Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の三十二
ミコの父親の名は道弘と言った。
「改めまして、梔子様。いつも娘がお世話になってます」
使用人の父親とは言え、初対面の中年男性に敬語で話される事に優人は若干の抵抗を感じた。
「世話なんてそんな……」
「何分、使用人としては不出来な方ですから、ご迷惑もおかけしてるでしょう」
「そんな事は……ないと思いますけど」
「いえ、私も先代様の元に居た時はそうでしたから」
「という事は、神道さ……えっと、道弘さんも想月家に?」
「ええ、私も名目では執事として先代様に仕えていました」
名目、ね、と優人は心の中で呟いた。
「反論はしないのか?」
優人はちらりとミコを見るとミコは目を大きく見開いたかと思うと苦笑いしながら頬を掻いた。
「自分がメイドとして不出来なのは知ってますから」
「そうなのか?少なくとも悪目立ちはしていないようだけど」
「それは……その……」
「梔子様、それはただ単に余り仕事を任されていないだけでしょう」
「そう……なのか?」
「実はそうなんです」
ミコは苦笑いを続けた。
優人なりに考えてみたが、確かに日中は学校で放課後や休日中は捜査の助手役ばかりだった。
簡単な雑用ならしている所を見た事があるが、メイドの仕事で捜査に参加できないという事はなかった。
「その代わりと言うのもどうかと思いますが、退魔師としては色々仕込んであります。何かあった時は精々使ってやって下さい」
「は、はい……」
娘の事を言う父親の台詞ではないな、と優人は思った。
「さて、そろそろ嫁さんが帰ってくるな。一緒に食事でも……という訳にはいきませんか」
部屋の時計を見ると午後四時を回っていた。
まだ時間ではないが、想月家でも夕飯の準備はされているだろう。
「そうですね、ではそろそろ」
「せっかくですし、あいつで送っていきましょうか?」
と、道弘氏は親指で外の天馬を指刺して言った。
「え?」
「お、お父さん!あの子も疲れてるだろうし、遠慮しとくわ!」
「何を言ってるんだ?あいつはまだ……」
「そ、それに近くまで迎えの車が来るって連絡があったから!」
「そうか?だが、あいつならひとっ飛びで……」
「想月家の顔を潰すのはよくないわ!」
「それは……そうだな」
「じゃあ、そういう事で!行きましょう、優人様!」
「え、ああ、うん」
ミコに急かされ、優人は神道の家を出た。
「……ごめんなさい、優人様。お父さんの操縦であの子に乗ったら大変な事になるので……」
「大変な事?」
「なまじ加護がある分、生身でマッハを体験する事になります」
「それは大変な…………それって加速段階で到着しないか?」




