第四話 話し合いましょうか
私と幸太郎は、ティオナに自分たちの世界について話した。日本のこと、東京のこと、そして化け物や魔術が存在しないこと。
私たちの話をどうにか信じてくれたティオナは、この世界についての情報を、私たちに教えてくれた。そのおかげで、私たちは自分たちが置かれた状況を、少なからず把握することができた。
……なーんて話がそんなに上手く進むと良かったんだけどね。
「くっ、手枷を外しなさい! そんな話を信じられるわけないでしょう! あなた達に話すことなんて、何一つありません!」
「まぁ、そうなるわな。さて、どうする? 姉ちゃん」
「うーん、頭が固い美少女ってのもまた良いけど、困ったなー」
私と幸太郎は、ティオナから手錠の鍵を奪っ……拝借して自由になった。
本当は美少女を拘束するなんてしたくなかったけど、暴れられるとゆっくりと話すこともできない。私たちは仕方なく、さっきまで着けていた手錠をティオナの手足につけて事情を説明し始めた。ごめんね。でも、拘束されても銀髪美少女の可愛さは健在でした。新たな性癖に目覚めそうになった。危ない所だった。
どうにか理解してもらい、ある程度信用してもらったら解放しようと思っていたけど、「ふざけないでください!」とティオナはそんな可能性を微塵も感じさせない態度だった。烈火のごとく激しい怒りだ。
まぁ、その反応も納得なんだけど、どうしたものか。
うーん、世の異世界転移者たちは、どんな風に受け入れてもらっているのかなぁ。もっとラノベを読んでおくべきだった。
隣を見ると、幸太郎はティオナから奪った剣を杖のように地面について、私と同じようにどうしたものかと首を捻っていた。
頭を掻きながら、幸太郎が言う。
「まぁ、でも……ティオナさんの反応から、ここが異世界であることだけはわかったな」
「そうだねー。信じられないけど……」
「姉ちゃん……最悪の場合、俺たちが元の世界に帰れなかったらさ、この世界で生きていくことを受け入れられるか? 」
幸太郎がいつになく真面目な表情で尋ねる。その表情に、私はしばらく真剣に考え、幸太郎に答えた。
「無理だと思う。じいちゃんにもう会えないのは嫌だ。学校の友達に会えないのも嫌だ。母さんたちの墓参りにも行けなくなるのも嫌だ。絶対に諦めない」
「そうだな、俺も同じだ」
力強く幸太郎は頷く。私たちは改めて、拘束されているティオナを見た。
帰る方法を見つけるためにも、まずはこの世界の人達の協力が必要だ。魔法とやらが本当に存在するのであれば、別の世界に移動する魔法とかがあるかもしれない。さっきのムカデの化け物みたいに、危険な場所についても知る必要がある。
うん、諦めるわけにはいかない。一人なら無理でも、幸太郎が一緒ならきっと大丈夫だ。どうにかティオナを説得しよう。
「幸太郎、何とか信じてもらう方法ないかな?」
「普通に無理じゃねぇかな。いきなり会った不審者に捕まって『異世界から来たんです!信じてください!』って言われたら、姉ちゃんならどうする?」
「ぶっ倒す」
「だろ」
「幸太郎なら?」
「通報する」
うん、どうやら手詰まりのようだった。信じてもらえるはずがない。私が同じ立場なら殺意しか抱かない。
チラッとティオナの方を見ると、眉間にシワを寄せてこちらを睨んでいた。ご、ごめんて。くっ、それにしても美少女はどんな姿でも絵になるなぁ。いや、別に私にそっち系の趣味はないけどさ。レズでもないし。
私はただ、可愛いものを愛でたいだけだ。
幸太郎はため息をついて、私たちを睨んでいるティオナに話しかけた。
「えーっと、ティオナさん。答えられることだけ答えてくれませんか? すぐに解放しますんで」
「……信用できません。本当はあなたたちは魔術犯罪組織の一員か何かでしょう。そう簡単に情報を与えるわけにはいきません」
「魔術犯罪組織……?そんなものまであるのか……。姉ちゃんはどう思う?」
「ティオナちゃんはしっかり者の美少女なんだね。好感度、爆上がりです」
「俺はもう姉ちゃんには頼らない」
唐突に弟が自立してしまった。何でだろう。お姉ちゃん悲しい。「姉ちゃんはしばらく黙ってろよ」と釘を刺され、幸太郎は再度ティオナに話しかける。
「この美少女大好きバカが、その、魔術犯罪組織とかの人間に見えますか? 犯罪を起こせる知能があるように見えます?」
何これ、弟がめっちゃ貶してくる。反抗期だろうか。
「さっきから怪しい視線を向けられて、身の危険を感じます。犯罪者と疑うには十分です」
「くっ……おっしゃる通りだ。何も言い返せない」
「ひ、否定してよ!そんな視線送ってないからね、ティオナちゃん!」
「気安く呼ばないでください」
氷のように冷たい目を向けられた。な、何だよ、どいつもこいつも。
幸太郎は今度はまるでティオナに懇願するように言った。
「……では、ティオナさん。3つだけ、3つだけ質問に答えてくれませんか? 答えられる質問を、3つだけです。そしたら手錠を外します。剣も返します。約束します」
「……信用できる理由がありません」
「俺たちはさっきティオナさんが言ってたような、3歳の子どもでも知っているようなことさえ、わからないんです。そんな質問を3つだけです」
「…………」
「……あの犯罪者予備軍はあなたから遠ざけます」
「何が聞きたいんですか」
「受け入れられただと!?」
幸太郎は無言で私のジャージの首元を掴み、ズルズルとティオナから引きずり離した。え、扱いが雑すぎない? 弟よ。
私は木に寄りかかって膝を抱えて座る。竹刀袋を抱きしめて涙を堪える。いいよ、皆してそうやって私をいじめるんだ。もう知らない。
ふて腐れている私を、まるで存在しないかのように二人は会話を続ける。
「じゃあまず、さっき何とか魔術学校の所属って言ってましたよね。魔術を使って手錠外さないんですか?」
「魔術は魔道具がないと使えないでしょう。……あなた、それ本気で聞いているんですか?」
「本気ですよ。ありがとうございます」
困惑の表情を浮かべるティオナに、幸太郎は丁寧に礼を言った。私にも少しだけでいいからその優しさをわけてくれよ。
それにしても、この世界では道具を使って魔法とやらを発動させるらしい。私たちにも使えるだろうか。
多分、ティオナの魔道具はあの豪華な剣なのだろう。いかにも魔法が使えそうな感じがする。
幸太郎は続けて二つ目の質問をする。
「この……ゾンバ地域でしたっけ、ティオナさんはここで何をしているんです?」
「本当に何も知らないんですね……。グラダス魔術学校は、第一から第三警戒区域の管理をしています。この第三警戒区域であるゾンバは、魔術犯罪組織が潜伏しているという情報があり、私は学校から派遣されて調査をしていました。このグラダスの制服が、その証拠です」
「なるほど……制服を見ればわかる、と言っていたのはそういうことだったんですね。ありがとうございます」
幸太郎は納得したように頷いた。でも私はいろいろと疑問が残った。
警戒区域、というのはあの巨大ムカデみたいな危険な生物がいる地域、という意味なのだろうか。いや、そもそもここは日本なのかどうかも疑問だ。
ていうか、学生が犯罪組織と戦うような危険な仕事を任されているのか。こんな若い子が。ティオナの年齢は私たちと同じくらいかそれ以下にしか見えないし、学校の職員ってわけでもなさそうだ。そんな子どもが、こんなにも危険な場所へと行かされる。
この世界は思っていた以上に、危険な場所なのかもしれない。
「最後の質問です」と幸太郎は言った。
「安全な街にはどうやったら行けますか?」
「……最も近いのは第一特区のケイトです。行き方は、ここからおよそ東に20キロ程です。徒歩か魔術を使えばいいでしょう」
「ありがとうございます。今外しますね」
幸太郎はあっさりと、ティオナの手枷を外した。「これも返しますね」と剣もすんなりと渡す。
ティオナは受け取った剣をすぐに構えて、大きく後ろに下がり幸太郎から距離を取った。幸太郎に先ほど言われたことから学んだのか、両手でしっかりと剣の柄を握っていた。おお、ちょっと可愛いな。
ティオナは幸太郎のことを、その青い瞳で睨む。
「あなた、何のつもりですか?」
「いや、外すって約束しましたし。ティオナさんに危害を加える理由はありませんよ」
飄々とした幸太郎の態度に、ティオナは警戒心を緩めない。幸太郎はいつもこんな感じだ。どんな時もマイペースで、だからこそ、こんな非常事態でも頭が切れる。
幸太郎はティオナに語りかける。
「ティオナさん、さっき魔術犯罪組織がここら辺にいるって言ってましたよね。良ければそいつらを捕まえるの、手伝わせてもらえませんか?」
幸太郎の突飛な提案に、ティオナはさらに顔をしかめる。
「手伝う? 何故ですか、それこそ理由なんてないでしょう」
「ありますよ。あなたに犯罪者でないことを証明できる」
「魔術も知らないくせに戦えるんですか?」
「知らなくても、戦えますよ。戦力になれます。ここで俺とティオナさんが戦うよりも、お互い理があるとは思いませんか?」
幸太郎の言葉に、ティオナはしばらく黙った。つい数分前に幸太郎に足元をすくわれたことと、幸太郎の今の意見を天秤にかけて、判断をくだしているようだった。
そして、やがてゆっくりと口を開き、
「……今度こそ、怪しい動きをしたら容赦なく切ります」
と言った。その言葉に幸太郎はニヤリと笑い、
「ありがとうごさいます!捕まえたら、今度こそ信用してくださいね」
と嬉しそうに答えた。
こうして、幸太郎とティオナは仮の共同戦線を張ることになったのだった。
うん、私の空気感がすごい。完全にモブじゃん。
こんにちは、いずみと申します。現在、アフリカで生活しながらこれを書いています。アフリカでの生活に慣れず、現実逃避も兼ねて小説を執筆し始めました。
投稿頻度が高くなれば高くなるほど、作者は現実で追い詰められていると思ってください。この前はトイレで大きい方をしている時に大量のバッタに襲われ、地獄とはここなのかと自分の運命を呪いました。ケツにクソがついたまま下半身丸出しで泣きました。
また、ブックマーク、感想、レビュー、評価をつけて頂けると、とても励みになります。いつも見てくれる方は本当にありがとうございます。綺麗な執筆意欲が沸き上がり、願わくばこちらが主な原動力になることを自分でも祈っています。
それではまた、更新をお楽しみに