Q.血を奪う者-ヴァンパイア- 其の五
話し合いから戻ってきたサラと合流し、二人は時間までベランダに出て話をする事にした。
「そんな事があったの、ですか?」
先程のやり取りを聞いて驚いていた。
「うん」
「……」
サラは難しい顔して考えだした。
「えっと……何か問題があったか?」
「あると言えばあるの、でしょうか……」
「うん?」
「いえ、その……」
「……俺の頭はポンコツだと言ったろ?言うのなら、はっきり言ってくれたほうがいい」
「そう、ですね……優人くんは、昔の暮らしていた時の事を覚えていない。それはつまり、月母尾のルールを知っていないとも言えます」
「ルール?」
「暗黙の了解と言うか……地域によって細々なルールが違ったりするでしょう?ゴミの分別から、風習に至るまで」
「あー……うん」
「当然ながら、月母尾にも……いえ、月母尾だからこそより、特殊なルールがある、のです」
「オモイツキの崇拝みたいな事か?」
「ええ、それと同じです。鬼は月母尾から恐れられています」
「まぁ、鬼って言うぐらいだし……ん?でも、想月家とは仲良くしてるって言ってたけど」
「ええ、それはそうでしょう。鬼とは月母尾の創世記の頃からの付き合いになりますから」
「どういう事なんだ?」
「鬼は日本の古来からある妖怪です。月母尾の鬼も、オモイツキが現れてから比較的早い段階から生まれていたと聞きます。まぁ、起源の話はともかくとして、優人くん。一般的な鬼のイメージってどんなものですか?」
「ん?えーと、まぁ、デカい強い怖い……語彙が乏しいな、俺」
「ですが、本質とも言えます。デカ……大きいと言うのは刹乃には余り当てはまりませんが、このクラスの鬼もおおよそそんなイメージを抱くでしょう」
「まぁ……確かに」
そうは言うものの、優人はそういう感情を余り抱いていない。
恐怖という感情が、半ば壊れかけていた(・・・・・・・)のだ。
「妖怪というのは、一般的にその殆どが人間に害を及ぼすモノだと考えられています。そうでない妖怪も居ますし、月母尾に適応し無害になった妖怪もいます。古くから居る妖怪の殆どは無害になったモノばかりです」
「じゃあ、鬼も無害に?」
「人間社会に適応したんです。秩序として」
「秩序?」
「私達、想月家が月母尾の政府・司法であるなら、鬼の一族、特に鬼崎家は警察と思ってもらえばいいでしょう……まぁ、見た目や言動は反社会的なモノにも見えますが」
「という事は、想月と鬼崎は協力関係にある、という事か」
「そうです。想月家には、月母尾にはオモイツキ信仰があるとは言え、それは精神的なものに過ぎない、です。そして、何か問題が起った時、対応するのは信仰の神ではない、のです」
「そうか、だから警察という役割……それを鬼が担っているんだな」
「そういう事です」
「それはわかったが、どうして鬼達は協力してくれてるんだ?」
「協力……というのも正確ではありません。それは鬼達にとっても共存していく中で必要な事、ですから。鬼は月母尾で暮らしていくしかありません。そして、仮にオモイツキに邪魔だと思われれば、どうなるかわからない以上、どんな力を持とうと、想月家に協力をするしかないんです」
「……そうか、鬼も僕と同じという事か」
「――――」
サラは大きく目を見開いたかと思うと、その目を閉じて頭を振った。
「いえ、月母尾で生きる者全てがそうです」
「そうか……そうだな」
――だけど、自分は例外じゃないのか?と、優人はそんな言葉を口にしかけてやめた。
「で、結局のところ、そんな鬼と馴れ馴れしくしちゃあ駄目って事なのか?」
「い、いえ、そういう訳ではなく……共存しているとは言え、ある意味では鬼は畏怖の対象とも言えます。そして、それは鬼達も自覚している事です」
「ふむ?」
「余り、恐れを知らない態度は、優人くんにとっても、鬼達にとってもよくありません」
「それは――想月に――サラにとっても?」
「――――はい」
「わかった。だったら、善処する」




