8「キャラ崩壊はもはや日常茶飯事」
「⋯⋯まぁ、あなたの証言はどうやら本当のようだし信じてもいいかなって。⋯⋯それはいいとして抱きつくのやめてもらえます?」
ルーシアはこう言っているが実は内心ドキドキしちゃっている。今までこういった経験がないので、急に抱きつかれて乙女心が芽生えちゃっているのだ。
「ルーシアが認めるって言ってくれたらいいよ⋯⋯」
「⋯⋯わかった。認める」
ルーシアが認めた瞬間、亜蓮はルーシアから即座に離れた。
──次の瞬間
「いやったぁぁぁぁぁぁ!!!! 認めてくれたぜぇぇぇぇ!!!!」
「????」
急に亜蓮が発狂し、腕をブンブン回して部屋中を走り回る。
さっきまでとはまるで別人のようだ。ナルシスト感出していた頃の亜蓮はどこにいった?
「みーとめた! みーとめた! ルーシアねえさんみーとめた! うぇぇぇぇい!!!!」
「⋯⋯ちょっと、どうしちゃったの? 頭逝った? 病院行く?」
すると亜蓮はピタッと停止し、ルーシアの方を向いてニタッと笑う。
「心配ご無用。調子よし。元気よし。ルーシア腐女子。問題なし!!」
「だーれが腐女子だぁぁ!!」
豹変した亜蓮は手に持っていた眼鏡を投げ捨て、くるくるとベッドの上で回りはじめた。
「どーしたの? キャラ崩壊しすぎじゃない??」
「はっはっは⋯⋯。その発言⋯⋯。君だけには言われたくないねぇ!!」
どうしたものか亜蓮は止まらない。というか本当に亜蓮なのか?
「⋯⋯こ、こんなやつを異世界へ案内しなくちゃならないわけ。だったらさっきのキャラの方がマシだった⋯⋯」
「じゃあ戻ります。ビューティフォーウーマン」
亜蓮は一瞬で眼鏡をかけ、中指を眼鏡にあててクイクイした。
「もうどっちでもいいや⋯⋯。つかれる⋯⋯」
ルーシアは亜蓮のベッドへ倒れ込んだ。
すると亜蓮はルーシアの隣へ座り込み、真顔で語り始めた。
「まぁ、こんな二つの顔がある俺だけどよろし⋯⋯く、くっくっ⋯⋯ぐふぉっ!! でひゃひゃっひゃっひやっ!! あぁー! おもしれぇー!!」
「⋯⋯なんで突然吹き出したのよ」
亜蓮は潤んだ目を擦り、ニマニマしながら口を開いた。
「くっふ⋯⋯だって、だって⋯⋯さっき俺が抱きついた時ルーシアってば⋯⋯ふっふっ⋯⋯ぶほぉっ!!」
「だぁぁぁ!! もう何よ!! 笑わないでいいから続きを話なさいよ!!」
「だ、抱きついた時ルーシアってば⋯⋯顔クソ真っ赤になってたから⋯⋯だはははははは!!」
亜蓮の衝撃の一言にルーシアは顔を赤くし、瞬時に起き上がる。
「な、なんで私が顔を赤くしてたってわかるの? 証拠あるんですかぁ?」
「⋯⋯証拠ねぇ。証拠ならいくらでもあるんだけどー」
なんかこのくだりさっきもあった気が。
「ルーシアの目の前にデカい鏡あったの気づかなかった? ⋯⋯くっくっく」
そう。ルーシアが出ようとしたドアの一直線先にはデカい鏡があり、それにルーシアの顔が完璧にうつっていたのだ。
「えぇぇ!? 鏡あったの? は、恥ずかしぃ⋯⋯」
「そうやって恥じらうルーシアも俺は大好きだよ⋯⋯」
「キモい」
二度目のルーシアの一刀両断でこの件は終了した。
────亜蓮のキャラ崩壊は止まっていないが、二人は異世界への行き方で議論をしていた。
「⋯⋯で、ルーシアは異世界石を行き帰り分しか持ってきていないということなのね?」
「はい⋯⋯。申し訳ありません⋯⋯」
亜蓮は背中からベッドへ倒れ込み、仰向けのままグチグチ言い出した。
「大体、高嶺の花的存在のエリート社員が何故! 異世界石を忘れてくるんだね? エリートじゃないの?? え、まさか自称なの?」
「だからただ忘れちゃっただけだって言ってるでしょ! ていうかエリートエリートうるさいわよ!! 自称なわけないでょ!!」
「⋯⋯しかも俺が怒っているのはそれだけじゃない。ルーシアのお客様への態度がゴミクソ悪いことだ!!」
亜蓮は自分の人差し指をルーシアのおでこに突き刺した。
「それはあんたにも原因があるでしょうが!! あんなに私を弄んで」
「いーや、一切ないね。第一俺はルーシアにとってのお客様だ。だから俺はいくらルーシアにどんな態度をとろうと何をしようと別に構わないわけだ」
ルーシアの顔はどんどんひきつるばかり。そして怒りも増すばかり。
「いい? 私はあなたを異世界に連れてってやるんだから少しは感謝して何か私にご奉仕ぐらいしたらどうなの??」
「⋯⋯ソープ○ンドで○○○○しろと?? えぇぇ!! ルーシアってそんなことさせる女の子なんだー。マジきもーい」
「誰がそんなこといったぁぁ!! 伏せざるを得ない言葉を発するな!!」
異世界への行き方で議論していた筈だがだんだんと逸れていっている。
もう異世界に行く気配無しである。いつまで茶番が続くのやら。