4「やっぱりくそ眼鏡」
「まずは亜蓮と名のる者!! あなたが食い散らかしたそこのゴミたちを全部回収しなさい!!」
「えぇぇ⋯⋯。だるい──」
「いいからしなさい。やらないと私本当に怒るわよ?」
少しキレ気味のルーシアはギラギラと男性を睨みつけ、威嚇する。
早速男性は掃除に取り掛かったが、一つ大きな問題が発生してしまった。
「⋯⋯自慢じゃないけど、僕の家には掃除道具が一切ないのさぁ!!」
「あはははは! だからこんな糞ゴミ眼鏡自称依頼人が生まれたのね! すごーい!! ⋯⋯じゃないわよ!! 何がないのさぁなのよ!! 少しは恥じりなさいよ!」
なんでこの家には掃除道具が一切無いんだろう? 絶対にこの家には掃除道具が必要なのに。一回外からこの家見てみろよ、くそ眼鏡。ルーシアは心の底から強く思った。
「⋯⋯とにかく、私はあなたの机全般を掃除するからあなたはさっきの指示通り掃除して」
「でも掃除道具が」
「掃除道具は私が魔法かなんか使って何とかするからあなたは黙ってなさい!」
ルーシアは男性にきつく言いながら早速机の掃除に取り掛かった。
男性の机の上には謎の黒い液体が零れていて、折れたシャー芯がいくつもあり、カップ麺のゴミが二、三個ある。一体どうやったらこんなことになるのだろうか?
「なんでこんなことになんのよ⋯⋯」
「そういえば君の名前を聞いていなかっ」
「なんでこのタイミングでそんなこと聞くのよ! あなた空気読めないの? あなた学校でいじめられちゃうわよ!!」
ルーシアのその発言に男性は少し俯いた。そしてボソボソと喋り始めた。
「⋯⋯俺は高校二年生になる前まで過度ないじめを受けていたんだ。あまりにもエスカレートするから担任の先生に相談してみたんだけど先生は笑ってすぐにどこかへ行ってしまった。⋯⋯俺が何かしたか? 俺の何が悪いってんだよぉ!!」
ルーシアは酷いことを言ってしまったと思った。まさかこの男性が学校でいじめられていたとは思わなかったからだ。
「⋯⋯主にどんなことされたの?」
「⋯⋯例えば、俺の靴箱に手紙をいっぱい入れられたり、昼食の時には女子達が俺の弁当のおかずをとって自分のを入れてくるし、体育のフォークダンスの時には女子達は俺の番の時だけ手を凄いきつく握ってくるし」
──はい?
「⋯⋯他にもいろいろされたけどもうこの話はしたくない。ごめんな」
「いや、ごめん。多分それ全くもっていじめじゃないわ。ただのあんたのモテ期じゃないのよ!! 心配して損したわ!! やっぱりくそ眼鏡ね!!」
ルーシアは頬を膨らませながらすぐに掃除を再開した。
やっぱりろくな男じゃない。ただのくそ眼鏡だ。ルーシアの頭の中はそれでいっぱいであった。
──しばらくして、ようやく部屋の半分が片付いたところで再び問題が発生してしまった。
「お腹すいたからそろそろお昼にしない? 私お腹すいちゃった」
「そうだねー。でもこの家には米一粒もないし水の一滴も無いよ」
「は?」
米一粒も? 水の一滴も? 何から何までこの家はどうなっているのやら。じゃああなたはどうやって生活してるんですかぁ? ゴキブリでも食って過ごしてるんですかぁ? ルーシアの心の中はさらに荒れる。
「⋯⋯じゃあ、あなたどうやって生活してるのよ? 食べ物も飲み物も一切無いんでしょ? なんで死んでないのよ」
そんなルーシアの問いかけに男性は当たり前のように真顔で口を開いた。
「んー⋯⋯。俺の生活は全部女子達から貰ったチョコレートや清涼飲料水なんかで成り立ってるようなもんだからなぁ。感謝しなくちゃ。⋯⋯君もチョコレート食べる?」
「ごめん。聞いた私が馬鹿だったわ」
そうだった。こいつはモテ男だった。バレンタインや誕生日などで大量に女子達から貰えるではないか。ルーシアは自分の頭を複数回殴った。
「そういえば君の名前を──」
「あなた人の話聞いてた? 空気読みなさいよ!! どうやったらこのタイミングで人の名前聞こうと思えるの? その思考が私には理解できないわ!!」
「だって俺、君の名前が知りたいからさ!! それだけしか頭にないんだよぉ!!」
⋯⋯はぁ、やっぱりくそ眼鏡。
ルーシアは自分の脳内辞書に『くそ眼鏡』を追加した。