第十五話 起きました。
前回までのあらすじ☆
「私っ、桐生遥、高校二年生!剣道が得意な普通な女の子!ある日、弟の幸太郎と一緒に、異世界に迷い混んじゃったの! そこはムカデとかゴリラの化け物とかでいっぱいで、びっくりしたことに魔法がある世界だったの! でも、私たちの身体が頑丈になっていて、も~たいへん!どうにかして元の世界に帰らないと! ふぇぇ、これから私、どうなっちゃうの~!!」
「……とうとうイカれたか姉ちゃん」
「あ、幸太郎!ふぇぇ、これから私、どうなっちゃうの~!!」
「本当にどうなるんだろうな。ここ牢屋だし」
「うん……本当に、どうなるんだろうね……。マジで…………」
冷静に現実を突きつける幸太郎に、無理矢理上げていたテンションを叩き落とされた。
視線を落とすと無骨な手錠が嫌でも目に入る。かといって顔を上げると、鉄格子と石造りの狭い部屋――いわゆる牢屋の景色が広がっている。
簡単にまとめると、私たちは捕まってる。牢屋にぶちこまれてる。
はは、まさか人生で二回も手錠をかけられるとは思ってもいなかったぜ。
「……違うじゃん? 異世界の人たちを助けて信頼ゲットした流れだったじゃん? 敵倒したじゃん?仲間ができてこれから始まる異世界生活みたいな感じだったじゃん? 何で起きたら牢屋? マジで意味がわかんない……。え、本当にこれからどうなっちゃうの?」
「次回『牢獄生活』。みんな、絶対に見てくれよな」
「たぶん最終回じゃん……」
そんな生活なんぞ誰も見たくないし、送りたくもない……。
私の向かい側の牢屋にいる幸太郎は、寝転びながらのんびりとした様子で続ける。
「安心しろって姉ちゃん。ティオナさんも含め、人質はみんな無事らしいぜ。さっきまでいた看守の人が言ってた」
「いや、それはいいんだけどさ。何で私達、助けた人達に牢屋にぶちこまれてんの?」
そう、何よりも意味不明なのがティオナな仲間――何とか魔術学校の人達が、私達を拘束しているということだ。聞くところによると、私達が疲労で眠った後、洞窟に応援の人たちが到着。そしてティオナを含めた怪我人を救出。その流れで眠っている私達をここに運び込んだらしい。
改めて自分の行動を振り返ってみたが、投獄されるほどの罪を犯した憶えはない。
……あれ、おかしいな。助けたから感謝しろとは言わないけれど、牢屋に入れらる理由が全くわからない。そんな頭を悩ませている私を見て、幸太郎がなだめるような口調で言う。
「それほど簡単に人を信用できる世界じゃないんだろ。犯罪組織とかあれば、そりゃそうなるさ」
「そんなもんかね」
「たぶん俺らは今『火事から子どもを救った外国人。調べてみたら身元不明の密入国者』みたいな感じだ。野放しにはできないんだろうよ」
……なるほど。それなら拘束される理由がわからなくもない。
一度信用させてから裏切るなんて、元にいた世界でも珍しくはないし、怪しい奴を牢屋に入れておくのは合理的だ。
私はため息をついて床に寝転んだ。
いちいち状況に一喜一憂していたら、もうキリがない。異世界に慣れ始めている自分に驚きつつ、私は眼を閉じた。
「……今は大人しくしているのが一番かな」
「そうだな。いざって時は脱獄すればいいさ。それより姉ちゃん、一回状況を整理しようぜ」
「整理?」
幸太郎は身体を起こし、私の方を見た。「時間があるし、ちょうどいいだろ」と幸太郎は頷いて続ける。
「いろいろと情報を確かめ合おうぜってこと。とりあえず、俺らの身体の変化についてからだな」
「うーん、めちゃくちゃ打たれ強くなってたねぇ。殴っても殴られても衝撃はなかったし。ほぼ無敵じゃん」
「ああ。姉ちゃんが言ってた『物理法則が違う』ってのはほぼ間違いないだろうな。竹刀も折れないし、服も傷一つなし。俺たちの世界の物すべてに影響があるってことは、いわゆる世界そのものの「強度」の基準が違うんだろうな」
幸太郎に言われて自分の服を見る。学校指定のダサい茶色のジャージは砂ぼこりで汚れていたが、確かに破れてはいなかった。
試しに拳を床に軽く叩きつけると、少し部屋が揺れた。ガキッ、という本来素手から聞こえるはずのない重々しい音が響いて、拳を打った箇所は少し凹んでいた。
……我ながらちょっと引く。こんなの化け物じみた身体……。
けど、このチートじみた能力がなかったと思うと、それはそれでゾッとする。化け物やあのエマヌエルとかいう敵を相手に、普通に死んでたろうな。
「でも、あれだね。筋力と体力は変わっていないから、いろいろと加減覚えないといけないかも」
「ああ。……つーか、姉ちゃんなら下手したら相手を殺しかねないから気をつけろよ」
「うっ否定できない……。まぁ、生身の人間と戦う機会がないと良いんだけどね」
もはや私達の拳は強力な凶器だ。遠慮なく殴るのは化け物と、化け物みたいになった敵だけにしておこう。
「それと、魔術についてだ」
心なしか強い口調で幸太郎は言った。
「あー、何かティオナがいろいろ説明していたねぇ。ほとんど憶えてないや。あの時は銀髪美少女の姿を脳裏に刻むのに忙しかったから」
「死ねば?」
「うん、謝るからもうちょっと優しく言ってね?」
血のつながった姉に向ける視線と言い方じゃなかった。ゴミを見るような眼をしてやがる。
「重要なのは魔術には道具を使うってことだ。要は奪えばこっちのもんだ。今後、敵になったら相手の武器を狙うのが一番効果的かもな」
「ティオナがあの剣で魔法少女に変身しないかなって期待しなかった? 私はした」
「あとは『魔石』っだったか。あれが魔道具の核らしい」
普通に無視された。
「あの宝石みたいなのを砕くと、完全に無力化できるみたいだな」
「よく気づいたよねー。そんな物があるとか相手の武器とかよく見てなかったよ、ひたすら美少女をガン見しておりました。すまんすまん」
「腹切って詫びろ」
「何時代だよ」
私は武士か。
……けれど、あのエマヌエルとかいうクズを逃したのは私のミスだ。できることなら自分できっちりとケリをつけたい。無意識に拳を握りしめていた。
幸太郎は疲れたようにため息をつく。
「…………現状把握と今後の対応策は問題ないとして、そもそも俺らは何でこの世界に来たんだ?」
「あっ! そうそれ! 一番大事なのに全くわかんないやつ!」
忘れていたけどそれが一番の謎だ。
何で私たちは、この魔術の世界に迷い込んだのか?
そして、どうやったら帰れるのか?
いくら記憶を呼び起こそうと、異世界に転移した手がかりなどは思い浮かばなかった。学校帰りにアイス食って歩いてたらいつの間にか森の中。すぐに巨大ムカデ相手に全力疾走。そんでもって、いろいろあって今に至る。
確か、異世界転移にありがちなのは……。
「……幸太郎。もしかして、私達知らない内にトラックに轢かれて、神様が『すまんすまん手違いじゃ。異世界で生きるがよい。ふぉふぉふぉ』的なことになってたりしないよね? 死んでないよね?」
「姉ちゃんはもう死んでるよ。社会的に」
「どーゆう意味だこの野郎」
「つーか、そんな都合の良い神様がいてたまるか。……理由もなく異世界に転生か転移するパターンに読者はもう飽き始めてんだよ。開始三秒で『はいはい、またそのパターンね?』って思われんだよ。何処かで見たような話ばかりが多すぎるだろうが。もっとオリジナリティ溢れる作品を、読者と出版社は待ってます」
「え、何の話?」
やっぱこいつラノベ好きだな。
「あ、じゃあさ。王様的な人が『魔王を倒すために異世界人を召喚しました。倒すまでは帰れません』のパターンは? 私達勇者かな」
「未成年に世界の命運を押しつける大人たちはもう少し恥を知れと思う」
「手厳しい……」
「姉ちゃんはそんな奴らに勝手に呼び出されたどうする?」
「手始めにその国を滅亡させる」
「発想が怖ぇよ」
そんな理不尽は我慢ならない……。でも可愛いお姫様とかいたらちょっと考える……。
「……でもまぁ、今は情報が少なすぎるな。ティオナさんに聞いたり、この世界の文献とかを見たりすれば少しはわかるかもしれないな。考えるのはそっからだ」
幸太郎がそう言ったところで、牢屋の外からコツコツと足音が聞こえてきた。
「よぉ、コータロー。……ん? 姉貴の方も起きたのか」
足音の主は、私がいる牢屋を覗き込み、野太い声で言った。
身長は二メートルくらいの巨体で、ボサボサの長い髪が特徴的な男性だった。無精髭をたくわえているが年齢はニ十代前半くらいにも見える。老けてるようにも若いようにも見える人だった。ボロボロになった魔術学校のブレザーを、雑に羽織っていた。
「どうもです、バートンさん。姉ちゃん、この人は看守のバートンさんだ。いろいろと外の状況を教えてもらった」
「バートン・フィットガルだ。よろしくな」
「あ、どうもどうも。桐生遥です」
檻の隙間から差し出された大きな手を握り、頭を下げる。私が起きる前にいた看守の人というのは、このバートンさんだったようだ。
バートンさんは片方の手に持っていたズタ袋を私に渡した。
「ほれ、差し入れだ。ちーと硬いが味は悪くない。良ければ食ってくれ」
「わ、ありがとうございます!」
袋の中には大量のパンが入っていた。焼き立てのような香ばしい匂いが袋のから溢れ、自分が長い間何も食べていなかったことを思い出した。バートンさんは「これは、お前の分だ」と幸太郎にも袋を渡した。
パンを一つ食べてみると、全然硬くなかった。むしろめちゃくちゃ柔らかくて美味しい。少し考えて、これもパンが柔らかいんじゃなくて、私の歯がそれ以上に硬くなったのだと気づいた。
「……ところでバートンさんは看守なんだよね? 私達にこんなの差し入れて大丈夫なの?」
「ああ、いいんだ。お前らが助けてくれた中には俺の友人もいてな。それは礼だ。それに俺はわりと偉いから大丈夫だ。ありがとうな」
気にするな、とでも言うようにバートンさんは手をヒラヒラと振る。そして改まったように真剣な表情になり、私とコータローを順に見た。
「……それよりもコータロー。それとハルカっつったか。……随分と厄介なことになっちまってな。友人を助けてもらったからには何とかしてやりたかったんだが……」
バートンさんは重苦しく口を開いた。
「……結論から言うと、ここから出せてやれるのはお前らの内のどちらか一人だ」
ちなみに遥の竹刀と幸太郎の学ランはティオナが預かってます




