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万華鏡たちの舞  作者: 日傘ユキ
7/20

日差しのときめき



爽やかな日差しの差し込む教室。


「続いて教科書の26ページをーー…、はい、南野(みなみの)くん、読んでください」


級友が音読するのを聞きながら、黒板の"ここ、大切!"と書かれた箇所を見つけた俺は、あわててノートの上でシャープペンシルを走らせた。


「はい、座って。それでは、えー最後に、平安時代に生きた貴族の生活についてですがーー…」


カリカリという固形物が削れる音と共に、白い字が黒板上に増えていく。


「じゃあ次の授業までに、こっちの参考書の四択問題、解いておいてね」


先生の最後の言葉と同時に、教室のスピーカーから軽快なチャイムが流れた。


前回の授業でつけた参考書の折り目を直し、新しく指示された予習のページに付箋を貼る。

みんなと一緒に椅子から立ち上がりながら、俺は頭の上でゆっくり両腕を伸ばし、凝った肩の筋肉をほぐした。


「礼。ありがとうございましたっ」


休憩時間に入ると、教室内は徐々に騒がしくなっていく。

自動販売機に飲み物を買いに行こうとしたところで、 何者かにポンと肩を叩かれた。


「あたしもいく。おごってよ、晴樹」


振り向くと、仁王立ちをして立っている沙耶がいた。

ポーズがなんとも偉そうだ。


「まーたかよ。お前もバイトしろバイト」


「あたしは制作に忙しーんで」


「知るかっ」


振り払おうとするも、沙耶はたかる気満々な様子で勝手についてくる。

まったくもう。



ガシャン。


自動販売機の受け取り口から温かなカフェオレの缶を出して、目の前のショートカットに尋ねた。


「そういやお前、今はどんな作品を彫ってるわけ?」


「ん?えーと、天狗と(おきな)を一つずつ」


「ほぁ〜またお面か。すげえ渋いチョイス」


「シブいとは何よ。面職人希望してるんだから当たり前じゃない。おじいちゃんの立派な後継ぎになってみせるわ」


「あ、そ」


沙耶はスポーティな外見とは裏腹に、美術部に所属している。

話を聞く限り、専門分野は彫刻らしい。

将来は能や神楽(かぐら)に使われる面を作る仕事に就きたいらしいが、俺にはよくわからない世界だ。

まあでも、天狗だの小面(こおもて)だの般若(はんにゃ)だの、お面の話をしているときの沙耶の顔は爛々と輝いているから、嫌いではない。


「大変そうだけど、身体壊さない程度に頑張って。ほどほどにね、ほどほどに」


「ふふん。あたしは、以前あんたに『この面、怖っ!下手っ!』って言われた時のリベンジを果たしてやるんだから。見てなさい、今度の制作展では、きっとあんたをアッと言わせてみせるわ」


「アッ!ーーこれでいい?」


「バカ!」


調子に乗りすぎて、頭をペチンッと叩かれてしまった。


「あっ、やば。そろそろ授業始まるね」


自動販売機コーナーのゴミ箱に缶を入れて頷く。

二人で取り留めのない話をしつつ、元来た廊下を歩き始めた。



しかし、その直後。


「うっ!」

「わっ」


俺は、コーナーを出てすぐの曲がり角付近で、何者かにぶつかってしまった。


視線を向けた先にいたのは、男子生徒だった。

はずみで尻餅をついてしまったらしい。

彼が抱えていたノートや教科書、筆箱などが床に散らばっている。


「ご、ごめん。怪我してない?」


「………」


しかし男子生徒は無言で素早く荷物を拾い上げると、俺をちらりと見たきり走り去ってしまった。


「あ…急いでたのかな。悪いことしたなぁ」


沙耶が俺の後ろから顔を覗かせる。


「誰だっけ、今の子。確か、一つ下の学年の……。あ、そうだ。かりかわクン。狩川哲郎くん、だっけ」


「ふーん…」


「時々うちの美術部の見学に来るんだよね。彫刻にも興味あるみたいで、私の作ってるお面もにこにこしながら見てくれるんだよ。だーれかさんとは大違いだよね」


後頭部にチクチクとした視線を感じるのは、きっと気のせいではない。


「ま、そう言うなよ」


「あはは。カフェオレ、ごちそうさま」


沙耶の声は、楽しそうに弾んでいた。




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