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オオカミさんのプロポーズ  作者: 佳乃こはる


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2/2

幸せな日々

 イヤだ。

 そんなのはイヤだ。

 俺にはもう、心に決めた(ひと)が……!


「う、う、うわああぁっ!」


 自分の絶叫に驚き、彼はガバッと起き上がった。

と同時に、ベッドサイドの目覚まし時計が鳴り響く。


 午前5時。いつもの起床時刻だ。


 大神秋人の朝は早い。

 30歳になったのを機に始めたランニングのため、彼は近頃、いつもこの時間に起床することにしていた。


 ハアッ、ハアッ……。


 彼は、自分が肩で息をして、汗だくになっていることに気が付いた。


 どうやら、悪い夢を見ていたようだ。


 近頃の夢はいつも変だが、今日はまたいちだんと酷かった気がする。

 えーっと、確か……。


 思い出せない。

 まあいい、どうせまたいつものエロ妄想に違いない。(※『オオカミさんの恋煩い』三色)。

  

 社内若手の期待のホープ、出世街道まっしぐら、自他も認めるプレイボーイ。

 こと女性には絶対の自信を持つ彼だったが、あれは2年前のこと。

 不本意にも、課内一の役立たず、部下の赤野燈子に、うっかり“恋” をしてしまった。

 しかも情けないことに、手出しはおろか、想いすら告げられないでいる始末。


 でも待てよ? にしては反応が薄いよな。


 チラッと下に視線をうつし、自分の状態を確認した彼は、ふと首をかしげた。

 

 って、何やってんだ俺はぁっ!!

 

 近頃、彼女に関わる全ての行動が、すっかり三枚目と化してしまっている。

 彼はプルプルっと頭を振ると、ベッドを飛び降りて洗面台へとむかった。


 例え早朝ランニングであっても、彼は身だしなみに手を抜かない。


 顔を洗い、髭を剃って眉も整え、寝癖の強いボサボサヘアをきっちり固めてからでないと、人前には決して出ないのだ。


 トレーニング・ウェアを着こみ、玄関口にある全身鏡で頭の頂点から爪先までチェックして、彼はやっと玄関ドアを出た。


 エントランスを出ると、外はまだほの暗い。


 凍るような晩秋の早朝、冷えた空気にぶるっと身を震わせた。


 寒い、眠たい。面倒臭いしサボリたい。


 否!

 よい仕事の基本は、フットワークの軽さにある。


 パパンと頬を打って己を鼓舞すると、彼は一歩を踏み出した。


 いつものコースは折り返し地点の運動公園まで約3km、ハードロックを聞きながら、軽く流して約13分。


 5分と経たないうちに身体は寒さに馴れ、公園に着いた頃にはもう、すっかり暖まっている。


 ベンチに腰かけて一休み。

 ドリンクを飲みながら、朝焼けに染まる景色を見るともなく眺めていると、真っ白なプードル犬が視界に入ってきた。


 さらにそのリードの先には、清楚な雰囲気の妙齢の美人が。


(彼女、最近よく見かけるな)


 一昨日もその前の日も、いつもすぐ先の水のみ場近くで一休憩し、ワンコを遊ばせていたはずだ。


 もしかして、もしかすると。


 大神の経験上、これは自分に気がある兆候(サイン)だ。

 試しにチラッと視線を投げると、チラチラと向こうからも合図が返ってくる。


 よし! イける。


 大神はベンチを立つと、にこやかに彼女に近づいていく。


「やあ、最近よくお会いしま……」


 成せない恋の苦しみに蓋をして、彼が仮初めの恋へと逃避しようとした時だった。



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