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異世界チートは「体が頑丈」。地味とか言うなよ、超便利。  作者: いずみ
一章 ここはどこだよ。
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第十三話 倒したけれども

 

「お、あったあった」


 気を失っている敵のポケットから目当ての物を見つけ、俺は声が漏れた。


「ティオナさん、ありましたよノワール。これで連絡をお願いします」

「あ、はい、ありがとうございます」


 俺は見つけたノワール――魔道具の通信機をティオナさんに手渡す。

 これで当初の目的は達成。ノワールを使って洞窟に応援を呼ぶことができる。とりあえずは一段落だ。


 人質だった人達の怪我は酷いものばかりであったが、それでも致命傷になるようなものはなかった。リニアがいたぶることを目的としていたからなのか、直ぐに治療せずとも死にはしない。折れた骨の固定や止血などの簡単な応急処置は一通り終わらせたので、とりあえず救助を待つことにした。もう少しだけ痛みに耐えてくれ。


 俺は気を失いながらピクピクと痙攣しているリニアに目を向ける。手加減するつもりなどなかったが、掌底によるダメージは想像以上だった。鼻骨が砕けて顔が派手に潰れている。たった一発で半殺し、というよりも四分の三殺しと言ってもいい威力だった。当たり所が悪ければ命を奪いかねない。


 殴り足りないという不満足さが無いわけではなかったが、……まぁ、少しはスッキリしたので良しとしよう。



 それにしても、ハッタリ大作戦が上手くいって良かった。


 よくもまぁ「魔道具を使っている」や「時間制限がある」などのでまかせをスラスラと言えたものだと我ながら感心する。得たいの知れない化け物のように振る舞おうと試みたが、思いの他効果があった。

 リニアの攻撃をあんなにも俺に集中させることができたのは、本当に運が良かった。少しでも冷静であれば多くの人質を盾にされて、いろいろと終わってただろう。


「……コ、コータ……あ、あの、仲間に連絡ができました、すぐに来られるようです」


 ティオナさんがおずおずとした様子で話しかけてきた。俺と視線を合わせようとせず、何故か目をキョロキョロと動かしている。

 …………何だ?


「ありがとうございます。妹さんは大丈夫ですか?」

「え、ええ。呼吸も正常なので、適切な治療を行えば大丈夫かと……」

「そうですか」


 今一ティオナさんの感情が読み取れない。まぁいいか。気にしなくても。

 俺達が会話していると、比較的軽傷の人質の数人が身体を引きずりながら近づいてきた。全員が同じような制服を着ていて、ティオさんと同じ魔術学校の生徒なのだろう。何故だか来たのは女子ばかりだった。


「その、君、ありがとう……」

「本当に、本当に、助けてくれてありがとう……!怖かった……!」

「あんた、何者……?」


 怪我をしているのにも関わらず、全員が次々に質問と感謝の言葉を口にする。その勢いに少し圧倒された。


「ああ、はいはい。とりあえず今は休んでくださいね」


 適当に返事をしながら、俺は入口の方を見た。




 ……大丈夫だとは思うが、姉ちゃんの方はどうなってるかな。














「何故だ、何故攻撃が効かなごばぁっ!!」

「タフだなっ!」

「ティ、ディオナさんは僕の、僕がばぁぁ!!」

「うるせえ!」

「がばふっぅばばばばばっばあああああああああ!!」


 竹刀と拳を繰り出し続け、最後に渾身の蹴りを放つ。エマヌエルの身体は吹き飛び、大きな音を響かせ壁にめり込んでいった。


「美少女を傷つけるクズは私がぶっ倒す……。……いや、別に美少女じゃなくても助けるけどさ」


 幸太郎がいたら「いや、姉ちゃんも似たようなもんだからな。なかなかゲスな目をしてたぞ」とでも言いそうな気がして、何となく言い訳のような言葉が口から出た。


 空想の弟に少しイラついたところで、私はため息をつく。


 化け物ゴリラと同じ巨大な腕に最初は手こずったが、ワンパターンな大振りを把握すれば敵の懐に入ることは難しくなかった。

 あとは異世界チートで防御を無視し、力押しで普通に倒せた。やれやれ、変に警戒するのは時間の無駄だった。「僕のティオナさんをぉぉぉぉぉお!!」とか絶えず叫んできてただただ気持ち悪かったわ。途中でティオナと子供をつくる妄想とかもほざいていたし。マージできもかった。本当に幸太郎に相手してもらえば良かったと何度も後悔した。うおぇぇ。


 幸太郎が「敵に捕まれるなよ」とか「スタミナ考えろ」とか何とかゴチャゴチャ言ってたけど、普通に勝てたわ。やっぱ頭固いな、あいつ。


「……ふぅ、疲れた。……幸太郎の方は大丈夫かな」


 さてと、可愛い弟が敵に困っていたらお姉ちゃんが助けてあげよう。

 幸太郎たちが向かっていた道を追い、私は走り出した。







 ――――遥が去り、静寂が訪れた部屋の中で、男の声が静かにそして禍々しく響く。


「…………術、式、起動、…………か、完、全、獣化……」














「いたいた。おーい、幸太郎ー無事かー。……え、何かめっちゃ人増えてんじゃん。何で?…………ん?」


 見覚えのある人影に近づいて行くと、話し声が聞こえるようになった。


「あの、お名前は……、お礼が、したいの!」

「い、一体どんな魔術を?」

「ありがとう、本当にありがとう……」

「あ、あのコータ、その、コーッ……えっと、えっと」


 幸太郎はボロボロの人たちに囲まれ、多くの感謝の言葉と視線を向けられていた。その中にはティオナもいて、顔を赤らめ幸太郎をチラチラ見ている。ティオナ以外にも、同じような態度の女の子が何人かいた。


 ……おやおやぁ、こいつぁラブコメの気配がしまっせ?

 私がキモイ敵を相手にしている間に、あの野郎。何恋愛フラグ立てまくってんだ?


 よーし☆ 



「お、姉ちゃん無事だったか。大丈」

「くらえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「って、危ねぇなバカ姉!!」


 幸太郎は私の飛び蹴りを両腕でいなした。チッ!避けやがった!!


「いきなり何すんだアホ姉! …………おい、まさか敵に操られてるのか?」

「安心しな幸太郎。私は冷静な判断の元でお前を攻撃した。100%、正気だよ☆」

「なおさらタチ悪いわ!!」


 ジリジリと私たちは間合いをとる。お互い手の内を知り尽くしているので攻撃がしにくい。チィッ!厄介な相手だぜ!!

「な、何だあいつ!」「新しい敵か!」と警戒する声が周辺から飛び交うが、気にせず私たちは続ける。


「おい! 私が超キモい妄想ゴリラ野郎を相手にしている間に、何人気者になってんだ! ティオナにも信頼されるようになりやがって、私もまぜろ!」

「知るか!こっちはこっちで人質いたから戦うの大変だったんだよ!」

「何だい。異世界ハーレムでも作ろうってのかい。チート能力でモテモテってか。そんな表面しか見ようとしない女、お姉ちゃんは認めないぞ!」

「何言ってんだマジで」

「彼女にするなら美少女、そして私にも優しくしてくれる人にしてください。ちなみにデートには常に同行します。だって私はお姉ちゃんだから!」

「会話の意味がわかんねぇんだよ!」


 とぼける幸太郎。今時、鈍感主人公なんて流行らない。そして弟が節操なしにハーレムを形成することを、私は断固として阻止する!!


 決意を新たにしていると唐突に後ろから声をかけられた。


「あの、名前はハルカ、でしたね。改めてお礼をさせてください。あなた達がいなければ私は……、いえ、私や妹、そしてここにいる人達は助かりませんでした……。本当に、ありがとうございます」


 振り向くと、うやうやしく頭を下げるティオナがいた。顔を上げた時に見えたその瞳には、確かに感謝の念が込められていて、今までの警戒心や敵意といったものがなかった。そんな、純粋な目で見つめられると、……ええ、何と言うべきか、いや、はい、そうですね、


「――――死ぬほど可愛いなっ!!」

「もう黙れよ……頼むから……」


 頭を抱えてか細い声を出す幸太郎。どうしたんだコイツ。情緒不安定なのかな。何をそんなに嘆いているんだろう?



「ところで幸太郎。この増えた人たちは誰? あと、応援は呼べた?」

「応援は呼べたよ。この人たちは他に捕まってた人質だったんだ。……ああ、皆さんこいつは俺の姉です。味方なんで安心してください。……そこの人、拾った石を地面に戻してください。そこの人も武器を探さない。大丈夫ですから」

「……そんな、人を信じられなくなるほど……酷い目に、あったんだね……」

「いや、単純に姉ちゃんを警戒してるだけだと思うが」

「そんなバカな」


 きっと敵に痛めつけられて人を信じられなくなってしまったのだろう。何て悲しいことだ。辺りを見渡すと気を失っている人と、ボロボロになりながら私を睨む人たちに別れていた。そんな目で見ないで。悲しくなるから。


「姉ちゃんの方は大丈夫だったか?」

「まぁ、普通に倒せたよ。怪我もないし」

「そうか、じゃあとりあえず洞窟の外へ――――」


 そう言って視線を移した幸太郎は、眉をひそめて続けようとした言葉を止めた。


「あ、アア、ティ、ディ?オナさンンんンン?」


 そこには、私が倒したはずの敵――エマヌエルが、眼球から緑色の光を怪しく放ちながら、おぞましい雰囲気で佇んでいた。



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