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第四話 聖秘大陸群(クレアシオン)

 

 

 「凄い、これがゲート。」

 「もしかしてゲートを見たのは初めて?」

 「いや見たことはあります。でもこのゲートは___」



 陰とクオンが訪れているカルロス地区の西南にある中央街。

 寒冷な気候の為か特殊な石造りの住宅街が多いカルロス地区はメガリアでも複数のゲートがある事でよく知られている場所だった。

 その複数あるゲートの中でも西南の中央街は特に



        「 「大きい。」 」



 声を揃えて陰とクオンは言う。その二人の視線の先にある空間を大きく開き顕現している巨大なゲート。

 周りの地面を深く抉りとり顕現しているこの巨大なゲートと二人を比較すると彼等が豆粒、いやもっと小さく見える程に大きかった。

 ゲートが出現した時の傷跡が中央街の至る所に残っているがそれでもかなり綺麗に整備されていた。

 


 「こんなに大きなゲートがあるんですね。」

 「世界メガリアで六番目の大きさのゲートだからね。」

 「・・・・・・この大きさで六番目なんですか。」

 


 クオンは自分を見下ろす巨大なゲートを見上げる。ゲートの中は真っ黒な空間が何所までも続いていた。

 全てを呑み込むかのような深い闇。ゲートを通る事に対して恐怖とか不安が少しも無いと言えば嘘になる。

 開いた手の平からは汗がジンワリと滲み出てくる。それでもクオンは小指から順に握り込み固く拳を作った。



 「・・・・・・おいおいガキがいるぞ。」

 「おいおい、引き返すのが自分の身のためだぜ。」

 「アイツら聖秘大陸群クレアシオンを舐めてんのか? 直ぐに死ぬのがオチだぜ。ハハッ。」

 「お前らそろそろ聖秘大陸群クレアシオンに行くぞ。ほら早く準備をしろ。」  

 


 陰とクオンを見て笑いながら話し合う体格の良い男達。

 その太い手にはアサルトライフルが握られており全身を様々な兵器で武装していた。

 その他にも彼等は機動性に富んでそうな大型バイクや装甲車なども用意していており聖秘大陸群クレアシオンに向かう準備は万端そうに見えた。

 


 「・・・・・・何だか感じの悪い人達が多いですね。」

 「雇われの傭兵とかだろうね。ここに集まるのは聖秘大陸群クレアシオンの資源で一山儲けようと思っている連中が殆どさ。」

 「聖秘大陸群クレアシオンに存在する資源は莫大な富を人々にもたらしますからね。そう言えば陰さんは武器は何も使わないんですか?」

 「・・・・・・それは向こうに着けば分かるよ。」

 


 そう言いながら陰は歩みを止めニコッと不敵に笑いクオンの方をちらりと見た。

 そしてまた黙って歩く陰にクオンは急いで付いていった。



 巨大なゲートを通して聖秘大陸群クレアシオンに向かって行く無数の人々達。

 その格好や職種は様々である。


 傭兵。

 退役軍人。

 医者。

 パイロット。

 科学者。

 動植物学者。

 冒険家

 収助者レディング

 

 ここに集まる殆どの人間が聖秘退大陸群クレアシオンの資源をその手に欲していた。

 この中で目的が違うのは救助目的の収助者レディングと一部の人間だけある。

 彼等は人を助ける目的などでゲートに来ていた。自分の欲望の為では無く誰かの為に。

 それ故に周りの人間がギラギラと己の欲に目を輝かせる中で陰とクオンの目は違った。 

 

 

 「それにしても凄い人の数ですね。」

 「年間で五百万人。」

 「えっ?」

 「聖秘大陸群クレアシオンに富を求め向かう人々の数さ。そしてその内の半分以上が戻って来ない。」

 


 自分の隣を歩くクオンに陰は言う。その話をクオンは真剣な表情で黙って聞いていた。



 「危険を冒し聖秘大陸群クレアシオンに行ったとしても自分の望む物が手に入るとは限らない。人によって望む物は違うからね。神秘的な世界に富を求める人間がいれば誰かの為にその可能性に賭ける人間もいる。」

 「・・・・・・陰さん。」



 巨大なゲートの直ぐ近くまで来た陰は話を辞めて立ち止まる。それに続いてクオンも歩みを止めた。



 「向こうに行く準備はいいかい?」

 「はい、大丈夫です。」

 


 返事を聞くと陰はゲートの中の真っ黒な空間に何の躊躇もなく入って行った。

 クオンは目を瞑り深呼吸を何回か繰り返す、そして陰の後を追い掛け暗闇の中を進んで行った。









------------


 

 





 

 「・・・・・・探索マッピングが終わったみたいですね。」



 家の地下にいる怜が頭上に浮かぶモフモフの子羊を見て呟く。

いびきをかいて寝ていた子羊が徐々に目を開け始める。

 


 「地図マップの表示をお願いします。」



 怜の言葉に反応して子羊が完全に目を開く。柔らかそうな毛が動きながら増殖していき大きなモニターの形を作っていく。

 モニターの形が出来上がると子羊は体からそれを切り離し分離した。

 すると毛で出来ている筈のモニターが青い閃光を放ち瞬時に機械的な物質へと具現化していく。

 暗い画面がぱっ、とつき細かく地図が表示される。画面に映った地図には白い点が二つ表示されていた。

 


  「聞こえますか陰?」



 怜は右耳に掛けた赤い通信機のマイクで陰と連絡をする。通信機は怜の耳にはやはり少し大きい様で右手で軽く押さえていた。



 『聞こえるよ怜。何所に向かえばいい?』

 「取り敢えず今いる位地から東北に向かって進んで行って下さい。微弱ですが救難信号が出ている場所があります。目的地まで着いたらまた連絡をします。」

 『了解。』



 通信機で陰と会話をする怜を見ながら少し寂しそうに子羊は宙を漂う。

 その様子に気付いたのか怜がニコリと微笑み膝に子羊を手招きする。

 宙に漂う子羊も微笑む怜に気付いて嬉しそうに膝に近付いてきて顔を擦り付けてきた。

 膝に乗った子羊を優しく撫でながら怜は陰と会話を続けた。








------------









 「誰と会話をしてるんですか?」

 「ちょっと相棒パートナーとね。」



 陰は左耳に付けた赤色の通信機を指さしながら話す。

 その穏やかな陰の表情を見て会話の相手が怜だと何となくクオンは察した。



 「ゲートを先に潜って行った人達はもういないですね。」

 「皆乗り物を使ってたからね。羨ましい限りだよ。」

 「陰さんは乗り物を使わないんですね。」

 「経費削減じゃないや、・・・・・・まあ経営者には色々とあるんだよお客さん。」

 「そ、そうなんですか。」



 陰とクオンの背後に顕現している巨大なゲート。

 二人の周りは天を穿つ程の巨大な木々で囲まれており息が詰まるぐらいに緑が深かった。

 そこら辺に生えている植物の一つ一つが奇妙な形をしており異様な雰囲気を放っている。

 そうかと思えば別に宝石の様に美しく光り輝く神秘的な鉱石の欠片が彼方此方に転がっていた。

 


 「東北に向かって進んで行くからはぐれないようにね。」

 「分かりました。」



 薄暗く嫌な感じがする樹海を平然と進んでいく陰にクオンはついていく。

 後を付いていくクオンの足取りは重かった。誰かに心臓を鷲掴みにされてるかの様な気持ちの悪い感覚。

 その顔色は酷く悪い。冷や汗が止まらず唇は薄らと紫色だった。



 「本能が危険だと感じているんだよ。」

 「えっ?」

 「聖秘大陸群クレアシオンに初めて来る人間は皆そう感じる。」

 「・・・・・・陰さんは何ともないんですか?」

 「慣れさ。人間は不思議なもので危険な環境にずっと身を置き続けると感覚が麻痺してくるんだよ。稀にこの刺激・・を求めて此処に来るイカれた人間もいるけどね。」



 後ろで息を切らすクオンを陰は見る。



 「少し休憩するかい?」

 「っ、大丈夫です。」

 「・・・・・・無理はしないようにね。」



 額の冷や汗を拭いながらクオンは答える。その返事を聞いた陰は歩く速度を少し緩め東北へと向かった。









------------









   

 『陰、そこで止まって下さい。』

 


 陰が左耳に付けた通信機から透き通った怜の声が聞こえてくる。 



 「了解。次はどの方角に進めばいい怜?」



 小声で陰は話す。



 『北東に進めば救助目的者が居る筈です。ただ、』

 「何か問題でもあるのかい?」

 『北東に向かう途中のルートで双頭翼竜ワイバーンの縄張りが在ります。』

 「双頭翼竜ワイバーンならそんなに問題は無いよ。」

『・・・・・・唯の双頭翼竜ワイバーンでは無いんです陰。女王です。』

 「・・・・・・迂回するルートは無い怜?」

 『ありますが目的地に着くまで最低でも三日はかかります。このルートが最短距離です。』

 「・・・・・・それは最高だね。」

 

 

 そう言い陰は深く溜息をつく。

 普通の双頭翼竜ワイバーンなら問題は余り無いが女王となると話は全く別だった。




 聖秘大陸群クレアシオンに生息する生物は主に五つの脅威度リスクに分けられる。

 


 脅威何リスクD。

 何かしらの武器を持った一人の人間が戦闘を行える脅威度。

 害が無い生物もここに分類される。


 脅威度リスクC。

 複数の人間が強力な重火器等を使用して戦闘を行える脅威度。


 脅威度リスクB。

 数十人から数百人規模の軍隊でどうにか戦闘を行える脅威度。


 脅威度リスクA。

 ここから飛躍的にその脅威度は増してゆく。

 数千人から数万人規模の統率のとれた軍隊がありとあらゆる強力な兵器を使い辛うじて戦闘を行える脅威度。

 当然ながら犠牲者も大勢出るだろう。

 

 脅威度リスクS。

 その脅威度は人類にとって絶望を意味する。複数の核兵器を用いても勝てるかすら分からない未知の領域。

 対抗は不可能。選択肢は逃げるか死ぬかの二択しか無い。




 そして双頭翼竜ワイバーンの女王は脅威度リスクAに分類される。

 個人で対抗するには余りに無謀過ぎる相手だった。生物が持つにしては強大過ぎる個としての圧倒的な力。


 人間がその力に挑みのは絶対的な“死”を意味した。



 「怜、今居る場所の周囲に危険はあるかい?」

 『半径三キロメートル以内には有りません。』

 「・・・・・・女王の影響だね、まあ好都合だけど。邪魔な障害は片付けてさっさと救助に向かうよ。」

 『駄目です陰! 普通の双頭翼竜ワイバーンとは格が違います!』

 「大丈夫、戦いはしないよ。通信機を依頼人に渡すから後の事は頼むよ怜。」

 『陰! 待って下さ、』



 怜が喋っている途中で陰は左耳から通信機を外す。そして後ろを振り向き通信機をクオンに手渡した。

 通信機を受け取ったクオンはぽかんとした表情で陰を見る。 



 「ごめん、ちょっと用を足してくるよ。」

 「えっ? 陰さん?」



 陰はそう言って物音一つ立てず閃光のようにクオンの目の前から消えた。



 (なっっーー、速い! あっ、もしかして陰さん漏れそうだったのかな? )



 クオンが手にした通信機から怜の怒った声が漏れ出てくる。



 『陰、陰! 話を聞いて下さい陰!』

 「えーと、陰さんは、」


 

 クオンの声を遮り通信機越しに怜が声を荒げる。


 

 『陰はそこにはいないんですか?!』

 「は、はい。凄い速さで何処かに消えました。」

 『・・・・・・そうですか。貴方は取り敢えずその場所から動かないで下さい。』

 「分かりました。」


 



 




------------









 複雑に入り組んだ聖秘大陸群クレアシオンの樹海を稲妻の様に走り抜ける陰。

 その速度は怜を抱えていた時よりも明らかに上だった。

 


 「そろそろかな。」



 速度を落とさず地面から天を穿つ程の巨大な木の間を次から次へと飛び移り一気に木々の頂上まで登り詰めていく。

 木々から生えている無数の葉で出来た緑の壁を陰は突き抜ける。

 頂上へと出た陰は前だけをしっかりと見ていた。その漆黒の瞳が捉えるのは遥か遠くにいる一体の巨大な竜。

 生物とは思えない異常なまでの威圧感を放つ双頭の怪物、この怪物こそ女王であった。


 漆黒の瞳に映った双頭の巨大な竜が四枚の翼を大きく広げる。

 陰の方を見た女王は夥しい数の鋭い牙が並んだ口を開き咆哮を上げた。


 その咆哮は例えるなら音の爆弾だった。


 周りの木々の葉を波状に揺らして遠くにいる陰の鼓膜を破る勢いで響き渡る怒声。

 自分の縄張りに侵入した愚か者に対する明確な殺意が咆哮を通じて陰に伝わる。



 「・・・・・・最初から全力で行くよ。」



 そう言う陰の両手から黒い稲妻の様な閃光が走る。陰の両手から生じたその光の塊は禍々しく輝きを放っていた。

 深い闇の様な光は段々とその大きさを増していく。


 陰の様子を見た双頭翼竜ワイバーンの女王は唸り声を上げ広げた翼を大きくはためかせた。

 巨大な四枚の翼から次々と暴風の嵐が繰り出される。それは木々を蹂躙しながら陰を目掛けて凄まじい進んでいく。

 陰に正に直撃しようとした瞬間、漆黒の様な光の塊が両手の間で僅かに動いた。

 

 大気を揺らす轟音と共に凄まじい暴風は次々と陰に直撃した。


 その影響で陰の周りの巨大な木々は砕け折れ吹き飛ぶ。辺りには大量の葉と枝が舞い散り陰の姿は見えない。

 女王は自分が放った暴風が直撃した場所を警戒し目を離さなかった。


 宝石の様な紅い瞳を爛々と光らせながら女王は口を縦に大きく開いた。


 口内の奥からは焔が徐々に漏れ出てきて巨大な口から溢れ出してきていた。

 赤い渦を形成しながら吐かれる焔は火の粉を撒き散らしながら暴風が直撃した場所に向かっていく。

 放たれた焔は荒れた巨大な木々を一瞬で燃やし尽くしていき辺り一帯を消し炭にした。

 息が詰まるくらいに緑が深かった樹海の一部は焼け焦げた荒野に変わり周りに遮蔽物は何も無い。

 


 『グロッーーッアーーーォッー』

 


 女王が首を上に掲げ雄叫びを上げる。

 自分の縄張りに足を踏み入れた邪魔者を排除した事に喜びを感じているのだろうか。

 

 女王が咆哮を上げるその場所に陰の姿は何所にも見当たらなかった。



 


 


  

   

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