鉄道模型を敷くスペースがないから自分に敷いた男
この小説はフィクションです。
私は、いつも走る鉄道模型を見ていたいと願っている。しかし、本格的なレイアウトを作るのは金がかかる。スペースもない。何より手先が器用でないといけない。日曜大工の才能が要求される。私は不器用だったので、レイアウトづくりは諦めた。
想像の世界なら、いくらでも好きな車両を走らせることができた。だが、現物にはかなわない。いくら空想で、レイアウトを頭の中にこさえても、臨場感ではやっぱり実物に敵わない。頭の中で、疾走する模型列車を思い浮かべてみたが、静止画で再生された。動画を脳内で再生するのには無理があった。
それでも、いつも走る列車を見たかった。私はついに、自分の腕に線路を配置した。両手を組み合わせれば、腕から肩を経由してエンドレスが出来上がる。右手と左手はジョイントレールでつないだ。二の腕から肩への勾配はきつめだったが、ラックレールを使用して、登山鉄道の電車に上ってもらうことにした。鎖骨を水色に塗りガーター(橋)を置く。顎の下の首筋は見えないので、列車が消えるので、ちょっとしたトンネル気分だった。
調子に乗ってカラーパウダーをつけてみた。少しディテールがついて、シーナリィが臨場感を際立たせた。接着剤で腕に木を植える。ローカルな風景を再現した。
調子に乗った私は、さらに線路を増やす。ポイントをつけて胸の方にヤードを作った。大量の車両をキープすることができた。眺めも上々だったが、起きてしまうと列車が脱線してしまうので、その日以来寝たきりになった。さらに、服を着ると線路のジョイナーが服に擦れてしまうので、全裸で生活することになった。さすがに下着はつけたが、トイレの移動が面倒なので紙おむつに、はきかえた。
線路はますます増えて、足元まで伸ばすことになった。足元に来たら、停車して折り返し運転をするのだ。さすがに足をエンドレスでつなぐのは無理だった。線路の配置と車両の上げ下ろしは妻にやらせた。息子は喜んでいたが。妻は不満そうだった。
わたしの天国は、わずか数日で終わりを告げる。私の介護に不満だった妻が、全ての線路を引きはがしてゴミ箱に捨ててしまったからだ。すね毛や全身の毛が線路の道床にくっついたまま剥がされて、とても痛かった。全身脱毛をしているようなひりひり感にさいなまれた。さらに接着剤のあとがかぶれて、かゆくなり身もだえした。
もう二度と、自分の体に線路は敷くまいと思った。ベッドに寝たままスティションをしていた自分を恥じた。




