も危険だった。
「はい。なので」
「まぁ、寿命の代償だと考えれば軽いものだ」
「そう、ですか」
優人はそう言ったサラの顔が、心なしかほころんでいるように感じた。
「で、その契約とやらはどうやってするんだ?」
「それは……」
サラの顔が急に赤くなった。
「準備に時間がかかるのか?」
「い、いえ、私……想い憑きとその契約者である優人くんが居たら大丈夫です」
「ならすぐにでも始めたほうがいいんじゃないか?」
優人はその時までサインでもして拇印でも押せばいいのだと思っていた。
だが、よくよく考えると神を介する契約がそういったものではないと感づいた。
「……サラ?」
「は、はい……」
「何をしたら、いいんだ?」
「あの……その……」
「……」
優人はサラを射抜くように見つめる。
「け、契約には……き、キスです。契約の、口づけ、を……!」