Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の十四
事故とは予期出来なかったから事故と言う。
優人は衝突によって自分が散らばるような感覚を覚えた。
当然ながら、それは錯覚だった。
車などならともかく、優人が衝突したのは人だ。
だから、この散らばって等いない。
そう思って顔を上げると――
「うう~……」
「…………」
少女の首が転がっていた。
「!?!!?!!!?!!!!??????!!!!!」
優人は叫びそうになりながら、その驚きで声は出なかった。
少女の首は首だけになりながら、目を回していた。
そう、生きていた、首だけになりながらも。
「……あれ?」
「……ほあ?」
少女と優人は互いを認識し、一秒見つめ合った。そして――
「ああっ!?梔子君!?」
「もしかして、丸山かっ!?」
面識があった事を思い出した。
「梔子君、そっちに左手の小指ない?」
「左かは知らないけど、これか?」
「あ、うん。ありがとう」
少女は優人から受け取った指を接着剤のようなもので元の位置にくっつけた。
彼女の名は丸山奈緒、優人の小学校の頃の同級生だった。
「なあ、丸山。その身体って……」
「えへへ……昔は自分のスタイルに自身なんて持てなかったけど、今は違うよ。頑張って痩せたんだ~」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
優人の記憶の中にあるナオは確かにお世辞にもスタイルがいいなんて言えない程には太っていた。現在の彼女はというとムチムチしていてスレンダーという訳ではないが、出るところはそれなりに出て締まるところは締まって見える。
「どうしたんだ、そのバラバラになる身体は?」
優人の記憶の中のナオは普通の人間だった。
「えっ?あー……私、ゾンビになったんだ」
「ゾンビ!?」
「うん、色々あって死んじゃったの。でも、その後ゾンビになって復活したんだ」
「じゃあ、その身体はゾンビになったから?」
「うん、ゾンビって身体は死体だからね。脆いから、衝撃で飛んじゃうんだ。ははは」
余りにもナオの口調が明るかったから、優人の目には呆れが浮かんだ。
「あっ、なにその目~?ゾンビだって馬鹿にしてるのぉ?」
「いや、そういう訳ではないけど」
幼少の頃、ナオは優人にとって、いじめられ仲間だった。
サラにという訳ではなく、ナオは体型の事もあって、他のクラスメイトによくいじめられていた。同じく、サラにいじめえお受けていた優人は、ナオに仲間意識を持っていた。
そんな事もあり、当時の彼女は今の能天気な口調からは似ても似つかない、暗い子だった事を優人は覚えている。
「えい!」
「!?」
などと考えていた優人にナオは抱き着いた。
「な、なにを!?」
「ほら、ゾンビだからって腐乱臭する訳じゃないんだよ。女の子だから体臭には気を使ってるんだ~」
「え、いや、それはわかったけど!」
確かに腐った匂いはしない、だが、それ以上にナオのムチムチな身体に優人は困惑せざるを得なかった。ちなみに相手がサラならばこんな事にはならない。
「ほら、ちゃんといい匂いするでしょ?運動した後とかちゃんと……あっ!」
そこで突然、ナオは飛び退いた。
「って、私運動中だった!汗臭いよ!」
「そこかよ!」
「そうだ、私長距離走の途中だった!」
「そうなのか?こんな暑い日に……」
マラソンと言えば、冬に行う事が殆どだろう。
「うちのクラスの体育担当、陸上部の顧問だからね~。定期的に長距離入れてくるんだ」
「そうなのか」
それっていいのか?と優人は思ったが、ここが月母尾である事を考えるとその辺りは緩いのだろうという結論に達した。
「でも、丸山以外は走ってないみたいだけど?」
この辺りにそれらしき女子生徒の姿を優人は見ていなかった。
「ん?……あ、そうか。私だけルートが違うんだよ」
「どういう事だ?」
「私の身体は死体だから、腐らないようになるべく日陰を通るルートになってるんだ」
「成る程」
「って、だから長距離走の途中だった!行かなきゃ!」
「あ、うん。頑張って」
「うん!」
ナオは元気よく答えて、走り出した。
……かと、思うとすぐに引き返してきた。
「ひょっとして、最近転校してきた想月家の居候って梔子君の事?」
「ああ、そうだけど」
「そうなんだ!想月家にはお姉ちゃんが働いてるんだ。知ってる?」
優人は使用人の聞き込みをした時の事を思い出した。
「そう言えば、メイドさんに丸山姓の人がいたな。下の名前は真希だったか?」
「うん、それがお姉ちゃん。よろしくしてね!」
そう言って、ナオは走っていった。
「よろしくも何も……」
今扱っている事件では使用人は容疑者だよなぁ、と優人はため息を吐いた。




