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異世界チートは「体が頑丈」。地味とか言うなよ、超便利。  作者: いずみ
一章 ここはどこだよ。
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第二話 現地の人がいたよ

「なぁ、幸太郎くんよ」


「何だい、姉ちゃん」


「さっきのは驚いたねぇ」


「びっくりしたなー」


「でもさ、二人とも怪我はなくてよかったねぇ」


「不幸中の幸いって奴だなー」


 私と幸太郎はわはははは、と朗らかに笑う。さっきまでの危機的状況が嘘のようだ。


「うーん、でも何で私たち縛られてるんだろうねぇ」


「縄と手錠だよ」


「道具はわかってんだよ、何でって理由を聞いてるんだよ!」


 ジャラ、と両腕を拘束する手錠が鳴る。無理矢理冷静さを保とうとしていたが、もう無理だ。

 私と幸太郎は手足の自由を奪われ、身動きが取れずに地面に寝転がっている。耳を澄ませば、河のせせらぎの音が聞こえる。ああ、雲一つない青空が綺麗だなぁ。


「そりゃあ、滝から落ちて気を失ってたからだろ。やれやれ、不覚だったな姉ちゃん。じいちゃんに叱られるぞ」


「お前も同じ状況だろうが。いや、と、とりあえず落ち着こう、……よし、まずはこの邪魔な手錠をどうすればいいか考えよう。幸太郎、何か意見は?」


「Mに目覚めたらどうだろう」


「受け入れろと!?」


 何が『どうだろう』だ。神妙な顔で言いやがって。拘束されていなかったらグーで殴ってる。



 滝から落ちてから、どれくらい気を失っていたかはわからないが、私達は運良く溺れることはなかったようだった。

 幸いにも、意識を取り戻すと私たちは川辺に打ち上げられていた。しかし、両足には縄を、両腕を手錠で拘束され、自由を奪われていた。え、何で?

 あっはっは、理解不能だよー。もうやだー。

 混乱して地面をのたうち回る私を他所に、幸太郎はこんな時もマイペースな口調で言った。


「少し落ち着きなよ姉ちゃん。ヤバい時こそ慌てんなって。これは何だかんだラッキーだと思うぞ」


「ラッキー? どうゆうこと?」


「手錠をつけられたってことは人間がいるってことだ。あんな化け物がいても、生きてる人間がいるってわかったことは、少なからずラッキーだろ?」


「……まぁ、それは確かに」


 幸太郎に言われて、私は冷静さを少し取り戻した。

 確かに、それは一理ある。ここが何処なのか皆目検討つかないが、言葉が通じて事情を話せば、解放してくれる可能性はある。巨大ムカデに追いかけ回されるより、よっぽどマシだ。

 よし、まだ希望を捨てちゃいけない。少し落ち着いた。


 その時、誰かが近づいてくるような足音が聞こえた。


「目が覚めたようですね……。申し訳ありませんが拘束させて頂きました。悪く思わないでくださいね」


 聞こえたのは、まぎれもない日本語。

 声の方向に身体を転がすと、そこにはショートカットの銀髪の女の子が私を見下していた。青い瞳と日本人ばなれした顔立ち。服装は高校の制服のようなブレザーを着ていて、まるでお人形みたいにかわいらしい。


 ただ、その右手には西洋の騎士が持つような、豪華な装飾の剣が握られていて、切っ先が私たちに向けられていた。

 キラン、と刀身が太陽の光を反射する。



「……幸太郎、大変だ。銀髪美少女がいるぞ。めっちゃかわいいな」


「刃物向けられて第一声がそれとは、さすがだぜ、姉ちゃん」


「ふざけてるんですか?」


「ふざけてないです。真面目にかわいいと思ってます」



 無言で切っ先を首元に押し付けられた。

 あ、うん、ごめんなさい。現実が辛い余りに変なことを口走りました。

 明らかに警戒をしながら、銀髪の女の子は口を開く。



「まずは所属と名前と、身分を証明してください」


「え、えーっと、丘之上高校剣道部所属、桐生遥です。東京に住んでます。初めまして、よろしくね」


「姉ちゃん、多分この人が聞きたいのはそういうことじゃないぞ」


「トウキョウ?第七区のことですか?」


 第七区?

 聞き馴染みのない言葉に、私と幸太郎は首だけを動かして顔を見合わせる。

 幸太郎が落ち着いた様子で、美少女に答えた。


「俺は桐生幸太郎です。こいつの弟。第七区ってのはよく知らないんですけど、気がついたらこの森に迷い混んでいました。ここは何処なんですか?」


「……ここは第三警戒区域のゾンバ地域です。許可なく立ち入るのは違法であることは、知ってるでしょう?」


「ゾンバ? すいません、知らないです」


「知らないわけないでしょう。こんな危険な場所に侵入するとは……正体を明かしなさい!」


「た、ただの女子高生です!年は十七歳!」


「姉ちゃんは黙ってろ」


 呆れてため息をつく幸太郎。な、なんだよ、本当のことを言っただけじゃないか。

 幸太郎が「ところで」と仕切り直すように言う。


「そう言うあなたは誰なんです?」


「……私はグラダス魔術学校所属のティオナです。」


「魔術……? えーっと、それでティオナさんはここで何をしてるんですか?」


「何を、ですって?このグラダス魔術学校の制服を見て、わからないんですか?」


「よく似合っててかわいいと思います!」


「姉ちゃんは頼むから黙ってろ」


 はっ! 危ない、美少女の魅力に正常な判断ができなくなっていた。それにしても、ティオナって名前もかわいいな。冷静さを奪われたが仕方がない。可愛いものは愛でたくなる、それが私の性分だ。可愛いは正義という言葉もある。激しく同意。


 ていうか、今さらっと変なこと言わなかった?この美少女。


 ティオナの顔を見ると、警戒、というよりも困惑している表情をしていた。得体の知れない物を見る視線を、私たちに向けている。


 幸太郎は彼女に語りかけるように、ティオナの目を見て言った。


「ここが何処なのか、本当にわからないんです。あなたが言う魔術も危険区域とかも知りません」


「嘘をつかないでください。そんなこと、3歳の子どもでも知っている常識です」


「嘘をついているように見えます? こんな危険な場所に丸腰で入りません。信じてください、お願いします」


「……」


 ティオナはしばらく考えた後、剣を下ろした。幸太郎の真摯な態度がよかったのか、私と幸太郎に近づくと、足を縛っていた縄をほどいてくれた。


「あくまでも、足の拘束は解きます。まだ疑っているので、手枷は外しません」


「ありがとうございます、ティオナさん」


「ありがとうー!」


「とりあえず、第一区まで一緒に来てもらいます。そこからの判断は、他の方に任せます」


私と幸太郎は立ち上がり、ティオナと同行することになった。





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