Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の二十三
優人としては甘い物といって用意される茶菓子よりは、飴玉やガムのような手頃で腹に溜まりにくい菓子の方が都合よかった。
とは言え、それをわざわざ伝えるのも用意してもらっている側からとしては心苦しい事もあり、優人は未だに伝えられずにいる。
優人は饅頭を手に取り、一齧りしたところで自室での思考を開始する。
「さて……」
優人は資料に目を通す。
まずは過去の事件。
該当したのは三件。
そしてその三件は同じような事件だった。
被害者はいずれも男性、背後から襲われ、その数日後に衰弱死。
それだけならば関連性は薄いが、いずれも襲われた際に血を抜き取られたという。
背後からの為、方法はわからないが、血を抜き取られたという場所を見ると、まるで注射器を複数刺したような斑点が出来ていたという。
この事件は未解決だがいずれも単発の事件とされた。
その理由はこの三件はいずれも五十年近い間隔が空いていた。
今現在もそうなのだが、当時は今のようなパソコンが正式に登場する前なのだから、特に過去の類似事件を調べるデータベースのようなものはなかった。
故に今回、優人が資料の整理を依頼しなければ、このような類似事件があった事は気付かれなかったかも知れない。
「……ふう」
優人は資料に目を通したあと、背もたれに身体を預けて伸びをした。
最初に口にした饅頭は既に食べ終えていた。
そこで、ノックが鳴った。
「優人くん、よろしいですか?」
「サラ?」
「失礼、しますね」
サラはお盆に載せたプリンを持ってきた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
優人がお盆を見ると、プリンと一緒に持ってきた飲み物は二つずつあった。
「お邪魔でなければ、ご一緒して、よろしいですか?」
「……あ、ああ」
優人に拒否は出来なかった。
色々立場があるとはいえ、事実上の女主人を居候は拒絶出来ないというのが優人の考えだ。
「どうですか、進展は」
「あると言えばある。ただ、それが成果になるとは限らないけど」
「なり、ますよ。探偵というのはそういうもの、でしょう?」
「全部が全部そういう訳じゃないだろう」
優人はプリンに手を付けた。
スプーンですくうとプリンという割には固かった。
すくったプリンを食べてみる。
決してまずいという訳ではない。
ただ、プリンだとしても甘味がきつく感じた。
ふとサラを見ると、サラも同じようにプリンを食べ、難しい顔をしていた。
「サラ?」
「!は、はい」
その反応を見て、優人はある確信を持った。
「もしかして、サラが作ったのか?」
「えっ!?」
サラの視線が泳ぐ。
プリンを見て、優人を見る。またプリンを見て、また優人を見る。
「探偵には……全てお見通し、ですか?」
「まぁ、鈍感よりは敏感な方が向いてはいるだろうけど」
「そう、ですか……もっと、お料理頑張ればよかったなぁ……」
「……別に俺はこれがいいとも悪いとも言ってないけど」
「優人くんは優しい、ですね」
「違うよ。確かに物凄く美味しい訳じゃない。でも、食べられない程不味い訳でもない。なら、サラがわざわざ手作りしてくれた事が単純に喜ばしい事なんだよ」
サラの瞳が一段大きく見開いた。
「………………ありがとう、優人くん」
柔らかい笑みだった。
その笑みを見た優人は硬直した。
今まで何度も向けられた笑顔のはずだ。
しかし、優人はその笑みに――何か――
「それはそうと、優人くん、何か困ってる事とかあり、ますか?」
「困ってる事?」
「ええ、事件の事でも身の回りの事、学校での事でも、なんでも言って下さい」
「え?ああ……そうだ。サラにも聞いておかないとな」
「サラは誰が犯人だと思う?」
「――――その質問は駄目です」
そう言ったかと思うとサラは自らの頭を抱えた。
「サラ?」
「優人くん、私をぶって下さい!」
「は、はぁ?!」
「殴るのが嫌なら蹴ってもいいです。私の考えを焼き切る痛みを!」
優人はそこで理解し、サラの望むように腕を振りあげ――殴る事は出来ずサラを抱きしめた。
「優人くん?」
「悪かった。俺が、悪かった」
「優人くん……」
優人は抱きしめる力を強める。
「考えなしだったんだ。オモイツキに考えを求めるなんて」
「優人、くん」
二人は暫し、そのまま思考を停止していた。




