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解答の終わり
同日、午後二時三十分。
林檎ちゃんのお見舞いを終えて自宅に帰宅したあとすぐ、八千代から電話があった。
とくに慌てた様子もなく、落ち着いた声。
いや、むしろ呆れたといったほうが正しいかもしれない。
きっと電話の向こう側で彼女はいつもの癖のように、ストローの端を銜えて、尖った歯で噛み潰しているだろう。
「少年、林檎ちゃんがさらわれたようだ」
僕は真っ黒のシャツに袖を通し、同じ色のネクタイを緩めに締め、黒のスラックスはいてジャケットを皺にならないように羽織った。
玄関で鈍く光った黒の革靴の踵を潰しながら履いて外に出る。
手には八千代が愛煙している銘柄の煙草。
たまにはプレゼントしてやろう。
ただの気まぐれだ。
八千代と落ち合う頃には失せているであろう、小さな気まぐれだ。
さぁ――
「始めようか、八千代」
状況を始めよう。
正義と悪、善悪の論理展開を始めよう。
お生憎、善悪論はこっちにとって十八番だ。
ついさっき少女に教わった程度だけれど。