Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の六
昼休み、用意されていた昼食を食べ終わると、優人はサラと一緒に談話室に呼び出された。
優人の今後についての話だという事は予想出来た。
談話室には担任と学年主任だという中年男性がいた。
優人達が席に着くと、中年男性から話し始めた。
「早速だけど、時間に限りがあるので前置き無しで行かせてもらうよ」
「あ、はい」
「まずは勉学の方だ。梔子君には此方に来る以前に、現在の学力レベルを測る為の小テストを受けてもらった、その答案は今手元にある」
そんな事もあったな、と優人は他人事のように思う。
「正直に言うのなら、想定していたレベルよりは高かったと言える。ただ、学年の最低ラインは割っている」
「まぁ、想定がどうかは知りませんが、そんなものでしょう、僕なんかは」
これまた他人事のように、優人は言う。
「いや……梔子君の現在の身体の状況。それについての資料をお父さんから受け取っていたのだが、それと照らし合わせると、非常に優秀だと取れる。勉強家なのではないかね?」
「そうですか?」
「日に勉強はどれくらいやっているんだい?」
「その日の体調次第なんで何とも……出来る時は出来なくなるまでやりました、というところです」
「その姿勢は努力家に映る」
「……不甲斐ない自分が嫌だっただけです」
「それは……」
「動機なんて、なんでもいーんですよー」
急に口を挟んだ担任に優人は驚いた。
「よく言うでしょ?続ける事が大事って」
「え、はぁ……」
「普通はね。自分がどんなに努力しても周りに追いつく事さえできなければ、嫌になっちゃって諦めちゃうんですよ、普通の人間なら。自分が好きな事ならまだしも特に勉強なんて大抵の子は嫌いでしょ?それを、言い方は悪いけど愚直に続ける事が出来る梔子くんは凄いんです」
「そうですか?」
「そうなんですよー。梔子くんは将来の事、卒業した後の事は考えてますか?」
「え、いや。まだ、何も……その時、どうなってるかわからないし……」
「そうですかー。まぁ、一年生ですし、無理はないかも知れませんねー。でも、梔子くんが努力を続ける事が出来たなら、進学する事が出来ると先生達は思ってるんですよー」
「え……そうなんですか?」
優人に先の事を考える余裕はなかったが、自分の事を顧みれば進学は不可能だと感じていた。
「その是非はともかくとして、勉強をする事に意味はある。知識は持っていてそうそう損になるものじゃないからね」
今度は学年主任が口を挟んできて、優人は其方を向いた。
「あ、はい」
「そこで、親御さんや想月さんとも話したんだが、梔子君用の教材を出そうと思う」
「僕用の?」
「ああ、授業でやる内容とは異なるが、各教科での梔子君の学力に合わせた教材を出してそれを授業中は進めてもらう。我々としてはそれがベストだと思っているが、梔子君の意思を尊重したい」
「……それってつまり、一人だけそんな風に授業を受ける事を俺が恥ずかしいと思うんじゃないかって事ですか?」
「そういう意味でもあるね」
「そんなの、こんな身体になった時点で気にしてられないですよ。仕方のない事だって割り切ってます。自分には出来ない事を出来ないのはどうしようもないじゃないですか」
「そう言ってくれるのは此方としても有り難い。教材の方は準備出来ているが、明日からの導入で、とりあえず今日はそのまま授業を受けてほしい」
教材の準備が既に出来ている事は半ば決定事項だったと考えるのが自然だろう。
恐らく余程強い拒絶を見せない限りはその方向で行ったのではないかと優人は思った。
「さて、では体育などの運動の方についてなんだけども」
「……逆に聞きますけど、ついていけると思います?」
「いや……」
「其方も最初から分けられた方がいいですよ。下手に同じ内容にして醜態を晒す方が辛いに決まってます」
「それが、梔子くんの自己評価ですかー?」
「そうですけど……」
「ふむー……自分を客観視出来るのはいい事ですけど、後ろ向き過ぎるのは問題ですねぇ~」
「現実を見たつもりですが……」
「出来ないだろう、と言うのはわかるんですけどー、醜態を晒すとまでは自分を卑下し過ぎじゃないですかねー?」
「……」
優人にはプライドと言えるものが殆どない。
そんなものを保って生きられる程には余裕のある身体ではなかった。
「……今はその事はいいんじゃない、ですか?優人くんが自分の状況を理解して、自分にとってベストだと思える判断が出来ているなら、それで」
サラが助け船を出した。
「優人くん、後は私が話しますから、意見や違うと思う事があったら言って、下さい」
「あ、ああ……」




