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異世界チートは「体が頑丈」。地味とか言うなよ、超便利。  作者: いずみ
一章 ここはどこだよ。
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第一話 桐生遥は現実的

 私、桐生きりゅうはるかはいたって普通の女子高生だ。


 学校の成績は中の上、部活は剣道部で運動神経は少しだけ良い。いや、運動神経だけはかなり良い。剣道の大会で、一応は全国レベルの実力だ。けど、私はそれでも何処にでもいる、ただの凡人だ。


 ただ、私は幼い頃から弟と一緒に、対人武術を祖父から教わった。

 私と弟は早くに両親を亡くしていたので、強く生きていけるようにと祖父は厳しく、私達に技を教えた。かつての戦争を生き抜いた祖父からの軍隊式格闘術は、とても子供に教えるものではなかったが、よく耐えたもんだと今でも思う。


 まぁ、その点については少し変わっていると認めるざるを得ない。

 これを言うと「いや、普通の女子高生は武術なんてしてねーよ。その時点で普通じゃねーよ」と思われるかもしれないが、異論は認めない。私は普通だ。


 そもそも私は目立つことがあまり好きではない。自分の妙な噂が立つのも嫌だ。

 以前、チンピラ数十人に売られた喧嘩を買ったら「鬼神」という不名誉なあだ名までつけられた。全く、迷惑な話だ。ただの正当防衛だというのに。私はただのつつましい女子高生だというのに。


 ところで、これを見ている人はフィクションは好きだろうか?小説、映画、漫画など、いわゆる空想上の物語だ。


 私は別に嫌いではない。特別に好きというわけでもないが、SFとかファンタジーとか正直それほど興味はない。


 たまにテレビで放送しているアニメや映画を気が向いたら見るくらいで、好きな小説もあるが、それはあくまでも娯楽としてだ。


 ましてやフィクションの世界に入りたいと思ったことは一度もない。空を飛んでみたいとか、魔法を使ってみたいとか、妖精に会いたいとか、そんなことより私は次の日の期末テストが無くなるのを願うタイプの人間だ。

 試験前は学校が爆発しないかな、と毎度願っている。


 我ながら、現実的な性格をしていると思う。理想主義より現実主義だ。

 なので、今この状況が、理解できないこの状況が、飲み込めずにいる。







「無理無理無理、助けてぇぇーー!」


「なぁ姉ちゃん、あの化け物って目がないのにどうやって俺ら追っかけてんだろうね。ヘビみたいな温熱感知かな。不思議ー」


「何でそんな余裕なんだよお前は!」


 私はどこかも分からない森の中で、巨大な化け物から、弟と一緒に全力で逃げていた。


 後ろを一瞬だけ振り返ると、ムカデのような、細長い身体に鳥肌が立つほどの無数の足を持つ、怪物の姿が目に入ってきた。単なるムカデなら私は平気だ。普通のムカデと違うのは、カマキリのような鋭い2本の手を持っていること。そして約15メートルほどの巨体ということ。



『ケシャァァアァァァァ!!』



 巨大ムカデは私たちを殺そうと鎌を振り回し、叫びながらヌルヌルと追ってきている。


 どうしてこんなことに。

 え、マジで何でこんなことになってんの?


「え、何で!?幸太郎、私ら普通に高校から帰ってただけだよね!?ちょっと前までアイス食って帰ってたよね!?ここどこ!?」


「落ち着けよ、姉ちゃん。それよりもさ、あの巨大な体だったら自重でこんなに速く動けるはずなくね?案外、中身はスッカスカなのかもしれんな」


「話きけよ!」


 双子の弟である幸太郎は、涼しい顔しながら淡々と答える。学ランで数分間全力で走ってるくせに、息一つ切らしていない。何だこいつ。


 一方、私は学校指定のジャージ姿だ。

 動きやすいが、肩に竹刀が入った布袋を背負いながら走っているので、随分と息も上がってきた。体力には自信があるが、化け物に追われているという状況に、さらに心拍数が跳ね上がる。


 幸太郎はそんな私を気にすることなく、何やらブツブツと呟きながら走っている。


「しかし不思議だな。確かに俺達は下校中だったのに、気がついたらここにいた。あのムカデは地球の生態系状あり得ないし、ここら辺の木も見たことがない。…うーん、興味深い。姉ちゃんはどう思う?」


 幸太郎は真剣な表情で私に聞いてくる。そんなことより背後にいる化け物をどうするかを真剣に考えてほしい。


『ケシャァァアァァアァァア!!』


「OK、まずはどうやってこの状況を打破するかを考えようじゃないか、幸太郎!」


「…平行世界?違う星? うーん、仮説はいくつか建てられるが結論づけるのは今は無理だな」


「お前ほんと話きかねぇな!」

 

 ダメだ、こいつ役に立たねぇ。

 後ろから聞こえてくる音から、巨大ムカデが徐々に近づいているのがわかる。このままではいずれ追い付いて殺されてしまうだろう。


 今は私と幸太郎がそれぞれ木々の間を縫うように駆け抜けているので、巨大ムカデは翻弄され、私達に追い付いていないだけのようだ。

 どうする、考えろ考えろ考えろ!


「姉ちゃん、前をよく見てみな」

「え、何あれ、河!?」


 ズシャァ、と土埃をあげながら私達は足を止めた。目の前には流れがとてつもなく速い河。その先はドドドッと水が落下する音がする。河に飛び込めば、間違いなく滝の下へと流されるだろう。


「なるほど、この河は滝の上流か。行き止まりと。……この状況、マジでやばくね?」


「さっきからずっとやべぇんだよ!」


 私達は同時に後ろを振り返る。こうなったら、逃げずに何か打開策を探すしかない!『ギシャァァァァァァァア!』うん、そんなものないな、見なきゃよかった。


 選択肢は2つ。戦うか、滝に飛び込むか。


「仕方ない、幸太郎、飛び込むぞ!」


「バカだなぁ姉ちゃんは。下手したらコンクリート並の固さになった水面に叩きつけらるんだぞ。さすがの姉ちゃんと俺でも死ぬぞ」


「うるせぇ、化け物に殺されるよっかマシだろ!覚悟決めろぉぉぉ!」


「え、ちょっ待って、姉ちゃゴボォォォ」



 私は幸太郎の胸ぐらを掴み、水の中へと身を投げた。河の流れは思っていたより激しく、流れに逆らうことはほとんどできなかった。水中の岩に体のあちこちをぶつけたが、不思議と痛みを感じなかった。


 やがては横に流れていた水の感覚は、上から下へと方向を変え、私は滝から落ちていることをぼんやりと理解した。



 あ、これは本当に死ぬかもな。


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