Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の三十八
トウカが部屋を出て、三十分程で次のメイドが来た。
想月家に仕えるメイドは六人。
その内の二人はミコとメイになるので後二人でミコを除くメイド全員の話を聞く事になる。
「呼ばれたので来ました。七海奈那です」
ナナは先程の二人よりもさらに若く見える。
中学生ではないか、というのが優人の推測だった。
髪は明るい色のガーリーショートをしている。
「じゃあ、座って下さい」
「はい」
メイドの割には愛想がなかった。
ただ、それは不愛想というより、愛想というものよく知らないように優人は感じていた。
「七海さんは住み込みですよね」
「ええ」
「えっと……」
優人は前回、ナナと話した内容を一旦確認した。
「……前回も聞きましたが、七海さんの身の上をもう一度話して貰っていいですか?」
「え?……わかりました」
ナナの表情は変わらなかったが声色が一段暗くなった。
「ナナは天涯孤独で、物心が付く前に親に捨てられました。それで想月家に拾われて、メイドとして生活をしています」
月母尾には孤児院のような施設はない。
孤児が生まれた場合、月母尾の外の施設に引き取られるか、想月家やそれ順ずる名家が引き取り、自立の手助けをする事になっていた。
「いつ頃から想月家に?」
「小学三年生の頃からです」
故に現状のナナは名目上メイドだが、家事の勉強という側面が強く、見習いメイドだとかメイド研修中のような立場だ。
「誰を一番信頼してますか?」
「信頼?……お嬢様か奥様でしょうか」
「ん?」
質問の仕方を間違えたかと優人は自分の鼻を指の腹で撫でた。
「メイドだと誰を信頼してますか?」
「すみません。ナナ、信頼って言われてもよくわからなくて……」
「じゃあ、尊敬してるのは誰ですか?」
「尊敬ですか。それならメイド長です」
「仲がいいのは?」
「うーん……メイドとしては他の人達にはよくして貰ってますが、仲がいいとなると……年の近い神道さんや守矢さんとは別行動である事が多いですし、お嬢様とは……優人様も含めて立場上そのようにはなれません」
そんな事はないと思うけどな、と優人は口に出しかけてやめた。
「強いて言うのなら、丸山さんでしょうか?妹さんがいるせいか何かとナナに世話を焼いてくれますし」
「……その割には名字呼びなんですね」
「それ、優人様が言う事なんですか?」
「僕の事は名前で呼んでるじゃないですか」
「それは他の皆さんもそう呼んでるからで……」
「……言われてみれば、確かに」
優人は少し間を取ろうと、茶菓子を口にした。
「あの、これって捜査なんですか?ただの身の上話のような……」
優人は口の中の菓子を茶で流し込んだ。
「勿論、素行調査も立派な捜査です」
「素行調査……」
「では、最後に」
ナナは何か言いたげだったが、優人はそれを押しとどめた。
「尊敬している備海芽唯、或るいは仲のいい丸山桐花。もし、彼女達が犯人だったとしたら、どう感じますか?」
「!……」
ナナは不意に目線を下げた。
「多分、裏切られたとかそういう気持ちになるのが普通なんですよね。でも、ナナはそう思わないと思います。だって、さっき挙げた答えは強いてあげるなら、って仮定で、実際の思いは希薄だから」
「成る程、よくわかりました。つまるところ、七海さんには信頼できる人間はいないという事ですね?」
「そう言われれば否定はしませんけど……あの、もう一度聞きますが、これが本当に捜査なんですか?こんな事聞いて何がわかるんですか?」
「七海さんが共犯者でない事がわかります」
「え……」
「今回の事件には共犯者がいます。それも利害関係をともわない共犯者が」
「それって……」
「七海さんにはそういった相手がいないと判断出来ました。加えて、恐らく犯人でもないでしょう。信頼を受けていない人間の犯行を助ける事はそうそうないですから」
「そう……ですか、ナナの容疑は晴れたんですね。でも、余り喜べそうにないです」
ナナは一瞬優人を睨み、すぐに目を反らした。




