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第1話 忘却の丘
この世界が原則中心に動いているなら、
その原則から外れた先には何があるのだろうか?
『冒険王ジェイスの伝記』
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静かな森の中で、1人の男が佇んでいた。その男の手には漆黒の杖が握られており、その先端が淡い黒色に輝いている。
「マナが歪んでいる。結界内に侵入者がいるのか?」
男の目線の先には、空を覆う半透明の結界が、何かに反応するように波紋のように振動している。結界を張って以来、このような現象が起こるのは初めてで、男の目線は徐々に鋭くなっていく。
「マナよ、彼の場所へ運びたまえ」
薄緑色のマナが男の足元に集い、男が足を踏み出した時には、その場所に男の姿はなかった。