ep73 生姜焼き?
……二一三〇(フタヒトサンマル)。
私は、重力に逆らうようにハッチを閉鎖した。
今日の脳内レーダーに映っているのは、一点のみ。
「生姜焼き」という名の、醤油と生姜の波状攻撃だ。
「よし。コールドスリープ装置(冷凍庫)から、以前鹵獲した『豚バラ』を解凍する」
粒子加速器の中で、凍てついた時間が溶けていく。
皿に盛られたキャベツの千切りは、主役の着艦を今か今かと待ちわびていた。
だが、フライパンにその「遺物」を投下した瞬間、私のスカウターが異常数値を叩き出す。
「……色が、白い。……脂の乗りが、違う。……これ、鶏胸肉(ヘルシー兵装)じゃないか!」
数秒の沈黙。
犯人を捜索するまでもない、この艦の全権を握るのは私一人。
かつての私が、ジップロックという名のコンテナを使い回した際、ラベルの更新(パッチ当て)を怠ったのだ。
「……フッ。いいだろう。生姜焼きの魂さえあれば、肉の種別など些細な問題だ」
フライパンの中で、鶏胸肉が「生姜焼き」へと強制改宗されていく。
実食。
…………。悪くない。
むしろ、この軽さが今の私には丁度いい……気がする」
私は青金の燃料(金麦)を煽り、偽りのラベルが貼られた空のコンテナを、次は「正しく」処理することを誓った。
⭐︎本日の兵站混乱報告⭐︎
• 予定: 豚バラ生姜焼き(高火力・脂質重点)
• 実際: 鶏胸肉生姜焼き(高タンパク・偽装疑惑)
• 原因: 過去の自分による「ラベリング・ミス」
• 戦果: 鶏肉でも金麦には合う、というデータの蓄積。




