Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の三十一
「ん?あれは……」
家屋の長窓から見える神社の敷地内に白い馬が舞い降りた(・・・・・)。
そう、舞い降りた。馬は空から舞い降りたのだ。
「天馬か……」
月母尾には人の形に近い妖怪や人外ばかりではなく、神話に出てくるような動物の亜種も生息している。
「……竜の類いとか出てきたら大変だよな」
優人はポツリと呟いていると、天馬から人が降りた。
「あ、父が帰ってきたみたいですね」
「父?神主で元退魔師の?」
「引退した訳ではないので、元って訳ではないんですけどね」
ミコの父は優人達に気付いたらしく、玄関に向かわずに優人達の方へと歩いてきた。
「帰っていたのか、ミコ」
若い父親だった。
筋肉質で明るい茶色の髪を短く切りそろえている。
腰に刀を差し、背中に銃を背負っている辺り、退魔師を引退していないのはわかったが、とても神社の神主とは思えなかった。
「はい、少し休憩に」
「えっと……」
「おや、其方は?」
「梔子優人様です。“探偵”の」
「お邪魔してます」
「ああ、君……ではなくて、貴方が」
ミコの父親が優人を見つめる。
優人はその視線が優人自身ではなくその奥にあるものを見ているようだと、感じとった。
「お父さん、立ち話もなんだし、上がったら?」
「そうだな」
父親は玄関の方に回った。
優人はそれを出迎えようと長窓を離れかけたところで、視界に白い馬が入った。
「……あれ?」
「どうしました?」
「あれって天馬だよな?でも、角が生えてる」
確かに白い馬の額には細長いドリルのような角が生えていた。
一般的には馬に羽根が生えているのは天馬で、角が生えているのは一角獣だ。
「ああ、あの子ハイブリッドなんです」
「ハイブリッド?交配で生まれたって事か?」
「いえ、そうではなく勘違いなんですよ」
「え?」
「本来なら天馬も一角獣も空想上の生き物でしょう?」
「ああ」
「でも、こうやって存在するのはオモイツキ様の力ですよね」
「らしいな」
「そんなオモイツキ様の力だけど、その再現度は尸童――お嬢様や先代様の想像力に依存するんです。だから、完璧に再現する訳じゃないって事です」
「ああ、そうか。だから、天馬と一角獣を一緒くたに考えてしまったから、ハイブリッドが生まれたって事か」
「そういう事です」
そう言えば、と優人は思い出す。
今回の吸血鬼事件でも、同じ事が言えるのではないかと。
作品によっては吸血鬼に血を吸われれば、同じように吸血鬼になったり、眷属となったり、としたものも多くない。
寧ろ、ポピュラーな部類だろうが、今回の事件の被害者はそうではない。
その辺りはオモイツキの尸童――サラがそういう知識を持ってなかった事が原因なのだろう。
「――いや、そう考えるのは早計か」
「え?どうしました?」
「あ、いや、なんでもない」




