・探偵契約 其の十
「一つ聞くが、全て分かっていた上で提案したんだよな?」
「は、はい……」
「言うに言えない気持ちは分かるが、もう少しさらりと言ってくれたほうが助かったと思う」
「うう……」
「気持ちの整理が出来てないなら、また後日にしよう」
「い、いえ、私は大丈夫、です」
「そうか、なら始めるか?」
「え、ええ……優人くん、ドライなんですね」
「しなければいけない事なんだろ?」
「それはそうですけど……」
「なら、人工呼吸と同じだよ」
「え、ええっ!?」
「まぁ、女心としてはそういう訳にはいかないんだろうけど、案外そんなもんさ」
「ちょっと、ショックです……」
ちょっとと言うが傍目ではかなりショックのようだ。
「意識したら、余計に気まずくなるだろ?」
「そう、ですけど……」
「だから、これはノーカウント、それでいいだろ」
「え?」
「仕方なしにしたやつをカウントに入れるなよ。俺だって本来は初めてなんだ」
「あ……」
「こんな状況で彼女なんて出来る訳ないだろ。だから、俺だって……そういう事だ」
「ご、ごめんなさい。私、自分ばっかり……」
「気にはするな。理解だけしてくれたらいい」
「は、はい……と、執り行いますね」
「ああ……なんとなく唇同士でやるものだと思って話を進めてたが、唇にするのか?」
ふと、優人の頭に浮かんだのは女王に騎士がするような手の甲のキスだった。
「厳密には何処でもいいんです。でも、唇同士のほうがより強固な契約になります。だから」
「それで、いいのか?」
「簡単な契約では、優人くんの身体を蝕むものに抗えません」
「……わかった」
「私が口上を述べます。終わって合図をしたら、お願いします」
「ああ」
サラは一息、吸い込んだ。
「強き想いに宿りし神よ
想い付喪神よ
見届けよ
今、此処に想月沙良の名において
探偵契約を結ぶ
梔子優人を探偵と認め給え
今、此処に契約の証を示そう」
サラが優人に目で合図を送った。
サラは目を閉じた。
優人には直前に躊躇いが生じていた。
唇でなくても契約は結べる。
だが、それでは、自身の命を繋ぎとめられるかわからない。
だからこそ、サラは……
優人はサラの唇に唇を重ねた。
「……」
「……」
契約が完了した後には沈黙が待っていた。
「気まずくなるって言っただろ……」
優人が堪らず口にした。
「だ、だって仕方ないじゃない、ですか」
「いい加減、苦手なら敬語やめろよ」
「そ、それはいいで、しょう?」
「わからなくなってるじゃないか」
「ゆ、優人くんの意地悪っ」
「そういう問題か……」
その言い方に敬語の欠片もない事はあえて指摘しなかった。
「あー……で、とりあえず、だ」
「え?あ、はい」
「契約を結んだのはいいが、これからどうすればいいんだ?」
「あ、それは……今、起ってる事件の捜査をお願い、します」
「今起ってる事件……なんだ?」
「それは……」




