・彼と彼女のこれから
それから、三日が経った。
優人はあの後、病院に運ばれたが、大事には至らなかった。
「そうだ、父さんに手紙書かないと……」
此方に来る前にはあれだけ大切に思っていた父親だというのに、優人の記憶は曖昧に……たまに思い出さなければその内忘れてしまいそうな程になっていた。
親不孝な話だと思いながら、手紙を書こうと便箋を取り出したと同時にノックが響いた。
間が悪いと思いつつも無視する訳にはいかなかった。
「どうぞ」
「優人くん……」
サラが入ってきた、優人は何となくそんな気がしていた。
「どうしたんだ、サラ?」
「ごたごたして、直接お礼を言えて、ませんでしたから」
「ああ……そんな事はいいのに、やるべき事をやっただけだし」
「そういう訳にはいか、ないです。ありがとう、ございます。優人くん」
「……礼を言われる事じゃないんだ、本当に」
優人は窓の外を見ながら、そう言った。
どうしても、ミコや丸山姉妹、メイの顔が浮かんでしまう。
「そんな事は、ありません。優人くんは……」
「僕のやった事は正義だったのだと思う。ただ、善だとはどうしても思えない」
「そんな……!優人くんの行為は悪ではないです」
「大義名分の為に真実を暴いた。その為に周りの人間を不幸にしてしまった」
「それは、私の責任!……です」
「……サラ」
「いい、んです。この真実を暴いて欲しいと言ったのは私だし、元を辿れば、オモイツキによって引き起こされた事件なんだから、私が悪い、んです」
「サラ。サラこそ、そんな考え方は……」
「優人くん」
サラは真っ直ぐな目で優人を見つめた。
「サラ?」
「優人くんは……私の事をどう思って、いますか?」
「何を――言って――」
瞬間、優人の脳裏には過去のサラの出来事が古びたビデオテープを高速再生するように映し出された。
「優人くん、本当は、私の事を許して、ないんですよね」
「そんな事は――」
ない、とはどうしても言えなかった。
「構わない、んです。それも私がしでかした事だから」
「……」
「でもね。私は最初貴方の事が嫌いだった、んです。理由は八つ当たりでした」
「え?」
「優人くんは……よく本を読んでましたから」
「あ、ああ……」
オモイツキの尸童のサラにとっては確かにそれは憎悪の対象だったのかも知れない。
創作物に触れる事を禁じられている、サラにとっては……
「でも、優人くんは酷い事をした私を守ってくれて……酷く後悔、しました」
「……その話は初めに聞いたよ」
「ここから先の想いは話してないと思い、ます」
「え?」
「私は後悔と一緒に、優人くんが好きになり、ました」
「……」
突然の告白に優人は戸惑い、何も言えなくなった。
「酷い事をしたのは私、です。だから、優人くんが何をしようと構いません」
「……」
「痛みも何も優人くんが与えてくれるものなら、我慢――いえ、優人くんが与えてくれるなら、私は嬉しかった、です」
「……」
「だから、優人くんが生きていてくれるのなら、オモイツキの責務も罪も何もかも背負っていけるんです」
「……俺はそんな……上等な相応しい人間じゃない」
「……分かっています。返事は期待して、ません。いえ、出来ないん、ですよね」
「!」
「分かって、ます。優人くんは自分の事もわからない、んですよね」
「……サラ、どうして?」
「一人称です」
「え?」
「優人くんの一人称がその時によって違うのは、状況によって使い分けている訳じゃない。精神が安定していないせい、ですよね。だから、自分の感情であってもどう感じているのかわからない、ですよね」
「……サラが探偵をやればいい」
「私がわかったのは、優人くんの事だからです」
「……」
「だから、優人くん。契約とかそういう事を抜きにして、私に優人くんを支えさせて、下さい」
「え?」
「私の事、恨んでいても、嫌いでも構い、ません。おこがましい事かも知れない、です。でも、貴方の、優人くんの人生を滅茶苦茶にした責任を取らせて、下さい」
「……」
冷静になって考えると、新手のプロポーズか?というのが優人の感想だった。
「責任とか、そういう事は……今の自分にはわからない。だから、どう答えればいいのかもわからない。でも、俺にだって、サラを変えてしまった責任があるんだと思う」
「優人くんに、責任なんて……」
「これはケジメだよ。ああ、だから……まぁ、他に行く宛がないんだ。望まれるなら此処にいるさ、サラ」
「優人、くん……」
サラの右目からつう、と涙が頬をつたい流れた。
優人がそれを見てハンカチを差し出すと、サラは優人の胸に抱き着いた。
戸惑いながらも、優人はサラの頭を撫でた。
この感情は愛なのかな、と優人は思った。
その答えは飴を口にしても出そうになかった。
<了>
ここで完結となります。
が、一応はシリーズ化出来るような作りになっているので、もし人気が出れば、次の話を作るかも知れません。




