Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の二十八
優人はそこで目を覚ました。
その時、優人の腕は誰かの腕を抱いていた。
「サ……ラ……」
衝動的に近くあった頭を腕で引き寄せた。
そのまま首を締め上げようとして、髪に湿り気があった事で優人は我に返った。
「!?」
優人は咄嗟に腕を離した。
「優人さま、大丈夫ですか?」
そこにいたのはサラではなく、メイだった。
何故かいつものメイド服ではなく、薄着の私服姿だった。
「え、備海さん?」
「失礼しました。苦しそうな声が聞こえたので勝手に入ってしまいました」
「あ、いや、それは……まぁ、いいですけど……私服?」
「この様な恰好で申し訳ありません。本日は非番でしたので、お風呂を頂いておりました」
想月家の使用人は住み込みと通いの両方がいる。
加えて、使用人用の宿舎はなく、屋敷の一部にその居住区がある。
それでも私服姿の使用人と出くわす事は早々ないのだが、使用人用の大浴場は優人の部屋の近くにあった為、今回の事が起きた。
「あ、いえ、此方こそ寝ぼけて失礼な事を」
「その事ですが……私は構わないのですが、優人様はお嬢様とあのような事を?」
「……ん?」
「その……お節介ですし、そのような権利がない事は重々承知してはおりますが、お二人はまだ学生ですし……」
「……んん?」
優人は頭を捻って、前後の事を思い出した。
確か、自分は最初、恐らくはメイの腕を抱いていた。
そして、起きてまどろみの中でサラの名を呼び、首を絞めようとしてしまった。
「首?」
メイにも聞こえないくらいの声で優人はポツリと呟いた。
自分は確かに咄嗟に首を絞めようとしてしまった。
だが、どうだろう?
傍からみてあれは、頭を、顔を引き寄せるように見えなかっただろうか?
そして、自分はサラの名を呼んだ。
それはつまり、日常的に寝起きに口づけをするような仲と思われたのではないだろうか?
「い、いや、待って、それは……!!」
優人は飛び起きて否定しだした。
「古風な考えかも知れませんが、物事には順序というものがございますし」
「――」
その言葉に優人の思考は停止した。
「お二人はまだお若いですし、清いをお付き合いを……」
「黙ってくれ」
優人が思ったよりも低い声が出た。
驚いたのかそれに従ったのか、固まるメイを尻目に、優人は枕元に置いておいた飴玉を口に含んだ。
「――――ああ、そうか」
停止した思考を無理矢理動かす。
「順序、順番、か」
加速していく思考がある答えを導いた。
「――ありがとう、備海さん。お蔭で助かった」
「え?」
キョトンとするメイを優人は見つめた。
メイの髪についていた水滴がその長い髪をつたって、床に落ちた。




