プロローグ
オオカミさんの恋煩い からの続きです。
それが天災であれ、人災であれ。
災厄はいつも突然訪れる。
何らかの予兆はあるにせよ、それは一見何ら関係のなく、本人の預かり知らぬところで密かに進行するから、事前にキャッチして逃げを打つのは不可能に近い。
都内のわりと大きなメーカー、(株)三鷹ホールディングス本社の若き管理職、大神秋人業務課長の場合もまた然り。
何せそれは、全く彼が関係していない事情から始まったものだからーー。
*
深夜1時。
ここは、社長第一秘書、松嶋七緒のマンション。
またの名を、社長別宅。
シュッ、シュッ……。
最上階のクールなインテリアの落ち着いた空間に、規則正しい音が聞こえている。
ドレッサーに腰掛けて、部屋の主、七緒が熱心にネイルを磨いている音だ。
さっきまでの乱れなどまるでなかったかのように、彼女は静かに自分の爪先だけを見つめていた。
そのすぐ隣のベッドには、これまた少し前まで、あれほど情熱的に彼女に愛を注いでいたのとは別人のように、部下の報告書を眺める三鷹等社長。
今晩中にカタをつけるつもりなのか、彼は傍らに山ほど積まれたそれを熱心に読みふけっていた。
ふと、七緒が手を止め、彼を振り返った。
「ねぇ、社長?」
「何だい?松嶋くん」
「出来ちゃった♡」
「え……」




