9-4# 異世界でバーを開いたら魔王が入り浸っているんだが(エピローグ)
とある宿場町の一角に、新しく一軒のBARができた。町の外れにあるにもかかわらず、いつの間にか「隠れた名店」として噂が広まり、ひっそりと人気を集めている。落ち着いた空間で、美味しい酒と料理をゆっくり楽しめる――そんな品のある店だ。
店主は物腰の柔らかな青年。ピシッとしたスーツを着こなし、訪れた客に“ここでしか味わえない体験”を提供してくれると評判だった。
カラン――。
扉が開き、明るい店内へ好奇心に満ちた足音が近づく。
「いらっしゃいませ。お疲れ様です。」
シュウは自然な笑みで声をかけた。
入ってきたのは、背筋の伸びた男。黒いジャケットの銀ボタンが光り、わずかに伸びた無精ひげが精悍さを添えている。夜の光を映したような澄んだ瞳が印象的だった。
「マティーニを、――ステアじゃなくシェイクで。」
その響きに、シュウは一瞬だけ目を細めた。
軽やかにシェーカーを取り、氷を打つ音が店内に響く。クリアな音が店内に広がり、シュウの滑らかな手つきとともにリズムを刻む。
飾らない動作なのに、しかしそこに漂うのは明らかなプロフェッショナルの匂い。
「く~……かっこいいのぉ。」
低く感嘆する声が席に着いた男から漏れる。――ザクレトだった。
最近は007シリーズにどっぷり浸かっている彼は、シェイカーの流れるような動きに完全に心を奪われているようだった。
カウンターの中で、シュウは思わず小さく笑う。
氷がカチリとシェーカーに当たる音、液体が注がれる音、そしてグラスがカウンターに置かれる音――その一連の流れに、ザクレトは目を離せず、固唾を飲んで見守っていた。
「……さて、いただきますか。」
香りを吸い込み、一口、口に含む。
銀色の液体がきらめきながら唇をすべる。
「……うまい。」
ただ一言。だが、その表情にすべてが表れていた。
ほのかな甘み、苦み、香りの奥行き。それが舌の上でほどけ、旅の疲れをすっと拭い去っていく。
「気に入ってくれたようで。」
シュウが微笑むと、ザクレトは嬉しそうに頷いた。
ザクレトには、子供のような純粋な喜びがにじみ出ていた。
007ごっこも忘れ、ただ美味い酒を楽しむ――それが今、彼にとっての贅沢だった。
その様子を見ていた隣の客も、同じマティーニを頼む。
ザクレトは嬉しさを隠せず、その男に声をかけた。
「お主。旅の話、聞かせてくれよ。」
その言葉に、隣の男も笑った。
旅の疲れも、戦いの記憶も、ここではすべて溶けて消えていく。
静かな時間の中、グラスの中の透明な幸福だけが、彼らを包み込んでいた。
みなさん、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
人生で初めて、こんなに長い文章を書きました。読みづらいところもあったかもしれません、ごめんなさい。なるべく簡単に、わかりやすくを心掛けました。
もともとこの作品は、普段から、バーを巡ってお酒を飲むのが好きな私が、もっといろんな人に魅力が伝わればいいなと思って書いたものになります。
とあるバーテンダーの方と妄想話をしているうちに、先にタイトルが決まって、この小説を書きあげるに至りました。
本作を書きながら、いろんなお店で、たくさんの人とお酒に出会い、多くのインタビューをさせていただき、構想を練っていきました。
特に、池内脩祐様、山崎大輔様に多大なる感謝を申し上げます。
さて、シュウとザクレトのお話ですが、当初はここでおしまいの予定でした。ですが、物語を書き進めていくうちに、書きたいことが増えていき、練りに練ったアイデアもまだまだあります。なので、もう少しだけお話を進めていきたいと思います。私自身も楽しみです。
お仕事がお休みの時をメインに書いていきますので、今後もゆっくりと、もう少しだけお付き合いしてくだされば幸いです。
よろしくお願いいたします。




