序章
その日はよく晴れていた。雲一つないとは言えないが、それでも気持ちのいい太陽の陽をぼくは浴びていた。登校中のぼくだけど、歩きながら寝てしまいそうだ。そのくらい、気持ちのいい朝だった。
そんな時、ぼくが呑気に歩いていると背後から太陽のように明るい声が聞こえてきた。
「おっはよー、たいちゃん」
たいちゃん、という馴れ馴れしいあだ名で呼んでくるという事はアイツしかいない。確信を持って振り向くと当然のように僕の唯一の話し相手、綾原綾がとびっきりの笑顔をぼくに向けていた。
綾原綾。性別はメス……いや、女の子。年齢はぼくと同じ16歳。高校の入学式の日、面識のないぼくに真っ先に話しかけてきたおかしな奴。今みたいにいつも笑顔で、怒ってる顔、悲しい顔なんかは見たことがない。ぼくはコイツと知り合って一年ほどになるが、まだまだ知らない事が多くて、謎が多くて、そしてなにより、このぼくが興味示しているただ一人の人間。理由はわからないが、何故か気になる、そんな存在。それが綾原綾だ。
「ちょっとー無視しないでよー」
「うっさい。 そんな大きな声出されると恥ずかしいんだよ」
「えー、挨拶は元気に大きな声で! これ鉄則でしょ」
「小学生じゃないんだよ」
こんな他愛もない会話を一年繰り返してきた。お互い深くは語らず、深くは聞かず。そんな関係。周りから見れば不思議な関係だろう。いや、当の本人、ぼくから見ても不思議だ。
「そういえばさー」と、コイツは、綾は、話を切り出した。
「今日から私たちも花の高校の二年生だね」
「花のってなんだよ。 別に普通の高校二年生だろ」
「そんなつまらなそうにしないでさーもっと明るく生きようぜ」
お前は明るすぎるんだよと、小さく呟く。そもそもなんでこんな明るいんだよ。そんな明るくて疲れないのか。少しは休んだほうがいいんじゃないか。
「お前もぼくみたいに、休んだらどうだ。 暗ーくさ」
「そんな事言われてもなー休むとかじゃないしなー」
「そうなのか」
「明るい私より暗いたいちゃんの方が疲れて見えるって話よ」
そんなこんなで、ぼくたち二人は学校に辿り着く。