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オモイツキ  作者: 結城コウ
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Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の八

サラの部屋に二人で向かいあって座っていた。

「さて、事件の捜査とやらをしないといけないんだったな」

「はい、助手役としてミコか守、またはその両方を着けようと思います」

「それは、まぁ、有り難い事だが、そもそも吸血鬼を捕まえるというのは聞いたが、事件の内容を知らないといけないな」

「資料は纏めてあります」

そう言って、サラは一つのファイルを優人に手渡した。

優人はそれを手に取り、パラパラと捲った。

資料には一枚毎に吸血鬼らしき存在に襲われた被害者と詳細な内容が記されていた。

「人を襲う吸血鬼を探してほしい、のです」

「そりゃ、見れば分かるけど……」

「重要なのは人を襲う、という事です」

「?」

「この月母尾には私を含めて、妖怪・人外は沢山います。だから、吸血鬼と言っても人を襲わなければ問題はないの、です」

「あ、ああ……」

優人は学校での出来事を思い出した。

「とは言え、一般的な人間とは違う……います。出来る限り、共存の名の元に平等を目指して、ますが、そこに差別・区別が生まれる可能性はないとは言えない、のです」

「えっと……だから?」

優人は自分の頭の回転の悪さが嫌になった。

「ええ、ですから。自分の身の上を隠して普通の人間として振る舞う存在もい、ます」

「そうか。えっと……」

「勿論、それ自体に問題はない、です。でも、中には自分の身の上を隠した上で他者に害を成す者もいる、のです。それが……」

「今回の吸血鬼……?」

「そう、です」

「ふむ……」

優人は腕を組んだ。すると、胸ポケットに何か入っている感触がした。

「あ……」

優人はそれを取り出した。よく売られている棒付きの飴玉だ。

「どうしたの、ですか?」

「いや……失礼するよ。糖分を摂取した方が頭回るんだ」

「そうですか。なら、何か用意させ、ましょう」

「いや、こいつで十分」

優人は包装と取り、飴を口に含んだ。

「はぁ……では、えっと……」

「…………」

優人は飴を口に含んだまま、口元に手を当て、天井を見上げた。

「……よし」

「優人くん?」

「つまりは、吸血鬼は自分の存在を隠しているって事なのか?それとも一部隠れ吸血鬼がいるのか?」

「え……あ、そうですね。吸血鬼は前者、です。想月家では新たに生まれた存在……妖怪・人外が生まれた時は届を出すようにして、います。そして、その存在を認知した上で共存の為の方法を模索するようにしています」

「想月家は法だと言ってたが、役所と議会のような役割という事か」

「え、ええ……」

「となると、吸血鬼は差別を恐れたのか?人の生き血を啜る、というのは確かに宜しくないイメージではあるが」

「推測の域を出ませんが、その可能性が高いと思う、います。単に血液が必要というのなら、輸血パック、人体から直接必要なら献血のような方式で採取するシステムを作る……想月家にはそれだけの権限はある、ますから」

「成る程。では被害者の方はどうだ。何か共通項はあるか?」

「え……えっと……そう、ですね。強いて言うなら人通りの少ない場所で夕方から明け方までの時間に襲われてる、というところ、でしょうか」

「……資料を見た限り、老若男女問わず、一人でいた所を襲われているな」

「いずれも背後から襲われて、気を失うまで、です。中には死者も出て、います」

「だからこそ、想月家も看過出来ない、という事か……ん?」

「どうしました?」

「死者は二名……十九歳と二十五歳……いずれも若い男なのか」

「ええ、そうですね」

「……ふーん」

優人は頬杖をついた。

「……優人くん、実はこの事件を真っ先に解決してほしい理由があるんです」

「理由?」

そう聞き返した優人だったが、それではまだ他の事件が並行して起っているのかと辟易した。

「私、子供の頃吸血鬼(ヴァンパイア)の本を読んだんです」

「……そんなの、珍しい事じゃないだろ、よく題材に使われる存在だ」

「……想月家は、創作物を読むのは禁止されているんです」

「!?」

「考えた事が実現するんです。なら、本でもテレビでもゲームでも、必要以上に刺激するのはよくないに決まっているんです」

「…………だから」

「え?」

「いや、続けて」

「だけど、私は見てしまったんです」

「吸血鬼が題材の本を?」

「はい」

「だから、その自分のしでかした事の処理を優先したいと?」

「――――そうかも知れない、です。でも、それだけじゃない」

「理由。他にもあるのか?」

「ねぇ、優人くん。吸血鬼ってどんなイメージ、ですか?」

「?……吸血鬼って言うんだから、血を吸うんだろ?」

「それ以外は?」

「えっと……日の光に弱い、十字架に弱い、ニンニクに弱い、銀に……は西洋の怪物全般が弱かったか」

「そう、西洋の怪物。なら、吸血鬼の住処は……?」

「洋館?……あ」

優人は月母尾の景色を思い浮かべた。

「そう、なんです。月母尾に洋館はこの想月家しかないんです。山村部分は和風の家ばかり。都市部分には近代的な建物と一般的な居住ばかり」

「なら、この想月家(いえ)に、吸血鬼が?」

「……そうなると、第一候補は私ですよね?」

「え、あ、ああ……」

「だけど、私は私が犯人じゃない事を知っている。でなければ、こんな事を頼みません」

「そりゃあ、まぁ……」

そうは言いつつも、依頼者が真犯人であるパターンのミステリーを優人は幾つか知っている。

「母も違う、でしょう。仮に吸血鬼になってしまったとしても、想月家の人間なら何とでも出来、ます。わざわざ人を襲わなくても」

「つまり、使用人の中に犯人がいると?」

「その可能性が極めて高い、です」

「守矢や神道は大丈夫なのか?」

「え?」

()のサポートにつけるんだろ?犯人じゃないという可能性はあるのか?」

「その可能性は低いと思、います」

「それは何故?」

「彼らには『役割』がある、んです。『退魔師』という役割が」

「退魔師?エクソシストとかお祓い屋の事か?」

「そういう意味もありますが、『契約』の上では違います。『探偵』が推理や捜査で事件を解決する役割なら、『退魔師』は武力で事件を解決する者」

「武力……鬼達とは違うのか?」

「そう、ですね。前に鬼達は警察の役割と言いましたが、それを撤回して鬼達は自警団、『退魔師』は警察、そう言えば分かり易いと思、います」

「そうか、読めたぞ。『退魔師』っていうのは、話し合いで解決できない、妖怪や人外を……倒す存在。鬼達との違いは契約の有無か。本来なら、『退魔師』の方が正式な者だが、鬼達の知名度が高いから、普段は鬼達に任せてる、そんなところじゃないか?」

「は、はい。言いたい事を殆ど言って、くれましたね」

「殆ど……ああ、そうか、鬼達が反旗を翻した際の切り札でもある訳か」

「!?……優人くん?」

「ああ、いや、余分な事を言ったな」

「……」

サラは優人を確かめるように見つめた。

「サラ?」

「い、いえ……えっと……そう、ですね。ミコは代々伝わる退魔師の家系なんです。今は退かれたご両親も父の代で退魔師をやっていたそう、です。守は元々、私のボディーガードで、その役割を全うする為に契約を交わした経緯があります」

「そういう事はいいよ。今度直接聞いてみるさ。重要なのは、『探偵』が犯人にならないように、『退魔師』も犯人にならないのか?」

「……絶対とは言えません。ですが、可能性は極めて低いです」

「そうか……なら、頭には入れておかないといけない。ゼロじゃないなら」

「……」

「勿論、サラやレルシィさんだって、そうだ。」

「……そうですね。探偵はあらゆる可能性を追及するものですから」

理解はしていても、納得はしていない、サラはそんな表情だった。


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