Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の二十六
他の被害者にも話を聞いた結果として、ほぼ全員に同じ事が言えた。
血を吸われる際の噛まれる位置はそれぞれ違うようだが、抑えられてから噛まれるという手順は共通だった。当時に担当医に当たる事で写真等の詳しい情報も得られた。
「こうなると死亡者の話も聞きたいな」
「それは無理でしょう」
優人は被害者の資料を一瞥して、守の方を見た。
「いや、そうじゃなく、死体の状況の事だ。事件で亡くなったんだから、検死とか行ったんじゃないのか?」
「あ、成る程。神道さん、連絡は取れますか?」
「資料に担当した病院と医師の記載があるから、大丈夫」
「今すぐにでも話を聞きたいんだが」
「本人が病院に居るなら、緊急の手術でもない限り、想月家の名前を出せば可能でしょう」
「なら、すぐに連絡を」
「はい」
二人の死亡者はそれぞれ別の医師が検死解剖を行っていた。
その片方は非番という事で連絡は取れなかったが、もう片方の医師には連絡がつき、当日に会う事が出来た。
個人に話を通すより、病院の様な組織に話を通したほうが早い辺り、想月家の権力が窺えた。
「件の検死の担当医である立岡誠です」
立岡医師は髪を七三に分け黒縁眼鏡をかけた三十代程の男性医師だった。
「お手数おかけします。えっと……梔子優人です」
優人は探偵の、と頭に付けるか迷ったが、知っているのなら言うまでもなく、知らないのなら言う必要もないだろうと、口にしなかった。
「先に申し上げますが、想月家の事は知ってますが、プライバシーの事もありますので、余り突っ込んだ話は出来ないのでご了承下さい」
立岡医師は額に汗を滲ませていた。
優人は直感で腰の低い人だと思った。
「警察ではない以上、被害者のプライバシーを不必要に暴く事はしません」
それ以前に手持ちの資料には被害者の詳しい情報が載っているので、そこまで聞く必要はないと優人は思った。
被害者の名前は工藤亮文、二十五歳の会社員だった。
「では、被害者は何故、死んだのか、それを検死の観点から話してもらえますか?」
「それは、ご存知だとは思いますが、大量の血液を抜かれた事が全ての原因です」
「大量に……それはつまり人間が死ぬ量、確か千五百CCから二千CCだったかな?それだけの血を抜かれたという事ですか?」
「それはそうなのですが……」
「ですが?」
「それ以上、なんです。」
「というと、どれくらいですか?」
「ほぼ全てです」
「え?」
「被害者は血液全てを抜き取られています」
「……」
優人は口許に手を当てた。
「梔子さん?」
「……成る程、ではその方法は分かりますか?」
「それらしい跡は複数あったのですが、大きく二つに分類出来ます。一つは首筋にある噛み跡、もう一つは注射器のような物を刺した跡です」
「注射器?」
「はい複数個所に細長い針のようなものを刺した跡がありました。検死を進めると、何かを入れたのではなく、血を抜いた跡だという事が分かりました」
「それって、死因はどちらなんですか?」
「残念ながら、そこまではわかりません。ただ、順番はわかっていて噛んだ跡に注射器のような物を刺したようです」
「そのどのタイミングで被害者が死んだかはわからないという事ですか」
「そうなります」
「……成る程。わかりました。ありがとうございます。欲しい情報は得られました」
「それはよかったです」
立岡医師は安堵の表情を浮かべた。
「それと、ついでと言ってはなんですが、お願いがあるんですが」
「なんでしょうか?」
「残してますか?その“跡“」




