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第六話 聖秘大陸群(クレアシオン)_3

 


 「っ、タイミングが悪すぎます! 最新型の癖にポンコツ過ぎです。」



 右耳に通信機を付けた怜が苛つきながら呟く。

 通信機からはザッー、という耳障りなノイズが聞こえてくるだけだった。



 「__まずい状況ですね。」



 怜が焦っているのには理由があった。


 怜の『迷森シープ案内羊シーカー』は創造力ファクトで創り出した子羊が体毛をモニターに変化させ怜が思う場所の地図マップを広範囲で細かく表示するという能力である。

 怜が実際に自分の目で見た人物は画面に白い点で表示され、敵意や脅威のある者は黒い点で表示される。

 

 そして目の前にある画面に映っているのは白い点と黒い点が表示されている。

 クオンとの会話が途切れる寸前に黒い点が画面上に突然出現したのだ。

 つまり敵意がある者がその場にいる事が確定していた。



 「___お願いです早く戻って来て下さい陰。」

 


 画面の左端から現れたもう一つの白い点が高速で黒いと白い点に迫っていく。

 左端から迫ってくる白い点は対照的な二つ点を捉えそうな所まで迫っていた。










------------










 最悪な未来を予想した陰はクオンの元に凄まじい速さで向かっていた。

 左手からは黒い静電気の様な物がチリチリと走っている。

 最悪な予想が的中していた場合の準備は出来ていた。



 「・・・・・・っは、ここら辺だった筈だ。」


 

 陰は息を切らしながら瞬時に周りを見渡す。木々で覆われた風景の奥にチラリと人影が見えた。

 その刹那、陰は地面を強く蹴り人影に向かって矢の様に飛んでいった。



 (一瞬だ。それで全ての状況を把握をして的確に決断を下す。)



 陰の目に映る物は全てがスローモーションだった。極限まで集中した意識は時間の流れを遅くしていた。

 木々の間を通り抜けて徐々に人影に向かって進んでいくが実際の速度は常人には何かは認識出来ない程に速い。


 視界の中に完全に人影を捉える。高身長で少し濁った色をしている白髪の人物。 

 その人物は陰から見て後ろを振り向いているのでハオマに寄生されているかはまだ分からない。

 

 体の正面を確認する必要があった。


 遅く流れる時間の中で陰はその人物の直ぐ傍まで近付いていた。

 そしてゆっくりと横を通り過ぎると同時にハオマに寄生されていないかを確認した。

 

 ここまで僅か一秒の出来事である。



 (捉えた。) 



 恐らくクオンの父親であろう人物の体の正面を陰は瞬時に確認する。

 最悪な予想が的中していたならば決断は迅速に下さなければならない。

 体に異常は見当たらない。


 続いて顔を見上げた。


 クオンとよく似た顔立ちをしているその人物にハオマに寄生されているような様子は無かった。

 寄生された証拠である紅い花も無い。


 視線を少し下の方に移す。


 男性は逞しい両腕でクオンを抱き締めている。そして慈愛に満ちた表情で彼は優しくクオンを見つめていた。



 左手からチリチリと走っている黒い静電気の様な閃光を消滅させて身を捻り飛んできた勢いを殺す。

 そして両脚に力を入れ地面を滑るように陰は着地した。


 二人に向かって陰は近付いて行く。足音で気づいたのかクオンが後ろを振り向いた。


 

 「・・・・・・陰さん。」 

 


 こちら見たクオンの顔を見て陰の表情は凍り付いた。突然訪れた予期せぬ状況に陰の思考は停止した。

 確かに陰が予想・・していた最悪の展開は外れた。だが違う形でそれは訪れたのだ。



 陰の方を振り向いたクオン。彼はその色白の頬に鮮やかな血を大量に浴びていた。

 虚ろな目で涙を流しながらクオンは思考が停止した陰に話し掛ける。

 


 「父さんは、無事でしたよ、陰さん。」 

 「・・・・・・その血は、っ?!」



 地面に鮮やかな紅血が滴り落ちていく。腹部に深々と刺さっている鋭いナイフ。

 それを見た刹那、陰の五体は停止した思考を置き去りにして動いた。




 陰は無言のまま腹部に深々とナイフが刺さっている人物を地面に下ろした。


 

 ___その人物はクオンの父親だった。




 「っひゅ、君っは?」



 口から血を吐きながら父親が喋った。

 地面に片膝をつけて呆然としていた陰がその言葉に反応して父親に目を向ける。


 

 「収助者レディングだ。貴方の息子に救助を依頼された。」

 「成っ、る程。」



 陰はこの状況を全く理解出来なかった。混乱している陰の顔を見た父親は状況を察して話し出す。

  


 「・・・・・・私がハオマの実をっ、取りに来るのは、これが初めてじゃない、んだっ。」

 


 ナイフが刺さっている傷口を押さえながら陰は丁寧に応急処置を施していく。

 


 「ハオマの実でさえっ、クオンの病気を完治するっあ、には至らなかった。沢山っ、与える必要がぁ、あると思った。だから私はあの子、には悟られないっ、ように様々な方法でぇ、っ実を与え続けた。」


 

 息を激しく切らしながら父親は喋る。陰の丁寧な処置にも関わらず腹部からは血が止まらかった。

 大量に血を流し過ぎている所為かその顔色は青白い。



 「・・・・・・それがっ、間違いだった。ハオマの実にはっ、副作用が、あった。」

 


  処置を続けながら陰はクオンの父親の話を聞く。腹部からの酷い出血を止めている陰の手は真っ赤に染まっていた。

 


 「実を摂取し続けるとっ、ハオマに寄生された、様な状態になるんだっ。収助者レディングの君ならっ、この意味はぁ分かるだろっ?」



 クオンの父親の体から温もりが段々と消えていく。処置を続ける陰の手を父親が止める。



 「私はっ、あの子がハオ、マにっ、支配されったら、苦しむ前にぃ、一緒っ、死ぬ、つもりだっ、たっ。」



 陰の手をクオンの父親が強く握る。目は視点が定まっておらず顔色は先程より青白い。



 「それがぁ、まさかっ、ここにぃ、来るとは、ね。驚いたぁよっ。」 



 口元を僅かに緩ませながら彼は喋る。



 「私はっ、あの子にぃ、手を下せな、かった。・・・・・・さぃごにぃ、ぁのこに、いつもぉ、そばにぃ、いると。」

 

 

 クオンの父親の体から温もりが完全に消え去っていく。目からは生命の光が消えた彼が二度と動く事はなかった。


 それに反応するかのように後方で固まっていたクオンが体を激烈に痙攣させながら声を上げる。


 

 「痛いっ、痛いっ、痛いっっっ、痛いよ父さん!」



 クオンが双眸から血を流しながら咆哮を上げた。その白い瞳から流れる血は涙の様にも見えた。

 

 

 「・・・・・・あれ陰さんっ? 何をしているんですか?」



 蹌踉めきながらクオンが陰に近付いて来る。陰はクオンの父親の話で状況を理解していた。 



 「・・・・・・クオン、君は。」



 陰の漆黒の瞳に映ったクオンはもう元のでは無かった。

 心優しかった白髪の少年は死んだのだ。 

 


 「・・・・・・どいて下さい。それを喰べるので。」

 「・・・・・・悪いが断る。」


 

 獣の様な怒号を上げながらクオンが自分の頭を押さえる。

 地面に両膝をついた彼は暫くすると陰を見つめた。



 「僕は・・・・・一体何を・・・しているんだ?」

 


 父親の血で汚れた両手を透き通るような青い双眸でクオンは捉える。

 何が起こったか丸で分からない。そんな様子でクオンは陰に視線を向ける。

 


 「陰さん、僕は一体何を?」

 「・・・・・・君はお父さんを。」



 出しかけた言葉を陰は呑み込んだ。それと同時にクオンの双眸から再び血が流れ出す。



 「っっあっ、頭がや、ける。」

 


 クオンは脳を既に侵されていた。正気に戻ったのも束の間で彼はではないのだ。

 脳を弄くられる様な激痛の中でクオンは自分が父親に何をしたか思い出した。

 激痛の所為で己の父親の死を痛嘆することも、自分を罰することも赦されなかった。

 兇刃の様に押し寄せる殺意と食欲の中で少年は口を開き小さな声で喋った。



 「・・・・・・陰・・・さん、頼みがあります。」

 


 陰は何も言わずにクオンの言葉に耳を傾ける。



 「・・・・・僕を・・・殺して下さい。」



 その言葉を聞いた陰は一言だけ喋った。

 陰が伝えた事を聞いたクオンは血の涙の中に一滴の雫を流して静かに笑った。



 __少年の漆黒の双眸が悲しく光った。


 





 




------------










 「__怜。」

 「__何ですか陰?」



 壁に背中を預けた陰が隣にいる怜に向かって話し掛ける。陰に対して怜は優しい口調で返事を返した。

 二人は肩を寄せ合って部屋で虚空を見つめていた。



 「もう少しだけ、後少しだけこのままでいいかな?」

 「__はい。」



 怜が虚空から陰の方に視線を移す。虚空を眺め続ける陰に向かって今度は怜が口を開いた。



 「___病が治ったらクオンさんは陰にまた違う形で依頼をお願いするつもりでしたよ。」

 「__それは本当かい?」

 「はい。」

 「__そっか。」



 陰が虚空から怜の方に視線を移す。自分を優しく見つめる少女に対して少年は一言だけ喋った。



 「__ありがとう怜。」

 「はい陰。」


 

 そう言った陰の肩に怜は自分の体を預けた。そのまま二人は黙って目を瞑りお互いに寄り添った。










------------







 



 聖秘大陸群クレアシオンのある場所に立てられた簡易的な墓標。

 幻想的で美しい花が群生しているその場所の墓標には深血石しんけつせきのアクセサリーが二つ飾られていた。



 心地よい風が大地を吹き抜ける。



 その影響で大量の花弁が墓標の周りに舞い上がる。

 神秘的な光景の中でカランという小さな音を鳴らし深血石しんけつせきが寄り添うにぶつかり合った。


 


 

 

 








  

 


 


 



 


  



 



  

   





 


  


  


 


 



 

 

 

  

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