Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の二十
鬼崎家の車は想月家の車とそう遜色のない高級車だった。
違うところと言えば、運転手も鬼であると言う事。
助手席は空いており、二列目の広いスペースにはセツノと優人が、三列目にはミコと守が座っている。ちなみに、赤鬼と青鬼はこの車とは別に子分たち用のバスに乗っているそうだ。
そして、その車の中で優人は間取りの紙を睨みつけていた。
……かと、思うと急に力を抜いて天井を見上げた。
「……はぁ」
「どうしたんじゃ、なんぞ成果があったんか?」
「あった……のかな?」
優人が出した結論。それは日中、陽を避けて屋敷の中を動き回る事は不可能だと言う事。
吸血鬼が日に弱いとしても、命に関わるほどではないのかも知れない。
もしくは、厚着をして肌の露出を避けたり、日焼け止め程度の対策で何とかなるのかも知れない。そういった吸血鬼が出てくる作品がない訳ではない。
だが、サラはなるべくそう言った創作物とは距離を置いているはずだ。
スタンダードな吸血鬼に日光は命に関わる。
そこまで考えて、優人は詰まってしまった。
「……あー駄目だ。セツノさん、悪いけど屋敷まで眠るよ」
「仕方のない奴じゃ」
また後で、甘い物を一緒にゆっくり考えようと、優人の意識は暗闇に落ちた。
鬼崎の屋敷に着く、その景色は和食の高級料亭を優人は思った。
だが、次の瞬間そのイメージは完全に吹き飛んだ。
「お嬢、お帰りなさいませ!」
車から屋敷まで左右に一列づつ並んだ屈強な鬼達が一斉に最敬礼の位置まで頭を下げていた。
「……」
優人は自分で顔が引き攣るのが分かった。
「なにボケっとしとるんじゃ、優人?」
「あ……えっと、いえ……」
セツノの後ろを優人は着いていく。
やっぱり、警察というよりは、その筋の人達だよなぁなどと優人は思った。
優人の後ろには守とミコが付き三人はセツノの後ろを着いていった。
屋敷に入り、そのまま突き当たりまで真っ直ぐ、そこから右を行き、また突き当たりまで、そして左を行き、一番奥まで進んだところでそこにたどり着いた。
厳重に閉ざされた門の左右に門番の如く、二人の鬼が立っていた。
「お嬢、お帰りなさいませ!」
「おう、ご苦労じゃの。話は聞いとるな?想月んトコの者が使うけぇ、扉を開けぇや」
「へい!畏まりやした!」
あ、鬼が畏まった、などと優人は思ったが、そんな軽口を叩けるような雰囲気ではなかった。
二人の鬼が門を開けると、大量の書類が並べられた、書庫が開けた。
「アタシが立ち会うよって、キサンらは茶でも持ってこい」
「へい!」
「あ、おかまいなく……」
優人の声は余りにも小さかった為、誰の耳にも入らず、空気中のミストの如く四散した。
優人としては、こんな厳重な書庫の書類をまかり間違って、お茶を零しでもしたら、と考えたのだが、その想いは誰にも届かなかった。
「優人様、早速始めましょう」
「あ、うん」
「鬼崎様、書類の場所はどこでしょうか?」
「確か、あれじゃ」
セツノが指差した場所は、梯子か脚立でも使わないと取れないような高い位置だった。
「あんな場所に……」
「ボクが取ってきます」
え、と優人が言っている間に守は床を蹴り、道具も使わず、指差した場所に片手でぶら下がっていた。
「……見つけました。こちらですね」
そう呟くと守は自由なほうの手で束になった資料を持つと、ぶら下がっていた手を離した。
「あ!」
優人の驚きも心配も大した意味なく、守は難なく床に着地した。
「お待たせしました、こちらになります」
「あ、ありがとう……」
人外、なんて名称は言い得て妙だな、と優人は思った。
その資料の束は、月母尾に想月家という秩序が出来てから、今日に至るまでの妖怪・人外の記録だった。
「……」
優人達はその一枚一枚に目を通す。
吸血鬼やそれに順ずる存在が過去にいなかったかの確認だ。
「優人様、こっちは終わりました。該当なしです」
「こちらも、右に同じ、です」
「え……早い」
優人はと言うと百ページはあるだろう資料の十数ページ程度しか見れていない。
「速読は得意なので」
「まぁ、必須スキルですよね。従者にとっては」
優人はそこで考える。
ポンコツな自分と比べるまでもなく、二人の読むスピードは早い。
ならば、この資料自体は二人に任せて自分は別の事が出来るのではないか、と。
「予定変更。二人でこの資料を確認してほしい」
「畏まりました」
優人は書庫の備え付けの椅子から離れ、セツノの方へ歩いていく。
「どうかしたんか?」
「セツノさん、ここに今から言うものありますか?」
「何か?」
「直接申請されたものでなくても、妖怪や人外の話が載っているもの……伝承とかおとぎ話とか噂話とかそんなレベルのものでいいです。もしくは、今回の吸血鬼騒ぎと似たような事件が過去にあったかわかるもの、なければ、未解決に終わった事件の資料でもいいです」
「まぁ、全部あるのはある。ただ、事件の資料なんぞ種類ごとに分けてなどおらん、時系列順にあるだけじゃ。それこそ膨大な量になる」
「あ……」
流石に守やミコの読むスピードが速かろうとそんな大量の資料を三人でどうこう出来るとは限らない。
「うーん……どうすれば……」
「まぁ、待て優人」
「はい?」
「世の中には物量作戦というものがある。それに此方の落ち度とは思わんが管理方法のせいとも言えるしな」
「は、はぁ……」
「手伝ってやらん事はないという事じゃ、当然――」
セツノはスカートから携帯を取り出した。
「ビジネスとしてじゃがな」
携帯の液晶には、サラの名前が表示されていた。




