9「初体験ができますね!!」
──それから数分経ち、ふと亜蓮は我に返った。
「てか俺たち何の話してたんだっけ」
「⋯⋯あなたやっぱり頭逝ってるわね。異世界へどうやって行くかの話してたんでしょ?」
ルーシアが話を戻さなければ多分茶番が永遠に続いてしまうところだっただろう。
そして亜蓮は起き上がり、もはや異次元ともいえる両腕で腕を組んだ。
「さて、どうしたもんかねぇ⋯⋯」
「どうしたもなにも異世界石がないと異世界に行く事が出来ないわけだし。諦めましょ」
「諦めるの早くね? 俺一応依頼人だよ? もうちょっとだけでも策を考えてもいいんじゃないかな⋯⋯」
「だから策なんて無いってば。異世界石一択なの」
ルーシアはもはや考える気力さえ失い、亜蓮の方をずっと真顔で目視している。
だが亜蓮は諦めない。たとえ異世界に行く方法がほかに考えられないとしても。
そして亜蓮は立ち上がって、部屋の隅にある小さな窓を開けた。その窓に肘をつき、眼鏡をゆっくりとはずす。
「⋯⋯ここはひとつ俺の提案を聞いてくれないか?」
「なんで窓開ける必要があるのよ⋯⋯」
「雰囲気、ってやつ?」
「はぁ⋯⋯。で、何よ。その提案」
ルーシアは面倒くさそうに亜蓮に聞くと、想像もしないような答えが亜蓮の口から発せられた。
「──都市伝説を試してみないか?」
──『都市伝説』
それは現代になってから生じたもので、根拠が曖昧な噂話のことである。
亜蓮は一体どんな都市伝説を試そうというのか?
「⋯⋯都市伝説? あぁ、都市伝説ね。はいはい」
「あれ? 知ってるの? 異世界でも都市伝説とかあるんだ。アニメとかも? ボディービルダーとかも?」
「まぁ、私たちの世界ではあらゆる惑星の文化を取り入れたりして最先端の国を作ろうとしているの。だからアカマルライスの国の文化も全てこっちの世界に入ってきてるの」
「まぁ知ってるけどね」
「⋯⋯!?」
まんまと亜蓮に乗せられてしまった。知ってんなら聞くなよ!! あぁ、殴りたい!! だけど殴りかかればこっちが死ぬので却下。自称ボディービルダー相手に誰が勝てるわけ!? はぁん!?
「⋯⋯とにかく、その都市伝説の内容を説明してくれる?」
「ああ。言われなくてもするよ。⋯⋯その都市伝説とは!!」
緊張が走る。そして、二人の間を窓から入る風が通る。生ぬるい。
さぁ、その都市伝説とは????
「四月四日の四時四十四分四十四秒に白い壁に触ると異世界へ行ける都市伝説ぅぅ!!!! いぇぇぇぇい!!!!」
「は?」
いや、亜蓮よちょっと待て。異世界じゃなくて異次元ではないのか?
ルーシアはそう突っ込もうとしたがまた面倒なことになりそうなので抑える。
「いやぁー!! 一度やってみたかったんだよねぇー!! この都市伝説はひいじいちゃんから教えてもらってたからなぁー」
なんちゅうことを教えてんだ亜蓮ひいじいちゃんよ。異世界と異次元全く違うからね? このバカにさらにバカなことを教えてどーすんだよ!! はぁん!?
「⋯⋯あのぉ、亜蓮さん? 今何時だかわかりますかぁ?」
「え? 朝の十時すぎだけど? 何か問題でも?」
亜蓮の目は子供がおもちゃを買ってもらった時の様にキラキラ輝いている。こりゃダメだわ。お手上げおさらば。
「⋯⋯いや、問題ありありだけど。てことは私もやらないといけないの??」
「あったりまえじゃぁぁん!! だってルーシアは俺専属の案内人じゃーん」
ということは明日の朝までこの男と一緒に? 過ごさなければいけないの??
「⋯⋯ひとつ聞くけどご両親は? いる?」
「ふっ⋯⋯。よくぞ聞いてくれた。なんと、ご両親どっちもいませーーん!!!! だっはっはっは!!」
「ですよねぇー!! あっはっはっは!!!!」
ルーシアは笑いながらも目に涙を浮かべている。明日の朝まで二人っきりという何ともラブコメでありそうなシチュエーション。ルーシア・インディード、ここに死す。
「そんなに喜んじゃってぇー。⋯⋯はぁ、でも嬉しいよ。やっと念願の初体験ができるよ」
「しませんから! 誰があんたと寝るなんて言ったのよ!! この変態!!」
ルーシアは顔を真っ赤にして身体を手で覆い隠した。
「⋯⋯何勘違いしてんの? 俺は女の子とオールして遊ぶ初体験ができるって言ったんだよ?」
「!!!!」
やってしまった。大きな勘違いをしてしまったようだ。
いや、だって初体験と聞いてそういう事だって捉えるなんて当たり前でしょ!! 言い方をもっと考えなさいよ!!
ルーシアは声に出すこともなく愚痴る。さらに顔が赤くなる。
「あぁー! ルーシアってばぁ、まさかあっちと勘違いして⋯⋯」
「してないしてないしてないしてない!!!! ⋯⋯あーはいはい! オールね! あーはいはい! そゆことそゆこと!!」
「ぜってー勘違いしてるだろ」
「⋯⋯」
もはや話せる状態では無い。
ルーシアのメンタルは徐々に削られていくのだった。




