・探偵契約 其の二
既に、陽は落ちていた。
「はい、着きましたよ、想月本家です」
“想月本家”だけでタクシーが来られるというのもおかしな話だと優人は思った。
「領収書下さい」
ミコが料金を払って、タクシーから降りた。
三人で木製の門の前に立つ。
想月家の門は巨大で単独ではそのまま開ける事が出来ず、勝手口として門の中に扉が取り付けられている。だが、夜という事もあり、勝手口は閉まっていた。
優人は想月家以外ではアニメか時代劇でしかこのような門を見た事がなかった。
「神道・守矢両名、梔子優人様をお連れして戻りました」
守が門の勝手口近くにあるインターホンでそう告げて、暫くすると閉まっていた勝手口が中から開けられた。
「お待ちしておりました、梔子優人様。ミコちゃんと守くんもお帰りなさい」
勝手口を開けたのは使用人の女性だった。
使用人の服装はクラシックスタイルのメイド服で長いであろう髪をシニヨンに纏めていた。
やはり、優人はアニメでしかそういった服装を見た事がない。
「こうして正式に逢うのは初めてになりますね。……お初にお目にかかります。メイド長の備海芽唯と申します。優人様、此方へ」
メイド長というが、その芽唯はまだ二十代に見えた。
その芽唯の先導に従い、着いていった。
外の門からは想月の敷地内は和館が想像出来たが、使用人の服装がメイドであった事から伺えるように内部は洋風。
山を切り分けた広大な敷地の前面には庭師によって丁寧に管理されたガーデンにシンプルだが存在感のある噴水。奥には古風ではあるが、古びたとは言わない大きな洋館が立っていた。
「優人様、お疲れでなければこのままお嬢様にお逢い頂きたいのですが」
その洋館に入ったところでそう提案された。
「……はぁ」
「どうなさいますか?」
疲れていない訳ないじゃないか、そう思いながらも優人は頷いた。
「かしこまりました。ミコちゃん、守くん、優人様のお荷物を頼みます」
「「はい」」
二人に荷物を任せると芽唯の後ろに着いて歩く。
お嬢様――サラか、と優人は少し憂鬱になった。
優人はサラと接点があったと言っても仲が良かった訳ではない。
総月家の敷地内に入ったのは今日が初めてだった。
むしろ、梔子優人にとって想月沙良は忌むべき記憶だった。