・探偵契約 其の八
「そして、それが優人くんの延命に繫がる、んです」
「どういう、事なんだ?」
「想い憑きの力はただ想うだけではそれを上書きする想いがあれば、塗りつぶされてしまう、んです」
「え?ああ……」
「でも、想いでは掻き消す事の出来ない“役割”を与える術を想月のご先祖様は編み出したんです」
「役割?」
「そして、その術は“役割契約”として契約を結んだ想い憑きの宿主が死ぬまで継続するんです」
「死ぬまで?だが、俺は」
「その“契約”が有効である限り、その“契約”を阻むものを阻止する力が働くんです。例え、不治の病だろうと、寿命であろうと」
「なっ……!!」
「私が言いたい事、わかり、ますよね?」
「サラと契約を結ぶ事が、俺の延命になる……」
サラは頷いた。
「優人くんと結びたいのは“探偵契約”。優人くんは月母尾における探偵役になって欲しい」
「探偵役?それは素行調査とかじゃなくて、推理小説とかの謎解き役という事か?」
「はい。先程言ったように、妖怪のように想い憑きが生み出したモノが起こす事件を司法は正確に裁く事が出来ません。それはオカルトを前提にした捜査が出来ないからです」
「その為の探偵役……僕に事件を解き明かせというのか」
「勿論、出来る限りのサポートはしますし、事後処理は当然受け持ちます。受けてもらえますか?」
「……その前に何故、僕なんだ?」
「え?」
「言っただろう?僕の頭はポンコツだって。契約を結べばそれも治るのか?」
「……それは、わかりません。生命の保証はされますが、健康状態まで好転するかはわからない、です」
「なら、使い物にならないポンコツならどうするんだ?その場合、その“契約”を遂行できていない事になるんじゃないのか?」
「いえ、その可能性は考えなくていい、です」
「どうして?」
「優人くんは昔から読書家でしたね」
「……昔は、だ。今は本を読むのに使う神経さえ、ない」
「特に推理小説をよく読んでいたのを覚えてます」
「ただ家にあったからだよ。推理しながらというより、ただ話を追っかける事を重点においていた」
「でも、それは私の真実とは違う」
「なんだって?」
「私にとって、優人くんのイメージは読書家でミステリーマニアです。実際がどうであれ、だからこそ、優人くんは出来ると想っている」
「それが……あ」
「ええ、優人くんは出来ますよ。想月家だけじゃない、想い憑きがバックアップします」
「それが……それでいいのか?それはあくまで俺の力ではなくて……」
「いいの、ですよ。優人くんは出来ます。ただ、そこに想い憑きが作用するかどうかなんてわからないじゃないですか。だから、それは全部優人くんの力で優人くんの成果になるんです」
「そう、か。なら……」
これで、いつか来る死の恐怖から暫く逃れられる。
だが、その選択が優人にとって救いになるか優人自身わからなかった。
わからないまま、とりあえずはそれで父は喜ぶだろう。
そして、恐らくサラにとっては救いだろう。
なら、それでいいと優人は思った。
サラを恨む気持ちは当に不必要な余分なモノとしてそぎ落とされていた。