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万華鏡たちの舞  作者: 日傘ユキ
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歪みの月



「窃盗?」

「そうらしいのよ。やーねぇ。物騒よねえ」

「なに、なに?」


公共交通機関を乗り継いで跡見家に戻る道中で、何やら騒がしい光景に出くわした。


前方右手に見える立派な造りをした邸宅。

その付近にパトカーが数台停まっており、少し離れたところを野次馬が取り囲んでいる。


買い物袋を提げた主婦達と同じように立ち止まり、目を凝らした。

家の門の内側でせわしなく動く警察官らの姿がちらちらと見える。

敷地の中には石造りの蔵があるようだ。



「何か盗まれたらしいのよぉ」

「このお家って、確か古物商をやってるとこじゃなかったかしら?」

「何かお高いものでも盗まれたのかしらねえ」

「え!古いツボとかー?」



私は人混みでろくに見えない邸宅の門のあたりをじっと見つめつつ、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。



一闇(いちあん)


『はい。逢威(あい)様』



右手中指にはめた緑の指輪から、中に待機させている式神の声が静かに返ってくる。



「中を見てこい。くれぐれも人には悟られぬように」


『わかりました』


指輪の中から小さな黒い影が出て、そのまま地面をぬるりと這った。

人の群れの中を器用に避けながら入って行く。



五分ほど経った頃、黒い影は再び人々の靴の合間を縫い、私の脚を這い上がって指輪に戻ってきた。



「何かわかったか?」


『はい。本日の未明、この家でいくつかのコレクションが盗まれたようです』


「盗まれたのは?」


香炉(こうろ)、掛け軸、反物(たんもの)、大皿、それに日本刀だそうです』


「日本刀?」


『はい。戦国時代の名刀だと、家主が話しておりました』



名刀。


これが跡見家の付近で起きた事件だということが、妙に気になる。

果たして偶然なのだろうか。


「わかった。御苦労」


私は(きびす)を返すと、跡見家に続く道を再び歩き出した。


刻限まではまだ三日ある。

しかし、何か胸騒ぎがする。



もしや今夜あたり、何か起こるのではないかーー。



嫌な予感が当たらないことを願いつつ、歩みを進める。


東の空には、早くも月が浮かび始めていた。




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