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異世界チートは「体が頑丈」。地味とか言うなよ、超便利。  作者: いずみ
一章 ここはどこだよ。
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第五話 魔術とは

「では、まず魔術について説明をしておきましょう。知らないとは驚きですが、仕方がありません」



 ティオナは剣を握ったまま、大きな木の根に腰を下ろした。幸太郎も同様に地面に座る。私はティオナに変に警戒されないよう、おずおずと二人の近くへと移動した。これ以上美少女に嫌われたくないです、はい。

 ティオナは私に一瞬だけ警戒するような視線を向けたが、すぐに気を取り直して、説明を始めた。



「魔術とは、体内の魔力を魔道具を通して変換し、さまざまな目的に利用する術のことを指します」



 私と幸太郎は黙って頷く。魔術とかそんなフィクションな存在について、自分がこんなにも真剣に聞くことになるとは思わなかった。

 それにしても、ティオナには今も怪しまれてはいるが、お互い拘束されずに話し合えるとは大きな進歩だ。我が弟ながら、よくこんな落ち着いた場を整えられたものだと感心する。

 しかも、最初は『3つだけ』だった質問も、協力関係を結ぶことでその制限をさりげなく無くしている。

 幸太郎は初めからこれが目的だったのか、と幸太郎に目で訴えると、真顔でピースサインをしてきた。おお、頼もしいけど頭良すぎてちょっと引くわ。

 私はティオナに視線向け直し、疑問に思ったことを尋ねた。



「その、魔術ってのは誰でも使えるものなの?」


「魔力を魔道具に通せば、基本的には。ですが、魔道具との相性や使用者の資質によって、発動できる魔術には差があります。難しい術であれば、適正がなければ使うことはできません。……魔力を知らないあなた達の場合は、簡単なものでも使えるかわかりませんが」



 ティオナは『私たちが何も知らない』ということに関しては本当だと思ってくれているようで、わかりやすく丁寧に話してくれてた。そして、腰に巻いているポーチ状のカバンから、手鏡のような薄い長方形の石板を取り出す。



「これは『ノワール』という通信用の魔道具です。僅かな魔力で起動させることができて、ノワール同士での会話や現在地の確認、魔力の探索などが可能です」



 すると、石板の表面が淡い紫色の光を放って、地図のような絵が浮かび上がってきた。

 私たちは驚きで目を見開いた。



「おお、すごい……!」


「魔力で動くスマホみたいなものなのか。面白いな。……ちょっと触ってもいいですか?」



 ティオナはすんなりと幸太郎にノワールを渡したが、幸太郎の手に渡るとすぐに、地図の絵は消えてもとの石板に戻ってしまった。



「あれ、消えちゃったね。幸太郎、ちょっと気合いで魔力とか通してみてよ」


「できるかよ。多分俺たちは使えないんじゃねぇかな」


「そうなの?この世界じゃ使えるんじゃない?」


「んー、いきなり違う国に行って、その国の言葉が話せるようになるわけじゃないだろ。それと同じで、異世界に来てすぐ魔術が使える方がおかしくないか?」


「おー、なるほどね。でも、練習したらできる可能性もあるかもね、もし魔力ってのが私たちにもあるなら」


「ああ、そうだな。どう練習したらいいのかは、さっぱりだけどな。……そもそもどうやって魔力をつくるんだ? 別に何も感じないよな?」


「うーん、もしかしたら、魔力をつくる器官か機能か何かが、この世界の人だけには別にあるのかも。そうだったら私たちには無理だね」


「確かにな」



 幸太郎は「ありがとうございます」とティオナにノワールを返した。ティオナは「え、ええ」と戸惑いの様子になりながら受け取る。

 え、何か変なとこあったかな。

 幸太郎も疑問に思い、ティオナに尋ねる。



「どうかしました? ティオナさん」


「い、いえ、あなた達、真面目な会話ができるんですね。てっきり頭が………いえ、何でもありません」


「うん、バカだと思われてた!」


「主に姉ちゃんのせいだけどな」



 幸太郎が呆れた目で見てくる。思い当たる節がないので私は空を見上げた。はて、何のことやら。


「姉ちゃんは美少女だけが弱点だからな。あと落ち着きがない。本当は頭は悪くないのに、残念だ」


「幸太郎こそ、化け物ムカデに追われてた時も冷静に分析とかしてたけど、もっと危機感持ちなよ。頭良すぎてそこがダメ」


「褒め言葉として受け取るよ。頭が良いってな」


「私も褒め言葉として受け取るよ。美少女は良いってね」


「言ってねぇよ」


「話を続けても?」


 軽口を叩く私たちを仕切り直すように、ティオナは遮った。こちらを軽蔑するような目で見ている。もうふざけるのやめよう。


「私の今回の任務は、犯罪組織と疑わしい集団がこの地域に潜伏しているとの情報が入ったので、その存在の調査をしていました」


「あれ、捕まえる必要はなかったんだ?」


「ええ。ですが、潜伏していることは間違いないようなので………制圧します、必ず」


 剣の柄を握り締めながら、ティオナは言った。彼女の言葉には強い意思がこもっていて、犯罪組織を倒すことに、何か拘りがあるように聞こえた。単に正義感が強いだけなのだろうか。

 幸太郎も同じ事を感じたようで、眉間に少しシワを寄せ、何か引っ掛かったようだった。



「………もし相手の人数や戦力に差があった場合、撤退しますか?」


「いいえ、撤退は最終手段です。確実に制圧するために、あなた達と協力関係を結んだのですから」


「何でそんなに拘るの?」


「………あなた達には関係ありません」



 言う必要がない、と拒絶されたようだった。

 明らかに勝ち目が無い時は、勝負を挑む前にすぐに逃げるべきだ。相手が集団での犯罪者であれば、容赦なく反撃されるだろう。

 本当に退くべき時に、ティオナは正しい判断と行動をとることができるか、私は不安になった。



「でも、その時は――」



 私がティオナを説得しようとしたその時、「ドンッ!!」と、上空から白い塊が私たちのすぐ隣に落ちてきた。私たちはそれぞれ反射的に、その塊から距離を取るため跳んだ。

 塊は一つだけでなく、その後に何個も重い音を響かせながら、地面に落ちてきた。



「アギギギギ」

「ガーガ、ガギ」

「アア、ギギガ」



 砂ぼこりが晴れると、そこには猿かゴリラのような生物が、何体か立っていた。

 猿やゴリラと似ているのは顔のみ。体は異様に細くて体毛が全くなく、白い肌が不気味に露出している。目は絶え間なくグルグルと回り、口からは緑色の涎を垂らしていた。なまじ人間に近い分、余計におぞましく思える。

 私は自分の腕に鳥肌が立つのを感じた。



「何あのガリガリゴリラ、気持ち悪っ!」


「猿人型の魔物ですね……丁度良いです」



 ティオナは落ち着いた様子で前に出た。

 剣の切っ先を、狙いを定めるように、ゴリラの化け物に向ける。



「術式起動――光剣複製」



 そう呟くと、ティオナが持つ剣にあてがわれた赤色の宝石が、真紅の光を放った。

 紅い光は文字のような線へと変わり、ティオナを囲むように空中に浮かんでいる。まるで抑えきれない力が溢れるように、ティオナを中心として風が吹いていた。

 初めて見る、これが魔術。

 疑い用のない現実が、今、目の前にある。



「おおおおお!!本物だ!」



 私は思わず声を漏らしが、幸太郎は観察するように無言でティオナを見ていた。

 ティオナを囲んでいた文字はやがて形を変え、剣と同じ形をした、紅い光の剣が無数に現れた。



「発射っ!」



 ティオナの叫びと共に、光の剣は一斉に化け物へと放たれた。

 風を切るように放たれた光の剣は、化け物の群れを次々に突き刺さる。

「ゴギャアァァァ」と化け物たちの悲鳴が辺りに響く。


 圧倒的。化け物はティオナに近づくことすらできない。ティオナはまさに化け物たちを圧倒していた。



「……幸太郎、あれが魔術だよ。すごいね」


「そうだな、驚きだ。とても興味深い」


「……あのさ、今から戦う犯罪組織とかもあんな感じなのかな。勝ち目なくね?」


「……」


「遠距離からだとさ、私たちどうしようもなくない?」


「…………」


「返事して? ねぇ、返事して!?」



 幸太郎は私の目を見ようとしない。おい、こっち見ろや。そして何か言えよ。頼むから何か言ってくれよ!


 魔術師というものが、皆あんな破壊力を持っているのであれば、私と幸太郎に勝ち目はない。私たちができるのはあくまでも近接戦闘で、喧嘩の延長戦みたいなものだ。一人で剣の雨を降らせるような相手には、逃げるしかない。

 さっき幸太郎がティオナを倒せたのは、不意を突いたからだ。真正面からじゃ、間違いなく瞬殺だ。

 え、やばくね。あんな技が使える集団とこれから戦うの?無理じゃね?


「あ、アガカガ」

「ギギ、ガァ!!」

「ギギィガァ!!」


 ほとんどの化け物たちはティオナの光剣によって倒されていたが、僅かに生き残りがいるようだった。目をこらして数えると、残っているのは3体。

 ティオナは振り返り、私たちに近づいてきた。

 そして、私たちに刺さるような視線を向ける。



「あなた方が戦力になるか……残りの魔物をあなた達だけで倒してみてください。差ほど強い魔物ではありません」


「え、あのツルツルゴリラの化け物を?無理無理無理、嫌です」


「負けるようであれば魔術師相手に戦えるわけがありません。……戦わないのであれば、私も敵になります」



 ティオナは剣を握る手に力を込めた。本気の目をしていた。

 喧嘩でチンピラと戦うのならまだしも、あんな気持ちの悪い化け物と戦うなんて嫌だ。近づきたくもない。私は助けを求めて幸太郎を見た。きっと私と同じ気持ちのはずだ。



「よし、やるか姉ちゃん」



 幸太郎は学ランの上着を脱いでいた。軽く肩を回して準備運動してやがる。お前何でそんな受け入れるの早いんだよ。羨ましいな。


こんにちは、作者です。

実はアフリカでの感染症にかかってました。いろいろとヤバかったです。作中では幸太郎と遥がピンチな状況ですが、作者はそれを上回るピンチでした。まさに一心同体ですね。やかましいわ。


あ、ツイッター初めて見ました。

詳しくは活動報告に書きます。停電やら何やらで不定期更新なので、もし続きが気になるよという方がいればフォローすると楽だと思います。あとアフリカでの愚痴を呟いています。ええ、それはもう。


いつも見てくださってありがとうございます。

次の更新をお楽しみに

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